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身寄りがない人が認知症になったら、誰が後見の申立てをするのか|市町村長申立てと任意後見

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おひとりさま終活

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行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)

大塚 英司


10秒でわかる この記事の要約

  • 成年後見制度は、誰かが家庭裁判所へ申し立てて初めて動きます。
  • 民法第7条が定める後見開始の審判の請求権者は、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官などです。市町村長は入っていません
  • そのかわり老人福祉法第32条が、65歳以上の方についてその福祉を図るため特に必要があると認めるときに、市町村長が請求できると定めています。
  • つまり、「身寄りがなければ自動的に市が動く」という仕組みではありません。
  • しかも任意後見監督人の選任については、請求できるのは本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者だけで、市町村長は含まれていません。
  • 本記事では、頼れる親族がいない方が判断能力を失う前に決めておくことを整理します。

「もし認知症になったら、市役所が何とかしてくれるのでしょうか」

おひとりさまのご相談で、必ずと言っていいほど出る質問です。

制度としては、市町村長が申し立てる道があります。

ただ、条文を読むと、思っているような自動的な仕組みではありません。

本記事では、誰が制度を起動できるのかを条文で確認し、元気なうちにできる手当てを整理します。

制度そのものの比較は任意後見と法定後見の違い、4つの制度の選び方は認知症に備える財産管理にまとめました。


後見は、誰かが申し立てないと始まらない

まず、いちばん大事なところから。

成年後見制度は、放っておいて始まるものではありません。

民法第7条を見てください。

「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」

並んでいるのは、本人と親族と検察官などです。

市町村長は、この条文には入っていません

先に、誰が申し立てられるのかを整理しておきます。

手続き申し立てられる人市町村長
後見開始の審判本人、配偶者、四親等内の親族、検察官など(民法7条)老人福祉法32条などの要件を満たせば可能
保佐・補助開始の審判本人、配偶者、四親等内の親族、検察官など(民法11条・15条1項)同上
本人以外からの補助開始上記のうち本人以外原則として本人の同意が必要(民法15条2項)
任意後見監督人の選任本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者(任意後見契約法4条1項)申立権なし
虐待・財産侵害があるとき市町村が事実確認のうえ対応適切な審判の請求が求められる(高齢者虐待防止法9条2項・27条2項)

保佐(民法第11条)も補助(民法第15条第1項)も、同じ構造です。

では、四親等内の親族がいない方はどうなるのか。

四親等内の親族には、いとこ、甥・姪の子まで含まれます。

書き出せば意外と広い範囲です。

ただ、連絡先が分からない、何十年も会っていないという方が実際には多くいらっしゃいます。

申立てには、戸籍や診断書を集め、費用を負担し、家庭裁判所とやり取りする手間がかかります。

疎遠な親族に、そこまで求められるとは限りません。

検察官の請求という道は条文上ありますが、日常的に使われる経路として当てにできるものではありません。

手続きの概要は後見開始|裁判所で確認できます。

なお、家庭裁判所へ提出する申立書等の作成は、行政書士の業務ではありません。

司法書士または弁護士に依頼してください。


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市町村長申立てという道(老人福祉法32条)

ここで出てくるのが、市町村長申立てです。

老人福祉法第32条です。

「市町村長は、六十五歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第七条、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。」

同じ構造の規定が、ほかにも用意されています。

根拠対象
老人福祉法第32条65歳以上の方
知的障害者福祉法第28条知的障害者
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の11の2精神障害者

ここで、条文の言葉を2つ確認してください。

1つは「特に必要があると認めるとき」です。

もう1つは「することができる」です。

この条文自体は、市町村長に一律の申立義務を課すものではありません。

つまり、身寄りがないというだけで市が動くわけではないということです。

ただし、この裁量規定だけでは済まない場面があります。

高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)です。

高齢者虐待防止法第9条第2項は、養護者による高齢者虐待の通報や届出があった場合について、市町村または市町村長は適切に、老人福祉法第32条の規定により審判の請求をするものとすると定めています。

高齢者虐待防止法第27条第2項も、財産上の不当取引の被害を受け、または受けるおそれのある高齢者について、同じ書きぶりです。

虐待や財産侵害が疑われる場面では、行政が動くべき事案として整理されています。

そして、もう1つ誤解されやすい点があります。

市町村長申立ては、四親等内の親族が一人もいない場合に限られません

老人福祉法第32条の条文にも、親族がいないことという要件はありません。

親族がいても、疎遠、所在不明、重い病気、申し立てる意思がない、本人との利益が対立している、虐待が疑われるといった事情があれば、市町村長申立てが検討されます。

確かめられるのは親族の有無ではなく、本人のために申し立ててくれる人がいるかです。

では、いつ相談すればよいのか。

被害や滞納が現実に起きるまで待つ必要はありません。

金銭管理の混乱、契約手続の停滞、消費者被害のおそれ、生活の維持が難しくなってきた、といった段階で、地域包括支援センターや市区町村の権利擁護の担当窓口へ相談してください。

