死亡前後に預金を引き出した場合の相続税申告と遺産分割

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この記事の執筆者:角田 壮平

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

亡くなる直前や直後に預金を引き出してしまった人から下記のような質問をよーく受けます。

□亡くなる直前に多額の預金を引き出してしまったのだけど脱税になってしまうの?
□預金を引き出した場合に相続税申告にどのように反映すればいいのか?
□引き出してしまった預金の遺産分割はどうなってしまうのか?
□亡くなった後に口座が凍結される前に勝手に預金を引き出したら犯罪になるの?

結論を申し上げると、
亡くなる前でも後でも引き出した預金を適切に申告したり、遺産分割に適切に含めていれば脱税にも犯罪にもなりません!

ただし、引き出した預金を故意に隠したりすると脱税や遺産分割においてトラブルになることは必至です。

悪気がなくて引き出してしまった場合には正直に税務署に申告し、相続人にも共有するようにしましょう。

このコラムでは死亡前後に預金を引き出してしまった場合の相続税申告と遺産分割についてわかりやすく解説します。

動画で知りたい人は下記YouTubeから、テキストで確認したい人はこのままスクロールして一番最後までお読みください!

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1. 亡くなる前後に預金の引き出しをしてしまう主な理由

私が今まで担当した相続の案件で死亡前後に預金を引き出していた案件の割合は肌感覚で50%以上あると思います。
その理由も様々ですが10年以上相続の現場を見てきた税理士の目線から主な理由を列挙したいと思います。

(1)口座が凍結されて葬式費用等の支払いができなくなったら困るため
(2)被相続人から引き出しておいてと頼まれたため
(3)預金を減らしておけば相続税の節税になると思ったため
(4)遺産を隠して自分の取り分を多くしたいため

(1)口座が凍結されて葬式費用等の支払いができなくなったら困るため

この理由が一番多い理由です。
亡くなってしまったら自動的に口座が凍結されてしまうと思っている人が多い証拠ですね。
金融機関は役所ではないので相当著名な方でない限り亡くなったことを把握することはできません。
したがって、亡くなっても自動で凍結されないことがほとんどです。

凍結されるきっかけは、相続人が金融機関に報告したり、残高証明書の発行依頼をしたときです。

でもそんなことは相続の経験のない一般の人は知りません。
なので凍結されて預金が使えなくなると葬式費用や日々の生活費が払えなくなってしまうという理由で預金を引き出すのです。

(2)被相続人から引き出しておいてと頼まれたため

被相続人から頼まれて預金を引き出したというケースも結構あります。
被相続人が引き出した現金が必要な理由は様々ですが、今までお世話になった人に配りたかったという理由やいざという時のために自分の目の届くところに現金を置いておきたいという理由もありました。

(3)預金を減らしておけば相続税の節税になると思ったため

レアケースですが、相続税の節税になるからといって預金を引き出している人もいました。
しかしこれは節税ではなく脱税です。

亡くなる前に預金を引き出してもそれを手元現金として相続税申告に含めていれば全く問題ありませんが、引き出した現金を故意に相続税申告に含めなければ立派な脱税なのです。

(4)遺産を隠して自分の取り分を多くしたいため

亡くなる前後に被相続人や他の相続人に内緒で預金を引き出してしまった相続人もいました。
自分の取り分を少しでも多くしたいための手法だと思いますが、通帳を見れば一発でバレてしまいます。

このようなことをやってしまうと遺産分割の前に不当利得返還請求や損害賠償請求といった別の争いをしないといけなくなるため余計遺産分割が長期化してしまいます。

預金を引き出すこと自体は悪いことではないのでちゃんと遺産に戻すようにしましょう。

2. 相続税申告

相続税申告において預金の引き出しで論点になるのがほとんどのケースで亡くなる直前の引き出しです。

(1)亡くなる直前の引き出し

亡くなる直前に引き出した預金は、手許(てもと)現金として下記の金額を相続税申告に含めれば問題ありません。

引き出した預金 - 死亡時点までに費消した金額

「引き出した預金」は通帳を見れば一目瞭然です。通帳の引き出した金額をすべて集計しましょう。
「死亡時点までに費消した金額」とは、死亡時までに被相続人や家族のために使った生活費、医療費、介護費、税金、保険料等の費用になります。
この費消した金額を集計するのが結構大変なのです。

