生命保険金にかかる相続税 非課税枠と注意点を完全解説
生命保険金を受け取ってそのまま放置すると後々税務署から税金を払えと言われてしまう可能性があります。
生命保険金を受け取ったときには契約内容によりかかってくる税金の種類が違うのです。
亡くなった人が保険料を負担していた保険契約につき生命保険金を受け取った場合には、相続税の対象です。
ただし、生命保険金の全額に相続税がかかるわけではなく、「500万円✕法定相続人の数」の非課税枠が設けられています。
この非課税枠を使えるのは「相続人」だけです。相続人以外の人が生命保険金を受け取っても非課税枠は使えないので注意が必要です。
また、生命保険金は本来の遺産ではなく受取人の固有の財産となります。
すなわち、遺産分割の対象には含まれないのです。
今回は、生命保険金を受け取ったときの相続税についてわかりやすく解説します!
動画で知りたい人は下記YouTubeから、テキストで確認したい人はこのままスクロールして一番最後までお読みください!
目次
生命保険金は相続税の対象
亡くなった人が保険料を負担していた生命保険契約について、死亡したことにより生命保険金を受け取った場合には、その受取人に対して相続税がかかります。
では、どのくらいの相続税がかかるのでしょうか?
答えは単純ではなく、生命保険金の金額だけわかっても相続税がどのくらいかかるのかは計算できないのです。
なぜかというと相続税は、土地、建物、現金、預金、有価証券、生命保険金等の遺産の総額が判明しないと計算できない仕組みになっているためです。
また、相続税には基礎控除(3,000万円+600万✕相続人の数)という非課税枠が設けられていて遺産の総額が基礎控除以下であれば相続税は一切かかりません。
相続税の計算方法の詳しい解説は、相続税の計算方法ガイド【5ステップでわかりやすく解説】を参照してください。
生命保険金の非課税限度額(非課税枠)
生命保険金には前述の相続税の基礎控除とは別枠で「法定相続人×500万円」の非課税限度額(非課税枠)も用意されています。
したがって、仮に法定相続人が2名の場合には、相続税の基礎控除4,200万円(3,000万円+600万円✕2人)と生命保険金の非課税枠1,000万円(500万円✕2人)の合計5,200万円まで相続税がかからないこととなります。(もちろん5,200万円の中に生命保険金が1,000万円以上含まれていることが条件となりますが、、、)
この非課税枠でよくある勘違いが、「一人につき500万円までしか非課税にならない」と考えてしまうことです。
例えば、法定相続人が3人の場合を考えます。相続人A・B・Cのうち、Aのみが1,500万円の保険金の受取人になっていて、それ以外の相続人は保険金の受取人になっていなかったとします。この場合でも、生命保険金の非課税枠は1,500万円です。
相続人であれば、一人で「法定相続人の数×500万円」の最大まで非課税枠を使えるのです。
法定相続人の数をどのようにカウントすべきかも重要な論点です。
基本的には「法定相続人の数=民法上の相続人の数」となりますが、例外的な取扱も結構あります。
例えば、相続放棄があった場合には、民法上の相続人の数は一つ減りますが、法定相続人の数は減りません。
すなわち、法定相続人の数は相続放棄がなかったものとしてカウントするのです。
詳しくは、相続税の基礎控除 相続税はいくらまでなら無税なのか をご参照ください。
非課税枠の計算例
被相続人 父
相続人 長男、長女
生命保険金① 5,000万円(受取人長男)
生命保険金② 3,000万円(受取人長女)
非課税枠は500万円✕2(法定相続人の数)=1,000万円となります。
この1,000万円を生命保険金を受け取った割合で按分するのです。
相続人 | 生命保険金 | 非課税枠 | 課税対象額 |
長男 | 5,000万円 | 625万円 | 4,375万円 |
長女 | 3,000万円 | 375万円 | 2,625万円 |
保険金受取人が相続人以外の場合
相続人以外が、保険金受取人に指定されているケースもたまにあります。
保険金の受取人が相続人でないと非課税枠は使えないため、死亡保険金(生命保険金)の全額が相続税の対象となります。
保険金受取人と相続税の詳しい解説は、相続税における生命保険金(死亡保険金)と保険金受取人の関係を徹底解説をご参照ください。
保険金と一緒に振り込まれる配当金等も非課税枠が使える
生命保険金を請求すると配当金や前納保険料が死亡保険金と一緒に振り込まれることがあります。
一緒に振り込まれる配当金等にも非課税枠が使えます。
非課税枠が使える配当金等の詳しい解説は、相続税が非課税になる生命保険金(死亡保険金)と一緒に振り込まれるものをご覧ください。
特約還付金等は非課税枠が使えない!