成年後見支援センター(中核機関)や社会福祉協議会が窓口になっている地域もあります。

誰も気づいていない段階では、制度は起動しません。

そして、時間もかかります。

行政が本人の状態と緊急性を確認し、親族による申立てが期待できるか、他の支援制度で対応できるかを見たうえで、申立ての要否を判断してから家庭裁判所へ進みます。

その間に困るのが、お金と契約です。

ご本人がその取引の内容を理解して意思表示できず、有効な代理権を持つ人もいない場合には、通常の払戻しや契約の手続きが進められなくなります。

認知症の診断があることや、市町村が申立てを検討していることだけで、すべての預金と契約が一律に止まるわけではありません。

支払いが止まる場面の備えは入院費・施設費は誰が払うのかにまとめました。

なお、市町村側の体制づくりも法律に書かれています。

老人福祉法第32条の2は、市町村に対し、申立ての円滑な実施に資するよう、後見等の業務を適正に行える人材の育成と活用のため、研修の実施や家庭裁判所への推薦などの措置に努めるべきことを定めています。

成年後見制度の利用の促進に関する法律第14条第1項も、市町村に基本計画の策定と実施機関の設立支援などの努力義務を課しています。

お住まいの市区町村に相談窓口があるかどうかは、元気なうちに一度確認しておいて損はありません。


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法定後見人を最終的に選ぶのは家庭裁判所

市町村長申立てで手続きが始まったとして、その先の話です。

後見人を選ぶのは、家庭裁判所です。

民法第843条第1項は、家庭裁判所は後見開始の審判をするときは職権で成年後見人を選任すると定めています。

希望を出すことはできますが、そのとおりになるとは限りません。

第4項が、考慮する事情を挙げています。

心身の状態、生活と財産の状況、後見人となる方の職業と経歴、本人との利害関係の有無、そして成年被後見人の意見その他一切の事情です。

本人の意見も考慮事情ですが、判断能力を欠く常況にある方の意見をどう酌み取るかには限界があります。

ここが、任意後見との決定的な違いです。

比べるところ法定後見任意後見
始まり方誰かが家庭裁判所へ申し立てる元気なうちに公正証書で契約し、後に監督人の選任を申し立てる
担い手を誰が決めるか家庭裁判所が職権で選任本人が契約の相手として選ぶ
できることの範囲制度と審判で決まる代理権目録に書いた範囲
市町村長が申し立てられるか老人福祉法32条などにより可能不可(任意後見契約に関する法律4条1項の請求権者に含まれない)

表の最終行が、この記事でいちばんお伝えしたい点です。

【2026年の法改正について】成年後見制度と遺言制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が2026年6月24日に公布されました。成年後見制度については、後見・保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化することなどが定められています。ただし、成年後見制度の見直しに係る改正は公布の日から2年6月を超えない範囲内の政令で定める日に施行されるもので、2026年8月時点では施行されていません。本記事は、現在施行されている後見・保佐・補助の制度を前提としています(法務省の解説ページ)。

後で詳しく書きます。

なお、後見人が選任された後の暮らしについても、民法第858条が、成年後見人は本人の意思を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮しなければならないと定めています。

制度が本人をないがしろにするわけではありません。

ただ、誰に託すかを自分で決められるのは、決められるうちだけです。

制度ごとの費用は任意後見契約の費用にまとめました。


本人以外が補助を申し立てるには、本人の同意が必要

もう1つ、見落とされやすい規定があります。

民法第15条第2項です。

「本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。」

補助は、判断能力が不十分という段階の制度です。

つまり、まだご自身の意思をある程度示せる段階を想定しています。

だからこそ、本人の同意が要件になっています。

ここで実務上よく起きるのが、次の状況です。

  • 周囲から見て、金銭管理があやしくなってきた
  • 訪問販売の被害や、支払いの滞りが出はじめた
  • それでもご本人は「大丈夫、必要ない」とおっしゃる

この段階では、周囲だけの判断で補助を始めることはできません。

後見や保佐にあたるほど判断能力が落ちていなければ、民法第15条第1項ただし書により補助の対象ですが、民法第15条第2項の同意が得られないからです。

結果として、状況がさらに悪化してから動くことになります。

なお、ご本人自身が補助開始を申し立てる場合は、話が別です。

民法第15条第2項が同意を求めているのは、本人以外の方が請求する場合だからです。

この間に起きることは、財産管理だけではありません。

ご本人が贈与する側として自ら贈与契約を結ぶには、その内容と法的な効果を理解できる意思能力が必要です。

民法第3条の2は、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とすると定めています(関連解説(税理士法人トゥモローズ)「乳児・幼児、認知症の人の贈与契約って有効!?」)。

