海外資産相続の注意点:二重課税リスク・プロベート対策を徹底解説

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国際相続

10秒でわかる この記事の要約
– 海外資産にも日本の相続税が課税されるため、二重課税を回避する外国税額控除の適用が重要
– 国によって相続法や手続きが異なり、特にプロベート制度により手続きが複雑化・長期化する
– 海外不動産の相続登記は現地法に従った手続きが必要で、必要書類の準備が困難
– 国際相続では書類の収集・翻訳・認証に時間がかかり、アポスティーユ等の手続きが必要
– 為替変動により相続税額が変動し、海外送金時の手数料や為替リスクに注意が必要

グローバル化により海外資産を保有する日本人が増加していますが、海外資産の相続は国内財産の相続と比較して複雑で注意すべき点が多数存在します。

準拠法の判定、プロベート制度、二重課税、国際相続特有の手続きなど、事前に理解しておかなければ思わぬトラブルや税務上の不利益を被る可能性があります

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目次

1. 海外資産にも課される相続税と二重課税リスク

日本の相続税の課税範囲

海外資産であっても日本の相続税の課税対象となる場合があります。
日本に居住する日本人の相続では、海外資産も日本の相続税の対象となるケースがほとんどです。

大切な部分なので少し詳しく相続税の納税義務について確認していきましょう。
相続税の納税義務の判定は下記の表に基づき行います。

相続税納税義務者

グレーハイライト部分が無制限納税義務者といい、国内財産、国外財産の両方とも相続税の対象となります。
ホワイトハイライト部分が制限納税義務者といい、国内財産のみ相続税の対象となります。

まとめると下記の通りです。

納税義務者の区分 国内財産 国外財産
無制限納税義務者 課税 課税
制限納税義務者 課税 対象外

すなわち、無制限納税義務者(日本居住の日本人)については、海外資産も日本の相続税の対象となるのです。

海外資産がある場合の納税義務の判定についての詳しい解説は、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!をご参照ください。

制限納税義務者の相続税申告の留意点については、相続人が制限納税義務者である場合の相続税申告の注意点まとめをご参照ください。

国内財産、国外財産の判定は、【国際相続】国内財産、国外財産の判定をわかりやすく徹底解説をご参照ください。

二重課税の問題

海外資産の相続では、日本と海外の両方で相続税が課される二重課税のリスクがあります。

例えば、日本居住者がアメリカの不動産を相続した場合に、同じ不動産について下記のような二重課税が発生する可能性があるのです。

アメリカで遺産税が課される
日本でも相続税が課される
【相続税と類似した制度がある主な国】
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、韓国、台湾など

外国税額控除制度による二重課税回避

二重課税を防ぐため、外国税額控除制度が設けられています。

外国税額控除の金額は、以下の(1)と(2)のいずれか少ない金額となります。

(1)外国で支払った相続税額※1
(2)日本の相続税※2 × (国外財産の価額※3 ÷ 相続人の相続財産額合計)

※1 相続税、遺産税又は贈与税等の名称にかかわらず、相続又は遺贈により財産を取得したことにより課される国税又は地方税。なお、円換算は外国相続税の納期限又は送金日におけるTTS(対顧客直物電信売相場)により換算します。
※2 相次相続控除までの諸控除を控除したあとの相続税額(相続税の税額控除の詳しい解説は、相続税の税額控除をわかりやすく解説。相続人の税額から一定額を差し引く制度をご参照ください。)
※3 国外財産の合計額からその国外財産に係る債務を控除した金額

この計算方法により、外国で課された相続税相当額の全てが必ずしも控除されるわけではありません。
日本の相続税の税率よりも海外で課された相続税の税率の方が高い場合、その差額分については控除できないことになります。

外国税額控除の適用要件

外国税額控除を適用するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

□相続または遺贈により海外の財産を取得したこと
□取得した財産について、その国の法令により相続税に相当する税金が課されたこと

租税条約の重要性

現在、日本が相続税に関する租税条約を締結しているのはアメリカのみです。

アメリカとは「日米相続税条約」が結ばれており、アメリカで納付した相続税(遺産税)は日本の相続税から控除されます。

2. 国ごとに異なる相続法・手続き(プロベート制度など)

