賃貸のおひとりさまの終活|死亡後の解約・残置物処分を誰に頼むか
10秒でわかる この記事の要約
- 持ち家の方の備えはよく語られますが、賃貸にお住まいの方のほうが、実は段取りが要ります。
- 借主が亡くなっても、賃貸借契約は自動では終わりません。民法第896条により、賃借権は相続されます。
- 相続人がいなければ、解約する人も、荷物を運び出す人もいません。家賃だけが発生し続けます。
- 国土交通省と法務省は、この問題のために「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しています。
- 生前に解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約を結んでおけば、亡くなった後に解約と片づけを進められます。
- 本記事では、何が起きるのかを条文で確認し、生前にできる手当てを整理します。
「持ち家がないので、相続で揉めることはありません」
賃貸にお住まいのおひとりさまから、よく伺う言葉です。
ただ、持ち家がなくても相続手続きがなくなるわけではありません。
預貯金、敷金を清算した後の返還分、家財、未払家賃。どれも残ります。
そのうえ、賃貸には賃貸の問題があります。
亡くなった後、誰が部屋を解約し、誰が荷物を出すのかという問題です。
本記事では、借りている本人が生前にできることを整理します。
亡くなった後にご遺族が対応する場面は賃貸住宅に住んでいた親が亡くなったらにまとめました。
亡くなっても、賃貸借契約は終わらない
まず、いちばん誤解されている点から。
借主が亡くなっても、賃貸借契約は自動的には終わりません。
民法第896条は、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。
ただし書きで、被相続人の一身に専属したものは除かれますが、賃借権は一身専属の権利ではありません。
つまり、部屋を借りる権利も、家賃を払う義務も、相続人に引き継がれます。
解約するまで、家賃は発生し続けます。
亡くなった時点で支払期日が到来していた未払家賃は、死亡の時に現に存在し確実と認められる債務として、相続税の計算で債務控除の対象になり得ます(関連解説(税理士法人トゥモローズ)「【相続税申告】債務控除をわかりやすく徹底解説」)。
一方、原状回復費用は注意が要ります。
普通借家契約は死亡では終わらないため、亡くなった時点では負担義務も金額も確定していないことがあります。
後日の解約と明渡しによって初めて発生・確定した費用まで、当然に被相続人の債務として控除できるわけではありません。
亡くなった後に契約が続いたために発生した家賃も、同じく区別して判定します。
敷金の返還請求権そのものは相続されます。
ただし返還の時期と金額は、賃貸借の終了と明渡しの後に、未払家賃や原状回復費用を差し引いて確定します。
判定と申告は税理士の業務です。
なお、契約の種類によっては、死亡で終わるものもあります。
| 契約の種類 | 借主が亡くなったとき |
|---|---|
| 普通借家契約 | 賃借人の地位を相続人が承継する |
| 定期建物賃貸借 | 期間中に亡くなれば、原則として相続人が承継する |
| 終身建物賃貸借 | 賃借人の死亡時に終了し、賃借権は相続されない |
3行目は、高齢者向けの特別な制度です。
高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)第54条第1号は、終身建物賃貸借を、公正証書などの書面で契約し、賃借人の死亡に至るまで存続し、賃借人が死亡した時に終了するものと定めています。
都道府県知事の認可を受けた事業者だけが扱えるもので、対象は原則として60歳以上の方です(同法第52条第1項)。
ただし、契約が終わっても荷物は残ります。
終身建物賃貸借であっても、残置物の処理は別に手当てが必要です。
ご自身の契約書がどれに当たるか、まず確認してください。
相続人がいる場合の手続きも、単純ではありません。
賃借人の地位も家財も共同相続の対象になるため、相続人が複数いれば、1人の判断だけで他の相続人の物になった家財まで自由に処分できるとは限りません。
| 状況 | 主な対応 |
|---|---|
| 相続人が判明し、全員が協力する | 相続人全員、または権限を与えられた代表者が解約・搬出 |
| 相続人はいるが所在が分からない | 不在者財産管理人などを検討 |
| 相続人はいるが対応しない | 協議・交渉。紛争になれば弁護士 |
| 全員が放棄し、相続人がいない | 相続財産清算人の選任を申し立てる |
| 生前にモデル契約を結んでいる | 受任者が契約の範囲内で対応する |
4行目には、注意が要ります。
相続放棄をお考えの方は、放棄が受理される前に家財を売却したり廃棄したりしないでください。