遺言のほうは、作成した時点の遺言能力で判断されます。

認知症の診断や後見開始の審判があるだけで、直ちに遺言ができなくなるわけではありません。

民法第973条第1項は、成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時に遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならないと定めています。

民法第973条第2項は、立ち会った医師が、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して署名押印することを求めています。

診断名ではなく、その行為をした時点の能力で判断するということです。

自宅の処分についても、家庭裁判所の許可が要る世界に入ります(施設に入るとき、自宅をどうするか)。

元気なうちにできることの幅は、思っているより早く狭まります。


任意後見を結んでも、気づく人がいなければ眠ったまま

ここが本題です。

任意後見契約は、結んだだけでは働きません。

任意後見契約に関する法律第4条第1項を見てください。

「任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。」

請求できるのは、この4者です。

市町村長は入っていません

老人福祉法第32条が対象としているのは、民法の法定後見の審判です。

任意後見監督人の選任は、その中に含まれていません。

つまり、こういうことが起こり得ます。

状況何が起きるか
任意後見契約を結び、受任者が定期的に連絡を取っている受任者が変化に気づき、監督人の選任を申し立てられる
契約は結んだが、受任者と何年も連絡がない誰も申し立てず、契約は眠ったまま
契約が眠ったまま状況が悪化した市町村長申立てにより、法定後見が先に始まることがある

2行目を避けるための仕組みが、見守りの取り決めです。

月1回の電話、年数回の訪問。それだけで、気づける人が生まれます(見守り契約とは)。

3行目についても、条文を確認しておきます。

任意後見契約に関する法律第10条第1項は、任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができるとしています。

任意後見が優先される建てつけです。

ただし、逆に言えば、特に必要と認められれば法定後見が始まります。

そして任意後見契約に関する法律第10条第3項により、任意後見監督人が選任された後に本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了します

任意後見人としての地位は、そこで終わるということです。

もっとも、任意後見受任者だった方が、別途、法定後見人等として選任される可能性まで否定されるわけではありません。

誰を選任するかは家庭裁判所の判断で、保証されるものではありません。

もうひとつ、任意後見契約に関する法律第4条第3項も押さえてください。

本人以外の方の請求により監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意が必要です。

本人が意思を表示することができないときは、この限りではありません。

つまり、判断能力が残っている段階でご本人が「まだ必要ない」と言えば、本人以外からの申立てでは発効しないことになります。

ご本人自身が申し立てる場合や、意思を表示できない状態にある場合は別です。

契約を結ぶときに、どうなったら発効させるのかを受任者と話し合っておいてください(任意後見契約とは)。


元気なうちに決めておくこと

整理します。

やること効き方
任意後見契約を公正証書で締結する担い手を自分で選べる。公証人の嘱託で登記され、代理権の範囲を公的に証明できる
代理権目録に、自宅・預金・施設契約まで書き込むいざというときに動ける範囲が決まる
見守りの取り決めを添える気づく人ができ、契約が眠ったままにならない
複数の受任者を置くなら、権限を単独・共同・分掌のいずれにするかを公正証書で明確にする/継続性のある法人を受任者にする受任者が欠けるリスクを下げる
発効させる目安を、受任者と話しておく本人が拒んで手遅れになる事態を避けやすい
四親等内の親族の連絡先を一覧にしておくいざというとき、誰に連絡が行くかが分かる
お住まいの市区町村の相談窓口を確認しておく制度を使う段になって探さずに済む
死後の段取りは、死後事務委任契約で別に決める後見は死亡で終わるため、そのままでは繋がらない

最後の行を補足します。

後見も任意後見も、生きている間の制度です。

ただし、法定の成年後見人には、死亡後の限定的な権限があります。

民法第873条の2は、成年被後見人が死亡した場合に必要があるときは、相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為、弁済期が到来した債務の弁済、家庭裁判所の許可を得た火葬または埋葬に関する契約の締結などができるとしています。

