遺産分割協議書で事実上の相続放棄を行う方法

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この記事の執筆者:大塚英司

埼玉県所沢市出身、東日本税理士法人、EY 税理士法人を経て、税理士法人トゥモローズ代表社員就任。相続に関する案件は、最新情報を駆使しながらクライアント目線を貫き徹底的な最適化を実現します。

こんにちは。
相続税専門の税理士法人トゥモローズです。

相続には、相続人が被相続人の財産と負債の全てを法的に放棄する「相続放棄」というものがあります。
相続放棄を行うためには家庭裁判所に相続放棄の申し立てなどの法的な手続きが必要です。

「どうしても相続放棄がしたくない」場合には、遺産分割協議書を利用して相続放棄と同様の効果を得ることができる「事実上の相続放棄」というものがあります。

ここでは、事実上の相続放棄の概要と注意点についてご紹介します。

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1.家庭裁判所での相続放棄と遺産分割協議書による事実上の相続放棄の違い

遺産を相続しないようにするためには2つの方法があります。
家庭裁判所への申し立てによる相続放棄と遺産分割協議書による事実上の相続放棄です。

どちらの方法も「相続をしない手続き」という点では共通していますが、法的な意味合いは大きく異なります。

相続放棄の意味

家庭裁判所への申し立てによる相続放棄は、被相続人の全ての財産を相続する権利を放棄することです。
全ての財産には預金や不動産だけではなく、借金や未払い金などの負債も含まれます。

相続放棄を行うと、はじめから相続人ではなかったものとみなされるため、他の相続人へ影響を与えることになります。

相続放棄をした場合の相続税申告については「相続放棄と相続税申告の関係を徹底解説!」で詳しく紹介しています。

遺産分割協議書による事実上の相続放棄の意味

遺産分割協議書による事実上の相続放棄とは、相続する権利は放棄せずに遺産分割協議書で「財産を相続しないこと」を他の相続人と合意することです。
ここでは、事実上の相続放棄と記載していますが「相続分の放棄」と捉えていただくと理解しやすいと思います。

事実上の相続放棄は、遺産分割協議で相続人全員に財産を相続しない旨を伝え、了承してもらえた後に遺産分割協議書を作成すれば成立する手続きになります。
ただし、借金などの債務については注意が必要です。

2.事実上の相続放棄のメリットとデメリット

家庭裁判所への申し立てによる相続放棄ではなく、遺産分割協議書による事実上の相続放棄を行う場合には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。

事実上の相続放棄のメリットとデメリット

メリット①家庭裁判所での手続きが必要ない

事実上の相続放棄は相続人の間での合意で成立する内部的な手続きになりますので、基本的には家庭裁判所での手続きは必要ありません。
ただし、遺産分割協議書ではなく、遺産分割調停などの家庭裁判所の手続き上で「相続分の放棄」を行う場合には、相続分放棄書を家庭裁判所に提出する必要があります。

また、相続放棄を行う場合は司法書士などの専門家に依頼しなければならないケースがほとんどですが、事実上の相続放棄は専門家への依頼は不要であるため、費用面でもメリットになるでしょう。

メリット②期限の定めがない

相続放棄は「原則、相続人であることを知ってから3か月以内」に家庭裁判所へ申し立てを行わなければなりませんが、事実上の相続放棄には期限の定めがありません。
ただし、相続税申告が必要になる場合には相続開始から10か月以内という期限があり、申告には遺産分割協議書の添付が必要になりますので注意が必要です。

メリット③相続人の順位が変わらない

相続放棄は「はじめから相続人ではなかったこと」になる手続きです。法的な相続放棄を行うと相続人の順位が変動することがあります。
例えば、相続人である全ての子が相続放棄を行うと、第二順位である父母、第二順位がいない場合は第三順位の兄弟姉妹に相続権が移ることになります。そのため、相続放棄を行う際には次順位の人へ確実に伝えておく必要があります。
一方、事実上の相続放棄は相続人の順位が変わらないため、次順位の人への報告は不要です。

