代償分割をわかりやすく徹底解説

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相続税申告

相続法

相続が発生したら、相続人の確定、遺産の評価、遺産分割協議、遺産の名義変更など様々な手続きをしなければなりません。
その中でも最重要な手続きが遺産分割協議でしょう。
遺産分割の方法は、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つの方法があります。

今回は、その中でも代償分割について、相続税の取り扱い、遺産分割協議書の書き方などをわかりやすく徹底解説します。

遺産分割協議書の書き方の詳しい説明は、相続財産の種類別で紹介|簡単に分かる遺産分割協議書の書き方をご参照ください。

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1. 代償分割とは?

代償分割とは、特定の相続人が特定の財産を取得した代りに代償財産を他の相続人に交付する方法です。

ちなみに、他の遺産分割の方法については、参考までに下記をご覧ください。

現物分割:遺産をそのままの状態で分割する方法で遺産分割の原則的な方法です。
換価分割:不動産や株式などの換金可能な遺産をそのまま相続するのではなく売却して現金にした後その現金を分けるという方法です。
共有分割:遺産を複数の相続人で共有で相続する方法です。

具体例を用いてそれぞれの分割方法について確認していきましょう。

被相続人 母
相続人 長男、二男
遺産 自宅不動産 1億円
遺産分割の方針 法定相続割合(1/2)で相続

代償分割

自宅不動産を長男(又は二男)がすべて取得して、長男から二男へ代償金5,000万円を支払う方法です。
結果的に長男も二男も5,000万円相当を相続したことになります。
長男:自宅不動産1億円 - 代償金5,000万円 = 5,000万円
二男:代償金5,000万円

換価分割

自宅不動産を1億円で売却してその売却代金を等分に分ける方法です。
税金や諸費用がかかった場合にはそれを差し引いた残額を二人で等分に分けます。
換価分割の詳しい説明は、換価分割をわかりやすく徹底解説をご参照下さい。

現物分割

自宅不動産をそのまま長男と二男が半分づつ取得します。
自宅不動産を分筆して筆ごとに長男、二男が相続する方法です。

共有分割

自宅不動産を長男と二男が各1/2の割合で共有取得する方法です。
この共有分割は後々兄弟で揉めることも多いので実務上は避けられることが多い方法です。
共有分割の詳しい解説は、共有分割をわかりやすく徹底解説をご参照下さい。

遺産分割調停や審判の現場では、現物分割⇒代償分割⇒換価分割⇒共有分割の順番で調整されます。
すなわち、代償分割は、現物分割ができない場合に採用される方法なのです。

例えば、分筆できないような土地のため現物分割ができない場合や非上場株式を後継者以外の相続人に渡せないような場合には代償分割が採用されることとなります。

2. 代償分割のメリット・デメリット

代償分割のメリットとデメリットを確認していきましょう。

メリット

■遺産をそのまま引き継げる
■相続税の節税になることがある
■所得税の節税になることがある

一つ一つ詳しく解説していきます。

■遺産をそのまま引き継げる

現物分割の場合には、自宅の土地を分筆して相続すると被相続人が所有していた状態でそのまま遺産を引き継ぐことはできません。
換価分割の場合には、遺産を換価してしまいますので遺産をそのまま引き継ぐことはできません。
これに対し、代償分割は、遺産をそのままの状態で引き継ぐことができるのです。
被相続人が大切にしていた財産や相続人の今後の生活に欠かすことのできない財産をそのままの状態で引き継げるというのは非常に大きなメリットです。

■相続税の節税になることがある

代償分割により、小規模宅地等の特例の適用を満たす相続人がその土地を取得すれば、他の分割方法に比べ効率的に小規模宅地等の特例が適用できて相続税の節税に繋がります。
小規模宅地等の特例の詳しい解説は、小規模宅地等の特例をわかりやすく解説。相続した土地にかかる相続税を最大80%減額をご参照下さい。