もっとも、望んだ葬儀、納骨、遺品整理、各種の解約まで包括的に実行できる制度ではありません。

亡くなった後の葬送や解約は、別の契約で手当てします(おひとりさまの終活契約)。

そして、受任者が先に欠ける場合の備えです。

任意後見受任者が亡くなれば、その任意後見契約は終了します。

契約書に次の順位の方の氏名を書くだけでは足りません。

複数の方とそれぞれ任意後見契約を結ぶ、共同または分掌の形にする、継続性のある法人を受任者にするといった設計を検討してください。

受任者が欠けたときに何が起きるかという同じ問題は、死後事務委任契約でも生じます(死後事務委任の受任者が先に亡くなったら)。

私見ですが、この類型でいちばん効くのは見守りの取り決めです。

制度を用意しても、押すボタンに手が届かなければ意味がありません。

契約の効力を生じさせるのは家庭裁判所による任意後見監督人の選任ですが、その申立てにつなげるのは、変化に気づいた誰かです。

そして、月に一度の電話だけでは足りません。

電話に出なくなったときに何日後へ再連絡するか。

どうなったら訪問へ切り替えるか。

支払いの遅れや郵便物の滞りを、どう確認するか。

誰が発効の申立てを判断するか。

そこまで決めて、はじめて見守りが機能します。


よくある質問(FAQ)

Q1. 申立費用や後見人の報酬を払えない場合はどうなりますか?

A. 市区町村によっては、成年後見制度利用支援事業により、申立費用や後見人等の報酬を助成している場合があります。ただし、対象となる所得・資産の要件、市町村長申立て以外も助成の対象にするか、任意後見監督人の報酬まで対象にするかは自治体によって異なります。高齢者虐待防止法28条も、国と地方公共団体に対し、成年後見制度の利用に係る経済的負担の軽減のための措置等を講じるべきことを定めています。お住まいの市区町村の権利擁護の担当窓口へ確認してください。

Q2. 65歳未満の若年性認知症でも、市町村長申立てはできますか?

A. 老人福祉法32条は65歳以上の方が対象です。ただし、65歳未満でも、ご本人の状態が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2、または知的障害者福祉法28条の対象に該当すれば、それぞれの法律を根拠とする市町村長申立てが検討されます。年齢だけで諦めず、市区町村の障害福祉・権利擁護の担当窓口へ相談してください。

Q3. 身寄りがなければ、市役所が自動的に後見の手続きをしてくれるのですか?

A. 自動ではありません。民法7条が定める後見開始の審判の請求権者に市町村長は含まれておらず、老人福祉法32条が、65歳以上の方についてその福祉を図るため特に必要があると認めるときに請求することができる、と定めているだけです。一律の申立義務を課した規定ではなく、実際には施設や病院からの相談、地域包括支援センターの関わりなどを通じて行政が状況を把握した後に検討されます。ただし例外があり、養護者による虐待の通報・届出があった場合や、財産上の不当取引の被害を受けまたは受けるおそれがある高齢者については、高齢者虐待防止法9条2項・27条2項により、市町村または市町村長に適切な審判の請求が求められます。誰も気づいていない段階では制度は起動しないため、元気なうちに任意後見契約と見守りの取り決めを用意しておくほうが確実です。

Q4. 任意後見契約を結んでいれば、市町村長が発効の手続きをしてくれますか?

A. できません。任意後見契約に関する法律4条1項が定める任意後見監督人選任の請求権者は、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者の4者で、市町村長は含まれていません。老人福祉法32条が対象としているのは民法の法定後見の審判であり、任意後見監督人の選任はその中に入っていないためです。受任者と定期的に連絡を取る取り決めがなければ、契約が登記されたまま誰も申し立てないという事態が起こり得ます。

Q5. 後見人は希望した人を選んでもらえますか?

A. 希望を出すことはできますが、決めるのは家庭裁判所です。民法843条1項は、後見開始の審判をするときは職権で成年後見人を選任すると定めています。同条4項は、本人の心身の状態、生活と財産の状況、後見人となる方の職業と経歴、本人との利害関係の有無、本人の意見その他一切の事情を考慮しなければならないとしていますが、希望どおりになるとは限りません。担い手を自分で選びたい場合は、判断能力があるうちに任意後見契約を結んでおく方法があります。

Q6. 任意後見の受任者に、法人を選ぶことはできますか?

