見守り契約とは|任意後見が始まるまでの空白を埋める契約
10秒でわかる この記事の要約
- 任意後見契約は、公正証書で結んだだけでは動きません。家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます(任意後見契約に関する法律2条1号)。
- つまり、契約から発効までに空白の期間があります。数年から十数年になることもあります。
- その間に判断能力の低下へ気づき、家庭裁判所へ請求する人がいなければ、契約は眠ったままです。
- しかも、本人以外が請求するときは、原則としてあらかじめ本人の同意が必要です(同法4条3項)。発効を決めるのは家庭裁判所であって、受任者ではありません。
- 見守り契約は、この空白を埋めるために結ぶ契約です。法律に定めのない契約なので、内容は当事者で決めます。
- 決めておくのは頻度・方法・費用・受任者が異変を察知したときの動きの4つです。
任意後見契約を結んだ方から、こう聞かれることがあります。
「これで安心ですよね」
残念ながら、それだけでは足りません。
任意後見契約は、結んだ時点では効力が生じない仕組みになっているためです。
動き出すには、判断能力が不十分になったことに誰かが気づき、家庭裁判所へ請求する必要があります。
本記事では、その「気づく人」を用意しておく見守り契約について、任意後見の条文と照らしながら、行政書士の実務目線で整理します。
任意後見は、結んだだけでは動かない
まず、任意後見の仕組みを確認します。
任意後見契約に関する法律第2条第1号は、任意後見契約を「第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるもの」と定義しています。
効力の発生は、監督人が選任された時点です。
契約を結んだ時点ではありません。
では、その監督人はどう選ばれるのか。
同法第4条第1項は、任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるとき、家庭裁判所が本人・配偶者・四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により任意後見監督人を選任すると定めています。
つまり、誰かが請求しなければ始まりません。
ただし、請求すれば動くわけでもありません。
同法第4条第3項は、本人以外の者の請求により選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならないと定めています。
本人が意思を表示することができないときは、同意は不要です(同項ただし書)。
そして、選任するかどうかを最終的に決めるのは家庭裁判所です。
受任者や家族が「そろそろだ」と思った時点で発効するのではありません。
なお、契約自体は公正証書で作る必要があります(同法3条)。
手間もお金もかけて作ったのに、発効しないまま終わることがある。
これが、実務でいちばん見落とされている点です。
なお、成年後見制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律」が、令和8年6月24日に公布されています(法律第45号)。
成年後見制度に関する改正の施行日は、公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。
本記事の内容は、現行法にもとづく説明です(2026年8月時点)。
遺言作成サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
誰が「そろそろだ」と気づくのか
請求できる人は条文で決まっています。
本人、配偶者、四親等内の親族、そして任意後見受任者です。
ここで、現実の問題が出てきます。
| 状況 | 気づけるか |
|---|---|
| 同居の家族がいる | 気づきやすい |
| 子が遠方に住んでいる | 電話では分かりにくい |
| 配偶者も高齢 | 双方が同時に低下することがある |
| おひとりさま | 気づく人がいない |
受任者は請求できる立場ですが、会っていなければ気づけません。
年に一度の年賀状だけでは、判断能力の変化は分かりません。
私が相談を受ける中でも、「任意後見契約は5年前に結んだが、その後1度も会っていない」というケースは珍しくありません。
この状態では、契約書は引き出しの中の紙のままです。
見守り契約は、この「会う理由」を契約として作っておくものです。
なお、気づくのが遅れると、任意後見が動かないだけでは済みません。
判断能力が低下した後の贈与などは、契約そのものが有効かどうかを問われることがあります。認知症の診断があれば一律に無効になるわけではなく、その行為の内容と、行った時点の状態から個別に判断されます。関連解説(税理士法人トゥモローズ)「乳児・幼児、認知症の人の贈与契約って有効!?」もあわせてご確認ください。
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見守り契約に決まった型はない
「見守り契約」という契約類型が、法律に定められているわけではありません。
定期的な電話や訪問で生活の状況を確認する事務は、法律行為ではありません。
そのため民法第656条の準委任を中心に組み立てます(同条は、委任の規定を法律行為でない事務の委託に準用すると定めています)。