民法第921条第1号の相続財産の処分にあたり、単純承認したものとみなされるおそれがあるためです。
放棄が受理された後は、話が変わります。
民法第939条により、放棄した方は初めから相続人とならなかったものとみなされます。
ただし、相続財産を隠したり、勝手に使ったりすれば、民法第921条第3号の問題になります。
また、放棄の時に現に占有していれば、民法第940条第1項により、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務が残ります(相続放棄後の管理義務)。
放棄を検討中の方も、申述後の方も、解約・搬出・廃棄をする前に弁護士等へ確認してください。
原状回復についても、誤解が多い点があります。
借りた当時の新品の状態に戻すことではありません。
民法第621条は、通常の使用や収益によって生じた損耗と経年変化を、賃借人の原状回復義務から除いています。
負担するのは、故意や過失による損傷、通常の使用を超える損耗などです。
そして、相続人がいないケースが、おひとりさまで実際に起きていることです。
動ける人がいません。
大家さんは請求先を失い、部屋は動かせず、家賃だけが積み上がります。
相続財産清算人も、自動的に選ばれるわけではありません。
民法第952条第1項により、利害関係人または検察官の請求が必要です。
大家さんや保証会社が債権者として申し立てる場面もあります。
相続財産清算人の選任には時間も費用もかかります(相続財産清算人とは)。
この状態を避けるために、生前の手当てが要ります。
おひとりさま終活サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
同居者がいる場合の例外(借地借家法36条)
先に、例外を1つ押さえておきます。
借地借家法第36条第1項です。
「居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。」
内縁の配偶者や、事実上の養親子にあたる同居者を守る規定です。
借地借家法第36条第2項により、賃貸借関係に基づく債権や債務も、承継した方に帰属します。
ただし、条件が2つあります。
1つは、相続人なしに死亡した場合であることです。
疎遠でも相続人がいれば、この規定は働きません。
もう1つは、事実上夫婦または養親子と同様の関係にあった同居者であることです。
友人としてのルームシェアは含まれません。
なお、承継したくない場合は、相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に賃貸人へ反対の意思を表示すれば承継しません。
この例外に当てはまらないなら、やはり生前の契約が要ります。
内縁のパートナーへ財産を遺す方法は内縁・事実婚・同性パートナーに財産を遺す方法にまとめました。
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国土交通省と法務省が用意したモデル契約条項
ここからが本題です。
国土交通省と法務省は、令和3年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を共同で策定しています。
賃借人と受任者との間で結ぶ、死後事務委任契約等のひな形です。
まず、対象を確認してください。
このモデル契約条項は、誰にでも一律に使えるものではありません。
国土交通省は、原則として単身の高齢者(60歳以上の方)が賃貸住宅を借りる場合に利用することを想定していると説明しています。
60歳未満でも、推定相続人がいない、その所在が分からないなど、亡くなったときに残置物を処理すべき方と連絡が取れる見込みが薄い場合には、利用が否定されるものではないとされています。
逆に、残置物リスクが生じにくい場面で使うと、民法や消費者契約法に違反して無効となる場合があります。
「賃貸のおひとりさまなら誰でも使える契約」ではない、ということです。
そのうえで、中身は3つのまとまりから成ります。
| 契約・特約 | 内容 |
|---|---|
| 解除関係事務委任契約 | 賃借人が賃貸借契約の存続中に死亡した場合に、賃貸借契約を終了させるための代理権を受任者に授与する委任契約 |
| 残置物関係事務委託契約 | 賃貸借契約の終了後に、残置物を物件から搬出して廃棄する等の事務を委託する準委任契約 |
| 賃貸借契約に入れる特約 | 上記の契約が賃貸借契約の存続中に終了した場合に、同様の契約を新たに結ぶよう努める旨などを定める条項 |
1つ目について、権限の中身を正確に見てください。
受任者に与えられるのは、次の2つの代理権です。
- 賃貸人との間で賃貸借契約を合意解除する代理権
- 賃貸人からの解除の意思表示を受領する代理権
受任者が単独の判断で、いつでも契約を打ち切れる権限ではありません。
普通借家契約で、協力してくれる相続人が見込めないなら、前の2つは基本的にセットで用意します。