メリット④生命保険・死亡退職金の非課税が適用できる

相続税の計算において、被相続人が死亡したことに起因する生命保険金・死亡退職金には「法定相続人の数×500万円」の非課税枠があります。
この計算式の法定相続人の数は「相続放棄がなかったもの」として考えますので、相続放棄と事実上の相続放棄のどちらとも違いはありません。
しかし、生命保険や死亡退職金の受取人が相続放棄または事実上の相続放棄を行うケースでは取り扱いが異なります。相続放棄を行った人が生命保険金または死亡退職金を受け取った場合、非課税枠の適用が一切ありません。
そのため、受け取った生命保険金または死亡保険金がそのまま相続税の課税対象になります。

一方、事実上の相続放棄では非課税枠を利用することができるため、相続税額を少なくすることが可能です。

生命保険金の非課税枠については「相続税申告と生命保険の関係をわかりやすく解説します」、死亡退職金については「死亡退職金が支給された場合の相続税申告をわかりやすく徹底解説」で詳しく紹介しています。

メリット⑤相次相続控除が適用できる

短い期間に続けて相続が発生すると、相続が発生するたびに同じ財産に相続税が課税されることになり相続税の負担が大きくなります。
このような短い期間に何度も相続が発生した場合には、相続税を軽減する「相次相続控除」が用意されています。

この相次相続控除を適用するためには「被相続人の相続人であること」が要件となっており、相続放棄を行った場合には相続人ではなくなるため、相次相続控除の適用を受けることができません。

一方、事実上の相続放棄では相続人であることには変わりありませんので相次相続控除の適用を受けることが可能です。

相次相続控除の詳しい説明は、相次相続控除をわかりやすく徹底解説をご参照ください。

デメリット①債権者に対抗できない

事実上の相続放棄の一番のデメリットは「債権者に対抗できない」ことです。
被相続人に借金などの負債がある場合、遺産分割協議書で「負債は引き継がない」と記載したとしても効果はありません。

遺産分割協議書はあくまでも相続人同士の合意であり、債権者には無関係であるためです。
相続放棄は財産・債務を全て放棄するのに対し、事実上の相続放棄を行ったとしても負債は引き継ぐことになってしまいますので注意しましょう。

デメリット②相続人全員で話し合いが必要になる

事実上の相続放棄は相続人全員で遺産分割協議を行い、合意を得る必要があります。
1人でも合意を得ることができなければ遺産分割協議は成立しないため、事実上の相続放棄を行うことはできません。

3.事実上の相続放棄をした方がいいケース

事実上の相続放棄は手続きが簡単である一方、債権者に対抗できないなどのデメリットがあります。
どういった状況の場合に事実上の相続放棄を選択した方がいいのでしょうか。

配偶者に全て相続させたい場合は事実上の相続放棄を選択した方がいい

相続人である配偶者に全て財産を相続させたい場合は、事実上の相続放棄を選択した方がスムーズに手続きが進みます。
例えば、相続人が配偶者と子1人だった場合で、子が配偶者に全ての財産を相続させたい場合はどうでしょうか。

このケースで子が家庭裁判所への申し立てによる相続放棄を行ってしまうと、相続権が次順位に移ってしまい配偶者と被相続人の父母が相続人になります。
そうなると、相続財産の法定相続分は配偶者2/3、父母1/3となってしまい、配偶者が全ての財産を相続できなくなってしまいます。
相続放棄は撤回することができないため、遺産分割協議で父母に配偶者へ全ての財産を相続させるように説得する必要がでてきます。
このケースは、法的な相続放棄ではなく、事実上の相続放棄を選択するべきだったケースだと言えるでしょう。