領収書等を整理して出納帳等を作成したほうが良いでしょう。

なお、手許現金の計算における「死亡時点までの費消した金額」には、死亡の葬式費用や被相続人医療費等は含まれませんので注意してください。
そうるすと死亡後の葬式費用や被相続人の医療費等は相続財産からマイナスできないことになってしまうではないか?
と思うかもしれませんが、
手許現金からマイナスするのではなく、相続税の計算上、「債務控除」として財産からマイナスすることができます。
債務控除、葬式費用の詳しい解説は、【相続税申告】債務控除をわかりやすく徹底解説葬式費用で相続税の節税! 項目ごとに控除可否を一覧表示をご参照ください。

亡くなる直前っていつまで遡るのか?

亡くなる直前に引き出した預金っていつ頃まで遡る必要があるのかという質問を結構な割合で受けますが、特に決まりはありません。

手許現金を構成する亡くなる直前の引き出しは亡くなる前の数カ月間のことが多いですが、案件によっては3年位かけてちょこちょこ引き出してタンス預金としていたケースもありました。

引き出している期間に応じて適切に集計すれば大丈夫です。

ちなみに、トゥモローズで相続税申告をする場合には過去6年程度の預金通帳を精査して、引き出している預金がないかどうか確認します。

亡くなる直前の引き出しを故意に隠して税務署から見つかってしまったら重いペナルティの対象に!!

亡くなる直前の引き出しを手許現金として適切に相続税申告に含めていれば全く問題はないのですが、手許現金が相続税申告に反映されていなかった場合にはどうなってしまうのか?

故意に隠したかどうかでペナルティの種類が変わります。

故意でなくうっかりミス 故意に隠した確信犯
ペナルティの種類 過少申告加算税 重加算税
税率 10%~15% 35%~45%

仮に1,000万円の手許現金が漏れてしまっていたとします。
相続税率が40%だったとすると追加の相続税が400万円がまずはかかります。(これは最初に適切に申告していてもかかる税金です)
後から申告することでかかる税金がペナルティなのです。

うっかりミスの場合の過少申告加算税は40万円(400万円✕10%)
故意に隠した場合の無申告加算税は140万円(400万円✕35%)

故意に隠してしまった場合には非常に思いペナルティになるので最初から適切に申告するようにしましょう!

手許現金の詳しい解説は、【相続税申告】手許現金(直前引出、タンス預金等)の評価を徹底解説を参照してください。

(2)亡くなった後の引き出し

亡くなった後の引き出しが相続税申告で問題となることはほとんどありません。
理由としては、相続税申告では亡くなった日時点の残高を相続財産として計上するからです。
したがって、亡くなった後に引き出した預金は残高証明書の預金残高に含まれているため財産として漏れることがないのです。

相続税申告で唯一論点となるとすると先程ご説明した債務控除、葬式費用についてくらいです。

亡くなった後に引き出した預金で葬式費用や被相続人にかかる費用を負担した場合には相続財産からマイナスできます。
債務控除、葬式費用は相続税の節税につながるため忘れずにマイナスするようにしましょう。

3. 遺産分割

相続税申告と異なり遺産分割は死亡前の引き出しだけでなく死亡後の引き出しも問題になることが多いです。

何故かというと遺産分割は死亡時の残高ではなく原則として遺産分割時の残高で遺産を分けるためです。
となると死亡時から遺産分割時までの預金の引き出しも重要になってくるのです。

なお、なぜ「原則として」と記載したかについては平成30年の民法改正の論点があるからです。詳しい解説は、後述します。

また、他の相続人に無断で預金引き出しをしてしまうと遺産分割でトラブルになることが多いです。
引き出す必要がある場合には事前に他の相続人に相談するようにして引き出した理由や引き出した現金の使徒等は明確にしておくようにしましょう。

(1)相続人が預金を勝手に引き出して隠した場合

相続人が他の相続人に内緒で死亡前後に被相続人の預金を勝手に引き出して、それを自分の口座に移し替えたり、現金として隠した場合には何かの罪になるのでしょうか?