生命保険金と一緒に振り込まれるものでも非課税枠が使えないものも存在します。
非課税枠が使えない主な振込は下記の3つです。
①特約還付金
②生存保険金
③入院給付金
①特約還付金
特約還付金とはかんぽ生命で保険契約がある場合に入金されることのあるものですが、主契約とは別の特約にかかる保険料について、主契約部分の消滅に伴い返還される特約保険料の積立部分となります。
純粋な死亡保険金とは異なるため本来の遺産として相続税の対象となり生命保険金の非課税枠が使用できません。
②生存保険金
生存保険金とは例えば●歳まで生きたときに支払われる保険金であり、生存保険金も死亡保険金と一緒に振り込まれることがあります。
生存保険金は死亡保険金と異なり死亡を基因として支払われるものではないため本来の遺産として相続税の対象となり生命保険金の非課税枠が使用できません。
③入院給付金
入院給付金とは、入院したことにより支払われる給付金であり、死亡保険金と一緒に振り込まれることがあります。
入院給付金は死亡保険金と異なり死亡を基因として支払われるものではないため本来の遺産として相続税の対象となり生命保険金の非課税枠が使用できません。
非課税枠が使えない特約還付金等の詳しい解説は、相続税が非課税になる生命保険金(死亡保険金)と一緒に振り込まれるものをご覧ください。
相続税を節税するためには、誰が保険金を受け取るのがベストか
死亡保険金の受取人を誰にするかによって、相続税の金額が変わることも多々あります。
生前のうちにどのように相続税がかかるのかを確認し、できるだけ税負担の少ないこととなる受取人に見直すことも重要な相続税を節税する方法のひとつです。
配偶者が受け取る場合
被相続人の配偶者は法定相続人であるため、生命保険の非課税枠が適用可能です。
ただし、配偶者の場合には、「配偶者控除」という、「1億6,000万円と配偶者の法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかからない」という特例も別途存在するのです。
※相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)で税額を抑える方法【注意点も合わせて解説】
したがって、生命保険金の受取人を配偶者にすると非課税枠の効果が薄れてしまうので、相続税の節税という観点からは配偶者を受取人とすることは最も有利なケースとはなりません。
もちろん相続税の節税だけで受取人を決めるわけではなく、いままで長年連れ添ってくれた思いも込めて受取人を決めることもありますので、様々な要素から受取人を決めていただければと思います。
被相続人の子が受け取る場合
被相続人の子は、法定相続人に該当しますので、生命保険金の非課税枠の適用があります。配偶者控除のような特例もありませんので、相続税の節税の観点からは子を受取人とすることが最も有利な選択となるでしょう。
相続人以外が受け取る場合
被相続人の孫など相続人以外が保険金の受取人となっているケースもたまにあります。
このようなケースは、下記2つの観点から相続税上は不利となります。
- 生命保険の非課税枠が使えない
- 2割加算の適用がある
まず、生命保険の非課税枠は、被相続人の法定相続人にのみ許される規定です。また、法定相続人でないということは被相続人の一親等の血族に該当しない可能性も高いです。その場合には、相続税が20%増しとなる、2割加算の対象にもなってしまいます。
相続税の2割加算については、相続税の2割加算について徹底解説!をご覧ください。
節税のつもりが、結果として相続税を多く支払ってしまうことになったパターン
私が以前携わった案件で、お祖父様が孫に毎年500万円の生前贈与をしていました。孫は相続人に該当しないから、3年以内の贈与でも相続税の対象とならないと判断して、子ではなく孫に贈与をしていたのです。
その後、そのお祖父様がお亡くなりになって、相続人様が私のところに相談に来られました。
資料を確認したら生命保険がありまして、その受取人を確認したところ、驚きました。受取人が毎年相続税の節税のために贈与をしていた孫となっていたのです。
これも相続税の世代飛ばしをしようとお祖父様が考えた施策だったのですが、これでは逆効果です。なぜかというと、相続人以外が生命保険の受取人になってしまうと、その孫も「相続又は遺贈により財産を取得した者」に該当し、亡くなる前3年以内の贈与を相続財産に加算しないといけないからです。