A. できます。法人には自然人のような死亡や後見開始がないため、人的な継続性は確保しやすくなります。ただし、解散・破産・担当者の交代・預かり金の管理という別の論点が出てくるため、法人か個人かだけで決めず、契約書の内容と体制まで確認してください。なお、任意後見契約に関する法律4条1項3号ハは、不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者が受任者であるときは、監督人を選任しないと定めています。


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まとめ

成年後見制度は、誰かが家庭裁判所へ申し立てて初めて動きます。

民法第7条が定める後見開始の審判の請求権者に、市町村長は含まれていません

老人福祉法第32条は、65歳以上の方についてその福祉を図るため特に必要があると認めるときに市町村長が請求することができる、と定めているだけです。

一律の申立義務を課す規定ではなく、自動でもありません。

誰かが状況に気づいて、行政につながって、はじめて検討が始まります。

ただし、例外があります。

養護者による虐待の通報や届出があった場合、財産上の不当取引の被害を受け、または受けるおそれがある場合には、高齢者虐待防止法第9条第2項・第27条第2項により、市町村または市町村長に適切な審判の請求が求められます。

しかも、任意後見監督人の選任について請求できるのは、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者の4者だけです。

ここにも市町村長は入っていません。

つまり、任意後見契約を結んでいても、受任者が変化に気づかなければ契約は眠ったままです。

備えは、契約と見守りの2つで1組です。

担い手を自分で選べるのは、選べるうちだけです。

そして、月に一度の電話が、変化に気づき、発効の申立てにつなげる手になります。

行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、おひとりさまの任意後見契約・見守りの取り決め・死後事務委任契約・遺言の設計をお手伝いしています。


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根拠法令・公的資料

  • 民法第7条(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる)※市町村長は請求権者に含まれていません
  • 民法第11条(保佐開始の審判)・第15条第1項(補助開始の審判)
  • 民法第15条第2項(本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない)
  • 民法第843条第1項(家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する)・第4項(成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない)
  • 民法第858条(成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない)
  • 老人福祉法第32条(市町村長は、六十五歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第7条、第11条、第13条第2項、第15条第1項、第17条第1項、第876条の4第1項又は第876条の9第1項に規定する審判の請求をすることができる)
  • 老人福祉法第32条の2第1項(市町村は、前条の規定による審判の請求の円滑な実施に資するよう、後見等の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、研修の実施、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない)
  • 知的障害者福祉法第28条・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の11の2(いずれも同じ構造の市町村長による審判の請求の規定)
  • 任意後見契約に関する法律第4条第1項(任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する)※市町村長は請求権者に含まれていません
  • 任意後見契約に関する法律第4条第3項(本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない)
  • 任意後見契約に関する法律第10条第1項(任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる)・第3項(任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する)
  • 成年後見制度の利用の促進に関する法律第14条第1項(市町村は、成年後見制度利用促進基本計画を勘案して基本的な計画を定めるよう努めるとともに、成年後見等実施機関の設立等に係る支援その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする)
  • ※家庭裁判所へ提出する後見開始の申立書等の作成は司法書士・弁護士の業務です。任意後見契約公正証書を作成するのは公証人であり、行政書士が行えるのはその原案の作成と公証役場との調整、ご相談です
  • 民法第873条の2(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限。相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為、弁済期が到来した債務の弁済、家庭裁判所の許可を得た火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為をすることができる)
  • 民法第973条第1項(成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない)
  • 民法第3条の2(法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする)
  • 公証人法第51条第1項(公証人は、任意後見契約に関する法律第3条に規定する公正証書を作成したときは、後見登記等に関する法律第2条第1項の登記所に任意後見契約の登記を嘱託しなければならない)
  • 後見登記等に関する法律第5条(任意後見契約の登記事項。第5号として、数人の任意後見人が共同して代理権を行使すべきことを定めたときは、その定めを記録する)
  • 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第9条第2項(通報又は届出があった場合には、市町村又は市町村長は、適切に、老人福祉法第32条の規定により審判の請求をするものとする)・第27条第2項(財産上の不当取引の被害を受け、又は受けるおそれのある高齢者について、市町村長は、適切に、老人福祉法第32条の規定により審判の請求をするものとする)・第28条(成年後見制度の利用に係る経済的負担の軽減のための措置等)
  • ※成年後見及び遺言の制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が令和8年6月24日に公布されていますが、成年後見制度の見直しに係る改正は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。本記事は、現在施行されている後見・保佐・補助の制度を前提としています(当法人確認日 2026年8月27日)

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この記事の執筆者:大塚 英司

行政書士法人トゥモローズ 代表行政書士(日本行政書士会連合会 登録番号 第18082222号)
税理士(東京税理士会新宿支部 登録番号 117702)

相続を専門に取り扱う行政書士・税理士。相続手続き・遺言・おひとりさま終活の実務に幅広く従事し、戸籍収集や遺産分割協議書の作成から、死後事務委任契約・任意後見契約といった生前対策の設計まで、ご相談者お一人おひとりの状況に応じて丁寧にサポートしている。