また、農地の納税の猶予や非上場株式の納税の猶予についても要件を満たす相続人がそれらの財産を取得することで相続税を圧縮することが可能です。

■所得税の節税になることがある

代償金を支払って取得した自宅を将来引っ越し等で売却するような場合に3,000万円のマイホーム特例の適用ができる可能性があります。
マイホーム特例の詳しい解説は、マイホーム(居住用財産)を売却したときの3,000万円特別控除を徹底解説をご参照下さい。

なお、代償分割と換価分割の相続税と所得税の有利不利の詳しい解説は、代償分割と換価分割 相続税や所得税の違いを徹底解説をご参照下さい。

デメリット

■代償金を準備する必要がある
■代償金をいくらに設定するかで争いになる
■所得税の負担が重くなる可能性がある

■代償金を準備する必要がある

代償分割になるということは遺産に金融資産が足りないことから代償分割の基因となった財産を取得した相続人が自身の固有財産から代償金を捻出しないといけません。
すなわち、自宅や非上場株式を相続する代りに他の相続人に対して身銭を切らないといけないのです。
相続したのに自身のキャッシュが減るっていうのは一番のデメリットですよね。
また、代償金をもらう相続人としても代償金が適切に支払われるかという問題もあります。
代償金を分割払いにしたけどその支払が滞ることもないことではありません。
過去の裁判例で代償金の債務不履行を理由に遺産分割協議の解除ができるかどうか争われた事例で遺産分割協議の解除が認められなかった事例も存在します。
遺産分割協議の解除ではなくあくまで債務不履行として争わなければならないので相手方に資力がなければ代償金をとりっぱぐれる可能性もあり得ます。

■代償金をいくらに設定するかで争いになる

実務上、よく問題になるのがこのデメリットです。
例えば、自宅不動産を長男が取得し、二男が長男から代償金をもらうケースを考えてみましょう。
自宅不動産の価値がいくらになるかによって代償金の金額が決まります。
長男にしてみれば自宅不動産の価値が低くなればなるほど嬉しいですが、二男にしてみれば自宅不動産の価値をできるだけ高くしたいのです。
不動産に絶対的な価値基準があれば問題ありませんが、不動産は一物四価とも言われていて、下記のような様々な評価方法があります。

○相続税評価額
○固定資産税評価額
○公示価格
○市場価格

一般的には市場価格を基に代償金を決めることが多いですが、実務上は相続税評価額や固定資産税評価額で決める人もいます。

このように、代償分割の基因となる財産の価値をどのように設定するかで相続人間で争いになることが代償分割の大きなデメリットです。

■所得税の負担が重くなる可能性がある

代償分割とすることにより相続税の取得費加算の特例が一部制限される可能性があるため所得税の負担が重くなることがあります。
相続税の取得費加算の特例の詳しい解説は、相続税の取得費加算の特例をわかりやすく徹底解説をご参照下さい。

また、代償財産は金銭だけとは限りません。代償財産として譲渡所得の基因となる財産(例えば土地とか株とか)を交付するとその時点でその利益について譲渡所得税の対象となります。

3. 遺産分割協議書の書き方

代償分割の遺産分割協議書の書き方は、下記の通りです。
下記赤字の部分が代償分割特有の表現となります。

遺産分割協議書

最後の住所  東京都江戸川区北小岩〇〇
最後の本籍  東京都江戸川区北小岩□□
登記簿上の住所  東京都江戸川区北小岩〇〇

 被相続人 ■■ (令和■年■月■日死亡)の遺産については、同人の相続人全員において分割協議を行った結果、各相続人がそれぞれ次の通り遺産を分割し、債務・葬式費用を負担することに決定した。

 

1. 相続人●●は、下記の不動産を取得する。

(1)土地
所在   ■市■区■
地番   ■番■
地目   宅地
地積   153.63㎡

(2)建物
所在   ■市■区■ ■番地■
家屋番号  ■番■
種類   居宅
構造   木造スレート葺2階建
床面積   1階 92.42㎡
      2階 40.23㎡

2. 相続人●●は、上記1の不動産を取得する代償として、金○○○円を相続人▲▲に令和○年○月○日までに相続人▲▲の指定する金融機関口座に振込送金する。

前記の通り相続人全員による遺産分割の協議が成立したので、これを証するための本書を作成し、以下に各自署名押印する。
なお、本協議書に記載なき遺産・債務並びに後日判明した遺産・債務は、相続人全員で別途協議して決めるものとする。

令和●年  月  日

住所 ■
相続人 ■

住所 ■
相続人 ■

住所 ■
相続人 ■

4. 代償分割と相続税

代償分割をした場合の各相続人の相続税の課税価格は下記の通りです。

■代償財産を交付した人:相続した財産の相続税評価額 - 交付した代償財産の価額
■代償財産を取得した人:相続した財産の相続税評価額 + 取得した代償財産の価額

代償財産の価額とは?

