イギリスの相続とプロベート制度を徹底解説【税理士解説】

- イングランド・ウェールズでは、原則としてGrant of Probate(遺言検認状)またはLetters of Administrationが必要。スコットランドはConfirmation、北アイルランドは別の申請手続きで、共同名義の預金などグラントなしで進む場合もある
- £5,000以下は裁判所の申請料が不要(イングランド・ウェールズ)。ただしこれは申請料の基準で、銀行がグラントなしで払い戻す基準とは別
- 費用と期間は案件によって大きく異なる(下表は目安。グラントの取得だけか、遺産の清算まで含むかで変わる)
- イギリスには相続税(Inheritance Tax)があり、£325,000超の遺産に40%課税
- 日本に住所がある相続人などは、英国の財産も日本の相続税の課税対象に含まれる(申告・納税が必要かは基礎控除や特例を踏まえて判断。二重課税は外国税額控除で調整)
「父がイギリスに不動産を持っていたのですが、相続手続きはどうすればいいですか?」
イギリスは日本人の不動産投資先としても人気があり、相続の対象となる財産を持っている方は少なくありません。
しかし、イギリスの相続制度は日本とは大きく異なり、プロベート(裁判所の手続き)が必要になります。
この記事では、年間300件以上の相続税申告を手がける相続専門税理士が、イギリスの相続制度とプロベート手続きを解説します。
イギリスの相続制度の基本
イギリスの相続制度は、日本とは根本的に異なります。
管理清算主義
日本では被相続人の死亡と同時に相続人が財産を承継しますが、イギリスでは「管理清算主義」を採用しています。
つまり、まず遺産代表者(Personal Representative)が遺産を管理・清算し、その後に相続人へ分配する仕組みです。遺産代表者は、遺言で指定されたExecutor(遺言執行者)と、裁判所が選任するAdministrator(遺産管理人)をまとめた呼び方です。
プロベート(Probate)は、この遺産代表者の権限を裁判所が確認・証明する手続きです。遺言で執行者が指定されている場合は、裁判所が新たに選任するのではなく、その権限を確認します。
プロベートの種類
| 種類 | 遺言書 | 遺産管理人 |
| Grant of Probate | あり | 遺言で指定されたExecutor(遺言執行者) |
| Letters of Administration | なし | 裁判所が選任するAdministrator(遺産管理人) |
| Letters of Administration (with Will annexed) |
あり | 遺言はあるが執行者が指定されていない、または執行者が職務を行えない・引き受けない場合に選任されるAdministrator |
有効な遺言書があり、Executorが指定されている場合は、手続きがスムーズに進みます。
遺言書がない場合や、Executorが指定されていない場合は、相続人の中から遺産管理人を選任する必要があり、やや手続きが複雑になります。
制度の詳細は、国際相続があった場合の準拠法をご参照ください。
イギリスのプロベート手続き
手続きの流れ
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STEP2:遺産・債務・遺言の調査と、相続税(IHT)のための評価、HMRCへの報告が必要かどうかの確認
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STEP3:報告が必要な場合はIHT400等を提出し、グラント申請の前に必要な納付とHMRCの手続きを進める
↓
STEP4:適用される地域の手続きにより、Probate Registry等へグラントを申請
↓
STEP5:グラントの発行後、権限と各機関の条件に従って遺産の管理・債務や税金の清算
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STEP6:残余財産を相続人・受益者へ分配
税務はグラントの後回しにできません。
GOV.UKは、申請の前に、プロベートの要否と申請資格の確認、相続税のための遺産の評価、HMRCへ全内容の報告が必要かどうか(excepted estateか)の確認を行い、相続税がかかる場合は納付を始めてHMRCから固有のコードを受け取ってから申請すると案内しています。
期限は、提出と納付で異なります。相続税の納付期限は、死亡した月の6か月後の末日です。IHT400などによる申告は、相続税がかかる場合、原則として死亡から1年以内とされています。