解約だけできても荷物が残っていれば明け渡せません。
荷物を出す権限だけあっても、契約が続いていれば家賃が発生します。
ただし、終身建物賃貸借のように死亡で契約が終わる場合や、相続人が速やかに解約する場合は、残置物の処理だけが問題になることもあります。
解除と残置物処理は、同じ受任者に頼むことも、別の方に分けることもできます。
そして、この契約には期限があります。
モデル条項では、受任者が委任者の死亡を知った時から6か月が経過すると、解除関係事務委任契約が終了する設計になっています。
残置物関係事務委託契約も、同じ期間内に賃貸借契約が終了しなければ終了します。
6か月はモデル上の期間で、実際の契約では事案に応じて定めます。
死亡の連絡が届いたら、受任者はすぐ動く必要があるということです。
なお、民法第653条第1号は委任者の死亡を委任の終了事由としていますが、このモデル契約は、委任者の死亡を停止条件として代理権と事務処理を発生させる形で組まれています。
「死んだ後も対応します」と一文書けば足りるものではありません。
条項の本文と解説は国土交通省のページで公開されています。
大家さんにとっても、入居を受け入れやすくなる材料です。
単身の高齢者が断られる理由の多くは、亡くなった後の処理が読めないことにあります。
入居の申込みの段階でこの契約を用意できれば、話が進みやすくなります。
すぐに捨てられはしない。ただし搬出して別の場所で保管できる
ここは誤解されやすいところです。
契約を結べば、翌日に部屋を空にできる、という仕組みではありません。
モデル契約条項には、後から揉めないための手順が組み込まれています。
1つ目は、捨ててよい物と、捨ててはいけない物を分けることです。
モデル契約条項は、残置物を2つに分けています。
| 区分 | 中身 |
|---|---|
| 指定残置物 | ご本人が「廃棄してはならない」と指定した動産。指定残置物リストに、物と取扱方法を書いておく |
| 非指定残置物 | 指定されていない、ご本人の所有物(金銭を除く) |
遺贈や死因贈与の対象、ご家族の写真、位牌、他人からの預かり物。
指定していなければ、非指定残置物として処理されます。
国土交通省は、リストへの記載やシールの貼付のほか、特定の金庫や容器に入れておく方法も示しています。
家財は増えたり減ったりするので、リストは定期的に更新することが前提です。
2つ目は、待つ期間があることです。
非指定残置物の廃棄や換価は、ご本人の死亡から一定期間(モデルでは3か月)が経過し、かつ賃貸借契約が終了した後でなければできません。
食料品など、3か月保管できないものは例外として直ちに廃棄できます。
国土交通省は、3か月を下回る期間を定めることは避けるべきだとしています。
ただし、3か月のあいだ部屋を空けられない、という意味ではありません。
受任者は、契約に基づく事務の処理にあたって、家財を物件から搬出し、物件以外の場所に保管できます。
国土交通省も、倉庫やトランクルームでの保管を想定しており、適切な保管場所があるなら搬出して他所に保管することが望ましいとしています。
部屋に置いたままだと、大家さんは次の方に貸せず、相続人にも家賃相当の負担が生じ続けるからです。
できる時期を整理します。
| 行為 | できる時期・条件 |
|---|---|
| 物件から搬出し、別の場所で保管する | 3か月の経過を待たずにできる。通知先を定めていれば原則2週間前までに通知し、第三者の立会いで確認・記録 |
| 保管に適さない食料品などの廃棄 | 死亡後すぐにできる |
| 非指定残置物の廃棄・換価 | 原則として死亡から3か月等の経過+賃貸借契約の終了の後 |
| 指定残置物の送付 | 賃貸借契約の終了後、指定された送付先へ |
| 指定残置物の換価・廃棄 | 送付が不可能・困難などの条件を満たし、原則として死亡から3か月等の経過+契約終了の後 |
3つ目は、通知です。
受任者は、ご本人の死亡を知ったら、あらかじめ決めておいた「委任者死亡時通知先」へ直ちに知らせます。
そのうえで、家財を搬出するときは、2週間前までに同じ通知先へ知らせる必要があります。
なお、通知先を決めること自体は必須ではありません。
モデル条項でも、通知を希望しない場合は記載しなくてよい扱いです。
ただし、後から相続人と揉めるのを防ぐ意味が大きいので、決めておいてください。
通知先は、揉めごとを防ぐ観点から推定相続人のお一人が望ましいとされています。
4つ目は、価値のある物をそのまま捨てないことです。
換価できる非指定残置物については、できるだけ換価するよう努めるものとされています。
5つ目は、記録です。
搬出にあたっては、第三者の立会いのもとで状況を確認し、記録しなければなりません。
立ち会う第三者には、相続人、通知先のほか、大家さんや管理会社も想定されています。
記録は写真撮影などによることが考えられる、と示されています。