上記算式中の代償財産の価額とは、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の相続人に対して負担した債務の額の相続開始の時における金額をいいます。
また、代償分割の対象となった財産が特定されている場合において、その代償金の設定が時価をベースでされているときは一定の調整計算が可能です。

簡単に言うと実際に交付した代償財産の価額を控除するか、一定の調整計算をした金額を控除するかの二通りのバージョンが有るということです。

一定の調整計算とは、下記の算式により計算します。

具体例を使って確認していきましょう。

代償財産を交付した人:
課税価格=相続税評価額 - 代償金額 ✕(相続税評価額 ÷ 代償分割時の時価)
代償財産を取得した人:
課税価格=相続税評価額 + 代償金額 ✕(相続税評価額 ÷ 代償分割時の時価)

ちょっと複雑なので具体例を使って確認していきましょう。

①実際に交付した代償財産の価額を控除する方法

遺産:自宅不動産2億円(相続税評価額)のみ
相続人:長男、二男
遺産分割:長男が自宅不動産をすべて貰う代わりに二男に1億円の代償金を支払う。(代償金の設定は相続税評価額をベースに算出)
各人の相続税の課税価格:
□長男 自宅不動産2億円-代償財産1億円円=1億円円
□二男 代償財産1億円

②一定の調整計算をした金額を控除する方法

■小規模宅地の特例の適用がない場合

遺産:自宅不動産のみ(相続開始時の相続税評価額1億6,000万円、代償分割時の時価2億円)
相続人:長男、二男
遺産分割:長男が自宅不動産をすべて貰う代わりに二男に1億円の代償金を支払う。
各人の相続税の課税価格:
代償金の調整計算 代償金1億円✕相続税評価額1億6,000万円/不動産の時価2億円=8,000万円
□長男 相続税評価額1億6,000万円-調整計算後の代償金8,000万円=8,000万円
□二男 調整計算後の代償金8,000万円

■小規模宅地の特例の適用がある場合

遺産:自宅不動産のみ(相続開始時の相続税評価額1億6,000万円、小規模宅地の特例適用後の金額3,200万円、代償分割時の時価2億円)
相続人:長男、二男
遺産分割:長男が自宅不動産をすべて貰う代わりに二男に1億円の代償金を支払う。
各人の相続税の課税価格:
代償金の調整計算 代償金1億円✕相続税評価額1億6,000万円(小規模宅地の特例適用前の金額!)/不動産の時価2億円=8,000万円
□長男 小規模宅地の特例適用後の金額3,200万円-調整計算後の代償金8,000万円=▲4,800万円 ⇒ ゼロ
□二男 調整計算後の代償金8,000万円

小規模宅地の特例の適用がある土地が代償分割の対象財産のときの調整計算は、小規模宅地の特例適用前の金額を分子に持ってきます。
本ケースの場合には長男の課税価格がマイナスとなり代償分割にすることにより相続税の負担が重くなる可能性もあります。
本来なら長男と二男の課税価格の合計が3,200万円で済むところを代償分割にすることに長男の課税価格のマイナスがゼロカウントとなり二男の課税価格8,000万円で相続税が計算されてしまうことになるのです。

原則は上記のような取り扱いですが、非公開裁決事例(大阪国税不服審判所R3.12.13裁決)において、相続人間の合意により分子を小規模宅地の特例適用後の金額にした代償金の調整計算でも納税者の主張が認められたケースもあります。相続税の負担を不当に減少することを目的等としていなければ小規模宅地の特例適用後の金額を分子に持ってくる等の計算も認められる可能性はあります。