事実上の相続放棄がいい場合

自宅の価値を上回るローンがある場合は法的な相続放棄をした方がいい

主な相続財産が配偶者と住んでいた自宅であり、自宅の価値を上回るローンがある場合で配偶者に自宅を相続させたいケースでは、子が法的な相続放棄を行った方がいいケースが多いです。

このようなケースでは配偶者は連帯保証人になっているケースが多く、配偶者が相続放棄を行ってもローンの返済義務を免れることはできません。
一方、子については相続放棄を行わなければローンの返済義務を引き継ぐことになります。遺産分割協議書により事実上の相続放棄を行ったとしても負債は引き継ぐことになりますので、子がローンの返済義務を免れるためには法的な相続放棄が必要です。

4.事実上の相続放棄は慎重に

事実上の相続放棄は「遺産分割協議書により自分が相続人であることを認め、遺産を一切相続しないという行動」をとっていることになります。
これは「相続の単純承認」に該当します。相続の単純承認を行った場合は、それ以降、法的な相続放棄ができません。つまり「事実上の相続放棄を行った後に法的な相続放棄はできない」ことになります。
「相続財産に借金がないし、家庭裁判所に申し立てするのが面倒くさい」という理由で事実上の相続放棄を行い、その後に多額の借金が見つかった場合は大変なことになってしまうケースもあります。
事実上の相続放棄を行う際は、しっかりと相続財産を調査し、負債がないかどうかを慎重に確認して行う必要があります。

5.事実上の相続放棄を行う場合の遺産分割協議書の書式

事実上の相続放棄は「遺産分割協議書に遺産を相続しないこと」を示さなければなりません。
これは特に難しいことではなく、事実上の相続放棄を行う相続人以外の相続人が財産を取得する旨の遺産分割協議書を作成することが事実上の相続放棄となります。

以下の遺産分割協議書の書式では、配偶者(日本橋 花子)が財産の全てを引き継ぎ、子(日本橋 二郎)が事実上の相続放棄を行う場合のものになります。

遺産分割協議書の記載例

 

遺産分割協議書

 

被相続人 日本橋 一郎(昭和30年12月12日生まれ)
死亡日  令和3年12月6日
本籍地  東京都中央区日本橋○番地○
最終の住所地 東京都中央区日本橋○番地○

 

被相続人 日本橋 一郎(以下「被相続人」という。)の遺産相続につき、被相続人の妻 日本橋 花子(以下「甲」という。)、被相続人の長男 日本橋 二郎(以下「乙」という。)の相続人全員が遺産分割協議を行い、本日、下記のとおりに遺産分割の協議が成立した。

1.甲は、以下の遺産を取得する
 

(1)土地
   所  在   東京都中央区日本橋
   地  番   ○○番○○
   地  目   宅地
   地  積   ○○.○○平方メートル

 

(2)建物
所  在  東京都中央区日本橋
家屋番号  〇〇番〇
種  類  居宅
構  造  木造瓦葺2階建て
床面積   1階部分 〇平方メートル
      2階部分 〇平方メートル

 

(3)預貯金
〇〇銀行〇〇支店
普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇
口座名義人 〇〇〇〇

 

2.本遺産分割協議書に記載のない遺産及び本遺産分割の後に判明した遺産(負債も含む)については、甲が全て相続する。

 

以上のとおり、甲乙相続人全員による遺産分割協議が成立したことを証明するため、本協議書を2通作成し、甲乙相続人全員が署名押印のうえ、各1通ずつ所持する。

 

令和4年〇月〇日

 

住所 東京都中央区日本橋○番地○

生年月日     昭和35年7月6日

相続人甲(妻)日本橋 花子  実印

 

住所 東京都中央区日本橋○番地○

生年月日     昭和60年5月31日

相続人乙(長男)日本橋 二郎  実印

 

別の記事で「遺産分割協議書の書き方」「遺産分割協議書が無効にならないようにする書き方」について詳しく紹介しています。

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