プロベート制度とは

プロベート(Probate)とは、アメリカ・イギリスなどの英米法系国家で行われる相続手続きです。

プロベートは「検認」を意味し、裁判所の監督下で相続手続きが進められる制度です。

プロベートの問題点

項目 日本の相続 プロベート制度
手続き主体 相続人 裁判所
所要期間 数ヶ月~1年 1~3年
費用 数十万円 200~300万円
現地専門家 不要 必要

プロベートが必要な国

プロベート制度は、主に英米法圏の国々で採用されています。
具体的には下記のような国々です。

アメリカ
イギリス
カナダ
オーストラリア
香港
シンガポール
マレーシア など

管理清算主義と包括承継主義

世界の相続手続きは大きく二つの制度に分けられます。

管理清算主義(英米法系)

相続開始により遺産は遺産財団に組み入れられる
裁判所が選任した遺言執行者や遺産管理人が借金や税金を支払った後に相続人に分配
プロベート手続きが必要

包括承継主義(大陸法系)

相続人がプラスの財産もマイナスの財産も一緒に引き継ぐ
日本はこの制度を採用

管理清算主義か包括承継主義のいずれを採用するのかは、その相続案件の準拠法を決めなければなりません。
原則として亡くなった人の国籍の法律に準拠することとなります。
準拠法についての詳しい解説は、国際相続があった場合の準拠法をご参照ください。

プロベート回避策

プロベート手続きが必要になると、費用も時間も要します。
したがって、生前のうちにプロベートを回避する対策が重要となるのです。
プロベートを回避するための主な方法は下記の通りです。

トラストの活用:財産をトラスト名義に移転
ジョイント名義:共同名義での所有
受取人指定:生命保険や年金口座の受取人指定

ジョイントアカウントについての詳しい解説は、ジョイントアカウント(共同名義口座) 相続税、贈与税はどうなる?をご参照ください。

3. 海外不動産の相続登記・名義変更の手続き

海外不動産の相続登記の特徴

海外不動産の相続登記は、現地国の法律に従って手続きを行う必要があります。

英米法系の国では、プロベート手続きを経た上で、現地の不動産登記所で相続手続きを行います。

必要書類と手続きの複雑さ

海外不動産の名義変更には、以下の書類が必要です。

【海外不動産相続登記の必要書類】
– 現地語に翻訳された宣誓供述書
– 被相続人の死亡証明書(現地語翻訳)
– 相続人確認書類
– 遺産分割協議書(現地語翻訳)
– 各種認証書類(アポスティーユ等)

プロベート制度下での不動産手続き

アメリカなどでは、プロベートが終了するまでは遺産の所有権移転、売却、名義変更、処分等ができません

つまり、相続する不動産の購入希望者が現れても、プロベートが完了するまでは売却できないという制限があります。

現地専門家との連携

海外不動産の相続登記では、現地の弁護士や不動産専門家との連携が不可欠です。

国によって相続法・相続手続きの仕方が異なるため、複数の国の異なる法制度および法令・手続に精通した専門家に依頼することが必要になります。

4. 国際相続で必要な書類収集と認証の難しさ

アポスティーユ(Apostille)認証

海外での相続手続きには、日本の公文書にアポスティーユ認証が必要です。

アポスティーユとは、「外国で日本の公文書を使うための“お墨付き”」のことです。
すなわち、「この書類は日本の正式なものですよ!」と、海外に伝えるための証明スタンプです。

なぜアポスティーユが必要になるかというと、
例えば、外国で戸籍謄本や卒業証明書、委任状などを使うとき、その国の役所や学校に「これ本物なの?」って疑われないようにするためです。

アポスティーユは下記のような書類に付けることができます。

戸籍謄本、住民票
卒業証明書
登記簿謄本
公証人の認証文付きの私文書(例:委任状など)

アポスティーユ取得の流れ

手順 内容 所要時間
1. 公文書の取得 戸籍謄本、死亡証明書、印鑑証明書等 数日~1週間
2. 外務省への申請 窓口申請(東京・大阪)または郵送申請 窓口:即日~翌日
郵送:1週間程度
3. 手数料 無料

アポスティーユ対象国と非加盟国

アポスティーユ対象国(主要国):
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、韓国など

非加盟国(領事認証が必要):
中国、カナダ、タイ、シンガポールなど

領事認証の手続き

アポスティーユ非加盟国では、より複雑な領事認証が必要です。

公証役場で公証

法務局で認証

外務省で認証

大使館・領事館で認証

海外在住相続人の必要書類

海外在住の相続人は、印鑑証明書や住民票が取得できないため、以下の代替書類が必要です。

署名証明書(サイン証明書):

印鑑証明書の代わり
日本領事館等で申請
本人が出向いて申請することが必要

在留証明書:

住民票の代わり
外国での滞在期間が3ヶ月以上必要
現在の居住地を証明

海外在住相続人がいる場合の詳しい解説は、非居住者がいる相続税申告を徹底解説:必要手続きと注意点をご参照ください。

翻訳と認証の注意点

【翻訳における注意点】
– 翻訳者の資格(宣誓翻訳者等)が必要な国もある
– 翻訳証明書の添付が必要
– 現地語への翻訳が原則
– 書類の準備には相当な時間が必要[10]

5. 為替リスクと海外送金への対応

為替変動の影響

海外資産の評価は日本円で行われるため、為替レートの変動が相続税額に大きく影響します。

相続税の評価では、相続開始日の対顧客直物電信買相場(TTB)を使用します。

外貨預金の相続税評価

相続した外貨預金の評価額の計算方法:

評価額 = 外貨預金残高 × 相続開始日のTTB

例:1万ドルの外貨預金を相続し、TTBが149.44円の場合
評価額 = 1万ドル × 149.44円 = 1,494,400円

為替換算についての詳しい解説は、【相続税申告】 外貨建て財産、債務の邦貨換算を徹底解説をご参照ください。

為替リスクの種類

リスクの種類 内容 対策
評価時リスク 相続開始日の為替レートにより相続税額が変動 事前の為替ヘッジ
送金時リスク 送金時の為替レートにより受取額が変動 送金タイミングの検討
保有継続リスク 相続後の為替変動による資産価値の変動 分散投資・適切な運用

海外送金の注意点

海外から日本への送金、または日本から海外への送金には以下の注意点があります。

高額な手数料

送金手数料
受取手数料
為替手数料
中継銀行手数料

送金限度額

金融機関ごとに1回あたりの送金限度額が設定
高額送金時は複数回に分けて送金が必要

為替差益の税務処理

相続後に外貨資産を円転した場合の為替差益は、相続人の雑所得として課税されます。

相続開始日から円転までの期間に生じた為替差益について、所得税の確定申告が必要になります。

プロベート制度下での為替リスク

アメリカなどでプロベート手続きが必要な場合、手続き完了まで1~3年かかるため、その間の為替変動リスクも考慮する必要があります。

海外資産相続のQ&A

Q1: 海外資産の相続税はどのように計算されますか?

海外資産も日本の相続税の課税対象となる場合があります。相続開始日の為替レート(TTB)で円換算し、外国で相続税を支払った場合は外国税額控除の適用を受けることができます。

Q2: プロベート手続きはどのくらい時間がかかりますか?

プロベート手続きは通常1~3年かかり、複雑なケースではさらに長期化することがあります。この間、遺産の利用や処分が制限されるため、事前の対策が重要です。

Q3: 海外不動産の相続登記で注意すべき点はありますか?

海外不動産の相続登記は現地法に従って行う必要があり、現地語への翻訳やアポスティーユ認証が必要です。また、プロベート制度がある国では、裁判所での手続きを経る必要があります。

Q4: 国際相続で必要な書類の準備期間はどのくらいですか?

アポスティーユ取得で1週間程度、領事認証では数週間から1ヶ月程度かかります。翻訳や現地での手続きも含めると、全体で2~3ヶ月の期間を見込む必要があります。

Q5: 為替リスクを軽減する方法はありますか?

為替ヘッジ商品の活用、送金タイミングの分散、現地での資産保有継続など、リスクを軽減する方法があります。ただし、コストと効果を総合的に検討する必要があります。

まとめ

海外資産の相続は、国内財産の相続と比較して格段に複雑な手続きが必要です。

二重課税リスクへの対応、プロベート制度による手続きの長期化、海外不動産の相続登記手続き、国際相続特有の書類収集と認証、為替リスクと海外送金への対応など、多岐にわたる注意点を事前に把握しておくことが重要です。

特に、プロベート制度や外国税額控除制度については、専門的な知識が必要となるため、国際相続に精通した専門家への相談が不可欠です。

海外資産を保有している方は、相続が発生する前に適切な対策を講じることで、相続人の負担を大幅に軽減できます。

国際相続の複雑さを理解し、早期から専門家と連携して準備を進めることが、円滑な相続手続きの実現につながります。

海外資産の相続は複雑ですが、適切な準備と専門家のサポートにより、円滑な手続きを実現することが可能です。

海外資産相続の注意点:二重課税リスク・プロベート対策を徹底解説の写真

この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は350件。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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