5. 代償分割と贈与税

代償分割により相続人自身の固有財産を他の相続人に交付するため贈与税が別途課税されるのではないかと心配される人もいますが、あくまで遺産分割の枠内の取引であるので贈与税は課税されませんので安心してください。

ただし、租税回避等を目的として代償分割の対象となった財産以上の金額の代償財産を交付してしまった場合には贈与税の対象になることもあり得ます。
例えば、自宅不動産の時価が5,000万円でそれを配偶者が取得して、配偶者がその代償金として長男に1億円を交付した場合には、明らかにおかしな取引です。
取得した自宅不動産の以上の代償金を支払うなんて通常の第三者との取引だとあり得ない取引なので時価と代償金との差額について贈与税が課税されるでしょう。

4. 代償分割と所得税

代償分割をした場合において、所得税が関係してくる論点は主に下記の論点です。

□代償分割をした場合の取得費加算の特例
□代償財産として金銭以外の譲渡所得の基因となる財産を交付した場合
□代償財産として取得した財産の取得費

■代償分割をした場合の取得費加算の特例

相続等により不動産等取得して、その代りに代償金を支払った場合において、その取得した不動産等を売却したときは、取得費加算の特例について下記の調整計算が必要です。

譲渡した財産の相続税評価額 - 支払代償金 ✕ 譲渡した財産の相続税評価額 /(その者の相続税の課税価格 + その者の債務控除額 + 支払代償金)

取得費加算の特例の詳しい解説は、相続税の取得費加算の特例をわかりやすく徹底解説をご参照下さい。

■代償財産として金銭以外の譲渡所得の基因となる財産を交付した場合

代償分割により相手方に交付する財産は、ほとんどの場合で金銭となりますが、金銭でなく譲渡所得の基因となる財産(不動産や株など)を交付する可能性もゼロではありません。
その場合には、その交付した財産につき譲渡所得税が課税される可能性があります。

この場合の譲渡所得の計算は下記算式により計算します。

譲渡収入 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除額

譲渡所得の詳しい解説は、土地建物を売ったときの税金(譲渡所得)の計算方法を徹底解説をご参照下さい。

①譲渡収入

譲渡収入の金額は、交付時のその財産の時価となります。

所得税基本通達33-1の5

遺産の代償分割(現物による遺産の分割に代え共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させる方法により行う遺産の分割をいう。以下同じ。)により負担した債務が資産の移転を要するものである場合において、その履行として当該資産の移転があったときは、その履行をした者は、その履行をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。

②取得費

取得費の金額には代償債務の金額を含めることはできません。
例えば、1,000円で購入した土地を代償分割で500円の金銭の代りに当該土地を交付した場合の取得費は購入したときの1,000円のみであり、代償債務500円は取得費を構成しません。
根拠は下記通達の(1)となります。

所得税基本通達38の7

遺産の代償分割に係る資産の取得費については、次による。

(1) 代償分割により負担した債務に相当する金額は、当該債務を負担した者が当該代償分割に係る相続により取得した資産の取得費には算入されない。

(2) 代償分割により債務を負担した者から当該債務の履行として取得した資産は、その履行があった時においてその時の価額により取得したこととなる。

また、この代償財産として交付した財産は相続人の固有財産であり相続等により取得した財産ではないため取得費加算の特例は適用できません。

③特別控除額

仮に、自身が居住していた財産を代償財産として交付した場合には、マイホームの3,000万円控除の特例の適用が可能ですが、交付先が配偶者、直系血族等の一定の親族等の場合には3,000万円控除の適用もできません。
マイホームの3,000万控除の詳しい解説は、マイホーム(居住用財産)を売却したときの3,000万円特別控除を徹底解説をご参照下さい。

■代償財産として取得した財産の取得費

代償財産として取得した財産が金銭ではなく不動産等の場合において、その取得した不動産等を将来売却するときの取得費が気になるところです。
その場合の取得費については、前述の所得税基本通達38の7の(2)に規定されています。

すなわち、前述の代償財産を交付した者の譲渡収入の金額と原則として同額となります。

代償分割をわかりやすく徹底解説の写真

この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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