つまり、内容は当事者が決めます。
裏を返せば、書かなければ何も決まっていないということです。
最低限、次の4つは書いておいてください。
| 決めること | 実務での目安 |
|---|---|
| 頻度 | 電話は月1回、面談は3〜6か月に1回など |
| 方法 | 電話・訪問・オンラインのどれか。組み合わせも可 |
| 費用 | 月額か、1回ごとか。交通費の扱いも決める |
| 異変時の動き | 誰に連絡し、いつ家庭裁判所へ請求するか |
4つ目がいちばん抜けやすい項目です。
見守りの役割は、状況を把握して必要な支援につなぐこと全般です。
生活の変化、体調、支払いの滞り、不審な契約や送金まで含みます。
任意後見監督人の選任を申し立てるべきかの検討は、そのうちの一つです。
ここで注意していただきたいことがあります。
受任者は、判断能力の有無を決める立場ではありません。
家庭裁判所へ申し立てる際は、所定の診断書などを準備することになりますし、選任するかどうかを決めるのは家庭裁判所です。
受任者にできるのは、変化を記録し、家族や主治医、ケアマネジャーと共有して、申立ての要否を検討することまでです。
そのため契約書には、次のような目に見える事実を、検討を始める目安として書いておきます。
- 同じ請求書を二重に払う、公共料金や家賃の滞納が続く
- 見覚えのない契約や送金が増える
- 通帳や印鑑、重要書類を繰り返し紛失する
- 金融機関や介護事業者から心配する連絡が入る
- 主治医やケアマネジャーから判断能力の低下を指摘される
「医師の診断が出るまで何もしない」という書き方は避けてください。
診断にたどり着くまでが、いちばん時間のかかるところだからです。
なお、公正証書にする義務はありません。
ただし任意後見契約と同時に作るなら、まとめて公正証書にしておくほうが管理しやすくなります。
財産管理委任契約との違い
よく混同されるのが、財産管理委任契約です。
この2つは、目的がまったく違います。
| 見守り契約 | 財産管理委任契約 | |
|---|---|---|
| 目的 | 状況を把握し、発効の時期を判断する | 財産の管理を任せる |
| 代理権 | 原則として与えない | 範囲を定めて与える |
| 使う場面 | 判断能力はあるが、独居や遠方 | 体が不自由で手続きに行けない |
| 費用の目安 | 低い | 管理の範囲による |
純粋な見守り契約では、財産の管理や契約締結の代理権を与えないのが通常です。
だからこそ費用を抑えられますし、本人の自由も損ないません。
一方、通帳の管理まで頼みたいなら、財産管理委任契約が必要です。ただし契約書を作っても、金融機関の窓口は別に代理人の届出を求めます(銀行の代理人カードは認知症対策になるのか)。
ここで気をつけていただきたいのが、あいまいな上乗せです。
「ついでに書類を取ってきてもらう」「緊急時に立て替えてもらう」といった話は、見守り契約の付随業務として口頭で足されがちです。
代理して動いてもらうなら、財産管理委任契約として対象となる手続き・口座・上限額・報告の方法まで書き分けてください。書き分け方は財産管理委任契約とは|任せられる範囲の決め方と、金融機関で通らないことがある理由にまとめています。
3つの類型の使い分けは認知症に備える財産管理|任意後見・家族信託・財産管理委任の違いと選び方にまとめました。
なお、実務では見守り+任意後見の組み合わせが基本形です。
そこに、体の不自由が先に来そうなら財産管理委任を足す、という順で考えます。
契約は途中でやめられる
「一度結ぶと縛られるのでは」という心配をよく聞きます。
見守り契約は、当事者の合意で終わらせられます。
任意後見契約のほうにも、解除の規定があります。
任意後見契約に関する法律第9条第1項は、任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって解除できるとしています。
一方、同法第9条第2項は、監督人が選任された後については、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除できるとしています。
つまり、発効前なら比較的自由に、発効後は制限がかかります。
受任者が合わないと感じたら、発効前に見直してください。
見守り契約で定期的に会っていれば、その判断もできます。
ただし、見守り契約と任意後見契約は別の契約です。
片方をやめても、もう片方が自動的に終わるわけではありません。
どちらかを終了させたときに他方をどう扱うかは、契約書に書いておいてください。
なお、受任者が先に亡くなることもあります。
委任は、受任者の死亡によって終了します(民法653条1号)。
「予備の受任者」と書いておけば自動的に交代する、というものではありません。
複数の受任者を定めるのか、別の任意後見契約を用意しておくのか、法人を受任者にするのか。
公正証書を作る段階で、公証人と一緒に決めておいてください。
判断能力を失った後に受任者が亡くなると、契約を結び直すこと自体ができなくなります。
費用と、頼む相手の選び方
費用は、頻度と方法で決まります。
月1回の電話だけなら軽く、毎月の訪問を含めれば重くなります。
契約前に確認しておくべきなのは、金額そのものより内訳です。
次の3点は、書面で確かめてください。
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|