相続財産が1,500万円も増加し、孫の受け取る生命保険は非課税枠が使えず、さらに、孫には2割の相続税が上乗せされるという、まさに泣きっ面に蜂状態でした。
このようなことがないように、生命保険の営業の人の話だけでなく相続税のプロの税理士にも事前に相談するようにしましょう。
■関連記事:相続税の計算方法ガイド【5ステップでわかりやすく解説】
相続税申告書に添付する書類
生命保険金が相続財産に計上されているときに相続税申告書には、下記の書類を添付します。
■保険証券等の契約内容の分かる書類
生命保険金の支払通知書は請求後保険会社から郵送で送られてきますのでこの書類は捨てずにとっておきましょう。
保険証券については請求時に保険会社に提出してしまいますのでコピーを撮っておいたほうが良いでしょう。
仮に保険証券をコピーを撮らずに提出してしまってもそれ以外で契約内容のお知らせ等の保険契約内容の分かる書類でも大丈夫です。
相続税申告の添付資料や必要資料の詳しい解説は、相続税申告の必要資料・添付書類一覧【チェックリストダウンロード可能】をご参照ください。
生命保険金にかかる税金の種類
1.相続税の対象となる生命保険金
相続税の申告において、生命保険が関係するパターンは、被相続人が保険料を負担しているケースのみです。それ以外のケースでは相続税は一切出てきません。
表にすると、以下のようなパターンが対象となります。
保険料の負担者 | 被保険者 | 保険受取人 |
被相続人 | 被相続人 | 相続人 |
被相続人 | 相続人 | 被相続人 |
一番オーソドックス(普通)なのは、被保険者と保険料の負担者が一緒であるパターンです(一段目)。
いわゆる、死亡保険金が支払われることなるパターンです。
前述の通り、500万円✕法定相続人の数の非課税枠が用意されています。
一方で、被相続人が被保険者ではないものの、その保険契約の保険料を負担しているケースが実務上良く出てきます(二段目)。このパターンは、被相続人の死亡が支払事由とはなっていないため、死亡保険金は支払われません。
しかし、この場合も生命保険金は立派に相続財産となります。なぜなら、被相続人が保険料を支払っているためです。これが許されてしまうと、相続税の租税回避がいくらでもできてしまいます。
相続財産には、「相続開始時点の解約返戻金額」で計上します。この金額は、生命保険会社に問い合わせることで証明書等を発行してもらえます。
なお、解約返戻金以外に支払われる前納保険料や配当金等がある場合にはこれらの金額も評価の対象となりますのでご注意ください。また、解約返戻金につき源泉徴収される所得税がある場合にはその所得税相当を控除することができます。
実務でよくある漏れやすいケース
実務で漏れやすいパターンは、下記のような契約者と保険料負担者が別人の場合です。
契約者 | 保険料の負担者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
相続人 | 被相続人 | 相続人 | 被相続人 |
この場合の被保険者が死亡したわけではないので死亡保険金は支払われません。また、被相続人が契約者ではないので遺産分割の対象とはならず、この生命保険契約は、契約者固有の財産となります。
しかし、被相続人が保険料を負担しているため、「みなし相続財産」に該当し、相続税の対象となります。前述の死亡保険金もみなし相続財産に該当し、非課税枠も用意されていますが、このパターンのみなし相続財産の場合には非課税枠はありませんので注意が必要です。同じみなし相続財産でも取り扱いは全然違うのです。
実際の案件では、この保険契約のパターンが一番漏れやすいです。詳しくは、契約者と保険料負担者が異なる保険契約(名義保険)の徹底解説!を参照してください。
特に名義預金(名義は被相続人ではないが、実質的には被相続人の相続財産に含めるべき預金口座)が絡んでくると、被相続人名義以外の名義の預金口座から保険料が振り込まれており、このパターンには該当しないと判断してしまうことも多々あります。実際は、名義預金から保険料が支払われているなら、それは相続財産に含めることになるのです。
2.所得税・贈与税の対象となる生命保険金
生命保険金(死亡保険金)を受け取った際、相続税ではなく、所得税や贈与税がかかるパターンがあります。