法は家庭に入らずという大原則があるため、特定の相続人が遺産を隠したとして警察に通報しても介入してもらえないことがほとんどでしょう。
この考え方の元となっているの刑法に規定されているが親族相盗例というものです。

それだと隠したもの勝ちじゃないかと思われるかもしれませんが、隠した人は刑法上の罪には問われませんが、民事で「不当利得返還請求」や「損害賠償請求」をすることにより公平な遺産分割を実現することとなります。

したがって、隠したとしても最終的には他の相続人からの信頼を損なうだけで隠した相続人は得をすることはないのです。

(2)相続人が預金を勝手に引き出して使い込んでしまった場合

被相続人の預金を引き出して隠したのではなく、相続人が使い込んでしまって遺産分割時に実際に残っていなかった場合は罪になるのでしょうか?

これも隠した場合と同様に刑法上の罪にはなりません。

使い込んでしまった金額を「不当利得返還請求」や「損害賠償請求」で取り戻すこととなります。

(3)死亡後の引き出しは遺産分割の対象になる(民法改正)

預金の遺産分割は、死亡時でなく遺産分割時に残っている預金残高で遺産分割をするのが原則です。
したがって、特定の相続人が他の相続人に黙って遺産分割前に預金を引き出していたとしてもその引き出された預金は遺産分割の対象にならなかったのです。

そのような不公平な状況を見直す意味で平成30年に民法が改正されました。

共同相続人全員(引き出した相続人は除く)の同意によって遺産分割前に預金が引き出されてもその引き出された預金を遺産分割の対象に含めるという改正です。

したがって、遺産分割前に預金が引き出されたとしても公平な遺産分割が可能となりました。

(4)死亡後の預金の仮払制度創設(民法改正)

平成30年の民法改正で凍結された預金を遺産分割前に一部払い戻しができるようになりました。

払い戻しができる金額は、下記のいずれか低い金額です。

□死亡時の預金額 ✕ 1/3 ✕ 払い戻しを行う相続人の法定相続分
□150万円

上記の計算は同一の金融機関ごとに行えます。

したがって、金融機関が3つあれば、最大で450万円までは払い戻しが可能なのです。

この制度に必要な書類は、下記となります。

□被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
□相続人全員の戸籍謄本
□払い戻しを行う相続人の印鑑証明書

4. まとめ

死亡前後の預金引き出しの重要論点をまとめると下記の通りです。

相続税申告:死亡前に引き出した預金は、手許現金として相続財産を構成
遺産分割:遺産分割前に引き出した預金は、遺産に含めて遺産分割の対象

なお、死亡前後の預金の引き出しは、相続税申告と遺産分割の両方の観点からトラブルになることが多いです。
死亡後すぐに預金が凍結されることはないので多額の預金引き出しは避けたほうが良いでしょう。

既に引き出してしまった人は、

・引き出した理由を明確にしておく
・引き出した預金の使徒を明確にしておく

を徹底しましょう。

引き出された方の相続人は説明なく預金を引き出されていると疑心暗鬼に陥ります。
そのような状況で引き出した相続人が財産目録を作成したとしても「なにか漏れているんじゃないか」、「金額に誤りがあるんじゃないか」等の思いがあり信頼してもらいません。

相続税申告や遺産分割でトラブルにならないためには税理士に依頼して第三者に財産目録を作成してもらったほうが良いでしょう。

相続税の申告手続き、トゥモローズにお任せください

相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。

また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。

税理士法人トゥモローズでは、豊富な申告実績を持った相続専門の税理士が、お客様のご都合に合わせた適切な申告手続きを行います。

初回面談は無料ですので、ぜひ一度お問い合わせください。

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