なお、資金を動かせない場合の延納・分割納付などの取扱いもあるため、全額を先に払わなければ何も進まない、という意味ではありません。
必要書類
| 書類 | 備考 |
| 死亡を証明する書類 | 日本で亡くなった場合は、死亡の記載がある戸籍証明書や、死亡届の記載事項証明書などが候補。どの書類を取得・提出できるか、英訳や認証がどこまで必要かは、提出先と法域によって異なる |
| 遺言書(ある場合) | 原本 |
| 相続人の身分証明書 | パスポートコピー等 |
| 遺産の一覧 | 不動産、銀行口座、株式等の詳細 |
| 戸籍謄本 | 相続関係を証明。英訳の形式(翻訳証明)、写しの証明(certified copy)、公証、アポスティーユはそれぞれ別の手続きで、必要な範囲は提出先によって異なる |
「英訳・アポスティーユ付き」と一律に決めつけないでください。
求められる証明の組み合わせは、提出先(裁判所・銀行・登記)と書類の種類によって変わります。取得する前に、提出先へ確認してください。
費用と期間
| 項目 | 目安 |
| 弁護士費用(Solicitor) | 依頼の範囲によって大きく変わる(グラントの取得だけを依頼するか、遺産の管理・清算まで依頼するか)。報酬のほかに、VATや裁判所費用などの実費が別にかかるかも確認する |
| 裁判所の申請料(イングランド・ウェールズ) | 遺産額が£5,000超なら£526、£5,000以下は無料。グラントの追加の写しは申請時に注文すれば1通£2、申請後の追加注文は1通£16。2026年9月21日時点のGOV.UKの掲載額 |
| その他(翻訳・認証等) | 数万円〜 |
| 期間 | 案件による。グラントの取得までか、遺産の清算・分配まで含めるかで大きく変わる |
グラントなしで払い戻せる場合
グラントなしで預金を払い戻せるかは、各金融機関の基準と個別の事情によります。イングランド・ウェールズで裁判所の申請料が不要となる£5,000以下という基準とは別です。
銀行が公表している目安の例は次のとおりです(2026年9月21日確認)。
・Barclays…同行の単独名義の口座の合計が£50,000を超える場合にグラントが必要
・NatWest…公式の口座閉鎖フォームで、単独名義の合計が£50,000以上ならグラントが必要
共同名義の預金口座は、残った名義人への切替えでプロベートを要しない取扱いが案内されています。実際の必要書類は、口座のある銀行に確認してください。
イギリスの相続税(Inheritance Tax)
イギリスには相続税(Inheritance Tax:IHT)があり、遺産額が£325,000を超える部分に40%の税率で課税されます。ただし、配偶者(シビルパートナーを含む)への移転の免除などの例外があり、条件次第で税率が下がる場合もあります。どの財産が課税の対象になるかは、次に述べる居住歴と財産の所在地で判断します。
課税範囲は、居住歴と財産の所在地等で確認する
2025年4月6日以降、英国外の財産を対象に含めるかどうかは、長期英国居住者(long-term UK resident)に当たるかが基準になりました。
HMRCの内部マニュアルは、長期英国居住者を「直近20課税年度のうち10年度以上、英国に居住していた個人」と説明しています。英国を離れた後も、居住していた年数に応じて一定期間は対象に残る場合があり、従来のドミサイルの考え方から移行するための経過措置も設けられています。
英国外の財産が対象外となる場合でも、英国に所在する財産まで一律に対象外になるわけではありません。銀行が示す「英国居住者向けの払戻しの目安」とは別の話です。判定は個別の事情によるため、英国の専門家に確認してください。
基本的な仕組み
| 項目 | 内容 |
| 基礎控除(Nil Rate Band) | £325,000 |
| 税率 | 40% |
| 配偶者・シビルパートナーへの移転 | 原則として免除(Spouse Exemption)。ただし、移す側が長期英国居住者で、受け取る配偶者等が長期英国居住者でない場合は、免除額が制限されることがある(HMRCの内部マニュアルでは、移転時の基礎控除額が上限とされています)。過去の移転の累積額も踏まえて判断する |
| 慈善団体への遺贈 | 非課税 |
居住用不動産の追加控除
2017年以降、居住用不動産(Main Residence)を直系卑属に相続する場合、追加の控除(Residence Nil Rate Band)が適用されます。
この追加控除は段階的に引き上げられ、現在は£175,000です。
つまり、居住用不動産を子や孫に相続する場合、条件を満たせば最大で£500,000(£325,000+£175,000)まで非課税となります。