| 基本料金に何回分が含まれるか | 回数を超えた分の扱いが分かれる |
| 交通費・実費は別か | 訪問型では総額が変わる |
| 任意後見が発効した後の報酬 | 見守りの費用とは別に発生する |
3つ目について、補足します。
任意後見が発効すると、任意後見人の報酬とは別に、任意後見監督人の報酬がかかります。
この金額は当事者が決めるものではありません。
家庭裁判所が事情に応じて定め、本人の財産から支払われます(任意後見契約に関する法律7条4項が準用する民法862条)。
頼む相手については、条文上の制限も見ておいてください。
任意後見契約に関する法律第4条第1項ただし書は、任意後見受任者が一定の者にあたるときは監督人を選任しないと定めています。
そのうえで、よく聞かれるのが次の点です。
見守りと任意後見は、同じ人に頼むべきか。
| 頼み方 | 長所 | 弱いところ |
|---|---|---|
| 同じ人に頼む | 変化を続けて把握でき、そのまま申立てに動ける | いつ発効させるかを、報酬を受け取る側が自分で判断することになる |
| 別の人に頼む | 互いに見る目が働く | 情報の共有が遅れ、責任の所在があいまいになりやすい |
実務では、同じ人に頼むほうが動きは速くなります。
ただし、その場合は受任者だけで結論が出ない形にしておいてください。
本人が指定した家族や第三者への定期報告、面談記録の保存、主治医やケアマネジャーからの情報を得る道筋。
この3つを契約書に入れておけば、判断が一人に閉じません。
なお、私見ですが、契約書の作成より先にやるべきことがあります。
その相手と、実際に何度か会ってみることです。
10年以上の付き合いになる契約です。書面の条件より、続けられるかどうかが効いてきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族が近くにいても、見守り契約は必要ですか?
A. 必ずしも必要ではありません。同居の家族が状況を把握でき、家庭裁判所への請求にも動けるなら、契約がなくても回ります。遠方に住んでいる、家族も高齢である、判断を任せられる人がいないといった場合に検討してください。
Q2. 受任者は、どこまで立ち入ってくるのですか?
A. 見守り契約では代理権を与えないため、通帳や印鑑を預けることはありません。決めた頻度で連絡や面談を行い、状況を確認するだけです。立ち入る範囲が心配なら、契約書に確認する事項を具体的に書いておいてください。
Q3. 任意後見契約だけ先に結んで、見守りは後から追加できますか?
A. できます。任意後見契約は公正証書によりますが、見守り契約は法律上の様式の定めがないため、後から別に結ぶことも可能です。ただし、間が空くほど連絡が途絶えやすくなるため、同時に整えるほうが確実です。
Q4. 見守りをしてもらう間に入院したら、誰が手続きするのですか?
A. 見守り契約だけでは、入院の手続きや支払いの代行はできません。入院契約と費用の支払い、身元保証、医療行為への同意は、それぞれ別の話として整理する必要があります。とくに医療行為への同意は、財産管理の代理権があるからといって当然に代われるものではありません。同居の家族がいるかどうかで必要な備えが変わるため、契約を作る前に整理してください。
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まとめ
任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。
結んだだけでは動きません。
誰かが判断能力の低下に気づき、家庭裁判所へ請求して初めて始まります。
本人以外が請求するときは、原則として本人の同意が要りますし、選任するかどうかを決めるのは家庭裁判所です。
見守り契約は、その「気づく人」を用意しておく契約です。
法律に定型がないため、頻度・方法・費用・異変時の動きを自分たちで決めます。
特に、検討を始める目安になる具体的な事実を書いておいてください。
そして、契約書の条件より、その相手と続けられるかどうかを先に確かめてください。
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根拠法令・公的資料
- 任意後見契約に関する法律第2条第1号(任意後見契約の定義・監督人選任時から効力発生)
- 任意後見契約に関する法律第3条(公正証書によることを要する)
- 任意後見契約に関する法律第4条第1項(任意後見監督人の選任・請求権者とただし書の除外)
- 任意後見契約に関する法律第4条第3項(本人以外の請求には、あらかじめ本人の同意を要する。ただし本人が意思を表示できないときは不要)
- 任意後見契約に関する法律第7条第4項(民法862条を準用。監督人の報酬は家庭裁判所が定める)
- 任意後見契約に関する法律第9条(監督人選任前後で異なる解除の要件)
- 民法第643条(委任)・第651条(委任の解除)・第653条第1号(受任者の死亡による終了)
- 民法第656条(準委任。委任の規定を法律行為でない事務の委託に準用)
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号・令和8年6月24日公布)※成年後見制度に関する改正は、公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日に施行