表にすると、以下のようなパターンです。
①所得税
保険料の負担者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
相続人 | 被相続人 | 相続人 |
保険料の負担者と、保険金の受取人が同じ場合、つまり「払っている人と受け取る人が同じ場合」は、所得税がかかってきます。
この場合の所得税は一時所得となり、「(死亡保険金-払込保険料総額-特別控除額50万円)×1/2×所得税率」で計算します。
②贈与税
保険料の負担者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
相続人A | 被相続人 | 相続人B |
被保険者・保険料の負担者・保険金受取人が全員違う場合には、贈与税がかかってきます。すなわち、相続人Aから相続人Bに対する贈与です。
この場合、贈与税を負担するのは、保険金を受け取った相続人Bとなります。
3.税金がかからない生命保険金
契約者 | 保険料の負担者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
被相続人 | 相続人 | 相続人 | 被相続人 |
上のケースでは、被相続人が死亡しても、被保険者が死亡したわけではないため、課税関係は発生しません。契約者と保険金受取人の変更手続きを行うだけです。
生命保険の税金以外の注意点!
生命保険金は遺産分割の対象にはならない(みなし相続財産)
生命保険金は、遺産分割の対象となりませんが、相続税法上は遺産とみなされ相続税がかかります。これをみなし相続財産といいます。
遺産でない生命保険金を遺産分割してしまって受取人以外の相続人が取得してしまうと相続税以外に贈与税もかかってくる可能性があるため要注意です。
みなし相続財産についての詳しい解説は、みなし相続財産とは? わかりやすく徹底解説を参照してください。
生命保険金は相続放棄をしても受け取れる
前述の通り、生命保険金は遺産ではありません。
したがって、生命保険金の受取人になっていれば相続放棄をして相続人でなくなったとしても受け取ることができるのです。
生命保険金は特別受益・遺留分侵害の対象にならない
生命保険金は原則として特別受益や遺留分侵害の対象にはなりません。
なぜなら遺産ではなく受取人の固有財産であるためです。
ただし、生前に財産の大半を生命保険金に組み替えてしまって特定の相続人を受取人とした場合には特別受益に該当し、また、遺留分を侵害してしまう可能性もあるため注意が必要です。
特別受益の詳しい解説は、下記コラムをご参照ください。
特別受益をわかりやすく徹底解説
特別受益の持ち戻し免除をわかりやすく徹底解説
遺留分の詳しい解説は、下記コラムをご参照ください。
遺留分 わかりやすく徹底解説!
遺留分侵害額請求がされている場合の相続税申告をパターン別に徹底解説
保険金受取人が死亡している場合はその保険金受取人の相続人が取得する
被保険者死亡時に既に保険金受取人が死亡している場合には保険金を受け取る人がいなくなってしまいます。
その場合にはその死亡した保険金受取人の相続人がその受け取る権利を取得します。
受け取る割合は法定相続分ではなく均等受け取りとすることが原則です。
詳しい解説は、かんぽ生命で保険金受取人がいない場合、先に死亡している場合をご参照ください。
まとめ
生命保険金についてポイントをまとめると下記の通りです。
・亡くなった人が保険料を負担してた生命保険契約の生命保険金を受け取った場合には相続税の対象
・生命保険金には500万円✕法定相続人の数の非課税枠がある
・亡くなった人が被保険者でない保険契約は解約返戻金相当額が相続税の対象になるケースも
・保険契約内容によっては相続税以外の税金の対象となることもある。
・生命保険金は本来の遺産ではないため遺産分割の対象にはならない。
生命保険金を受け取って税金の取り扱いに迷ったら是非税理士にご相談下さい。
相続税の申告手続き、トゥモローズにお任せください
相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
税理士法人トゥモローズでは、豊富な申告実績を持った相続専門の税理士が、お客様のご都合に合わせた適切な申告手続きを行います。
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