適用には、対象となる住宅の要件(故人が居住していた住宅であること)、承継先の要件(直系卑属であること)、遺産の総額に応じて控除が縮小する取扱いなどの条件があります。金額だけで判断せず、適用の可否を確認してください。
配偶者の未使用控除の引継ぎ
配偶者が先に亡くなり、基礎控除を使い切っていない場合、その未使用分を後に亡くなった配偶者の相続で使用できます。
これにより、夫婦合計で最大£1,000,000まで非課税とすることも可能です。
日本の相続税との関係
二重課税の問題
イギリスの財産が日本の相続税の対象に含まれるかは、被相続人と財産を取得した人の住所、国籍、過去の居住状況などで判定します(国税庁タックスアンサーNo.4138)。日本に住所があることだけで、国外財産が当然に課税対象になると決まるわけではありません。
課税対象に含まれる場合でも、基礎控除や特例を踏まえて申告・納税の要否を判断します。対象に含まれるときは、同じ財産にイギリスと日本の両方で相続税が課税される可能性があります。
外国税額控除
イギリスで相続税を納付した場合、日本の相続税から一定額を控除できます(外国税額控除)。
これにより、二重課税を調整できます。
ただし、控除できる金額には上限があり、完全に相殺されるとは限りません。
外国税額控除については、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説をご参照ください。
イギリス相続に関するQ&A
Q1:日本の遺言書はイギリスでも有効ですか?
A:形式要件を満たしていれば有効ですが、英訳と認証が必要です。
スムーズな手続きのためには、イギリスの財産についてはイギリス法に基づく英文遺言書を作成しておくことをお勧めします。
Q2:イギリスの不動産を相続する場合、現地に行く必要がありますか?
A:裁判所の手続きと、金融機関や登記の手続きを分けて確認してください。
裁判所への申請は、現地の専門家に委任して進められる場合があります。一方で、銀行や登記の手続きは各機関の条件によります。また、書類への署名について公証や認証を求められることがあり、その場合は日本側での手続きが必要になります。
Q3:イギリスの相続税は誰が納めますか?
A:遺産管理人(Executor/Administrator)が遺産から納付します。
相続人が個人的に納付するのではなく、遺産から税金を支払った後、残りが相続人に分配されます。
Q4:日本とイギリスで二重に相続税を取られますか?
A:外国税額控除により調整されますが、完全に相殺されるとは限りません。
特に、イギリスの税率(40%)が日本の税率より高い場合、控除しきれない部分が生じることがあります。
Q5:イギリスの銀行口座だけの場合もプロベートは必要ですか?
A:必ず必要とは限りません。
口座の名義、各銀行の基準、故人の居住地、保有する商品、すでに申請したグラントの有無などによって変わります。
£5,000はイングランド・ウェールズの申請料がかかるかどうかの基準で、銀行がグラントなしで払い戻す基準ではありません。口座のある銀行へ、必要書類を確認してください。
まとめ
- イングランド・ウェールズでは原則としてGrant of ProbateまたはLetters of Administrationが必要。共同名義の預金や各銀行の基準によっては取得せずに進むこともあり、スコットランドはConfirmation、北アイルランドは別の申請手続き
- 費用と期間は案件と依頼する範囲による(グラントの取得だけか、遺産の清算まで含めるか)
- 相続税はグラント申請の前に評価・報告の要否を確認し、必要な納付を進める
- イギリスの相続税は£325,000超に40%
- 日本に住所がある相続人などは英国の財産も課税対象(申告・納税の要否は基礎控除等を踏まえて判断)
- 外国税額控除で二重課税を調整
イギリスに財産がある方の相続は、プロベート手続きと相続税の両方を考慮する必要があり、複雑です。
早めに専門家に相談し、計画的に進めることが重要です。
当事務所では年間300件以上の相続税申告を行っており、イギリスを含む国際相続の実績も豊富です。
「イギリスに財産があるが、何から始めればいいか分からない」
「イギリスの相続税と日本の相続税の関係を整理したい」
そのようなお悩みがありましたら、ぜひ一度ご相談ください。
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相続税の手続きは慣れない作業が多く、日々の仕事や家事をこなしながら進めるのはとても大変な手続きです。
また、適切な申告をしないと、後の税務調査で本来払わなくても良い税金を支払うことにもなります。
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