6つ目は、お金の行き先です。
室内にあった金銭と、換価によって得た代金は、受任者のものにはなりません。
相続人へ返還し、相続人の存否や所在が分からず、過失なく知ることができないときは供託して義務を果たします。
処理にかかった費用等は、その合計額から控除できるとされています。
7つ目は、相続人を無視できないことです。
戸籍調査のような積極的な探索までは求められていません。
ただし、室内に残された物から相続人の存在と住所が分かる場合には、連絡を取るなどの対応が必要とされています。
相続人の意向が知れているときは、その内容を考慮して事務を行います。
この手順があるからこそ、後から揉めにくい仕組みになっています。
裏返せば、生前にリストと通知先を決めていない契約は、現場で機能しにくいということです。
ペット、遺骨、重要書類のように、法令で取扱いが定められている物は、別に相談して決めてください。
最後に、外部の業者へ頼むときの注意です。
「遺品整理業者」「古物商」という看板があれば何でも運び出して処分できる、というものではありません。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第7条第1項は、一般廃棄物の収集または運搬を業として行おうとする者は、その区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならないと定めています。
ご家庭から出る家財の多くは一般廃棄物です。
売れる物と捨てる物を分けたうえで、市区町村の許可または委託の有無、家電リサイクル法の対象品の扱いを確認してください。
受任者を誰にするか
モデル契約条項で決めるのは、内容だけではありません。
誰に頼むかが、実際にはいちばん重要です。
国土交通省は、まず賃借人の推定相続人のいずれかを受任者とするのが望ましいとしています。
解除の代理権を使えば相続人が賃借人の地位を失うため、相続人の利害に直接影響するからです。
推定相続人の所在が分からない、引き受ける意思がないなど、難しい場合に、居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人などの第三者を受任者とするのが望ましいとされています。
一方で、避けるべき相手もはっきり示されています。
| 相手 | 考え方 |
|---|---|
| 大家さん本人 | 避けるべき。賃借人の利益を一方的に害するおそれがあり、民法第90条や消費者契約法第10条に違反して無効となる可能性がある |
| 家賃債務保証業者 | 契約の終了が遅いほど保証債務が増え、利害が対立する。公序良俗に反して無効と判断される可能性がある |
| 管理業者(転貸人の立場) | 避けるべき |
| 管理業者(転貸人でない) | 直ちに無効とはいえないが、大家さんの利益を優先せず、借主とその相続人のために誠実に対応する必要がある |
管理業者に頼む場合、もう1点あります。
物件の管理会社が変わっても、受任者の地位は自動的には引き継がれません。
地位を移すか、いったん合意解除して新しい管理会社と結び直すことになります。
居住支援法人についても、確認が要ります。
令和7年10月1日から、入居者からの委託に基づく残置物処理が住宅セーフティネット法第62条第5号として居住支援法人の業務に追加されました。
ただし、この業務を行うには、同法第64条第1項第2号により残置物処理等業務規程を定め、都道府県知事の認可を受ける必要があります。
つまり、指定されていれば必ず引き受けてくれるわけではありません。
都道府県の一覧で法人を探した後、解除関係事務と残置物処理のどちらを受けているか、対応地域、費用、亡くなったときの連絡方法を個別に確かめてください。
そして、受任者が先に欠ける場合の備えも必要です。
民法第653条第1号により、受任者が先に亡くなれば委任は終了します。
このとき、契約書に第2順位の方の氏名を書いただけでは足りません。
第2順位の方ご本人とも、委任者の死亡によって終了しない条件付契約を結んでおいてください(死後事務委任の受任者が先に亡くなったら)。
なお、モデル契約条項の委任契約は、民法の原則どおり当事者がいつでも解除できます。
賃貸借契約の存続中に終了した場合は、同様の契約を速やかに結び直すよう努める旨が特約に定められています。
費用の考え方は死後事務委任契約の費用相場にまとめました。
入居のときに求められるもの
すでに住んでいる方だけでなく、これから住み替える方にも関わる話です。
高齢の単身者が賃貸を申し込むと、次のように求められます。
| 求められるもの | 備え方 |
|---|---|
| 連帯保証人 | 家賃債務保証会社を使う方法がある。極度額の記載を確認する |
| 緊急連絡先 | 支払義務とは別。誰に頼むかを先に決めておく |
| 亡くなった後の対応 | モデル契約条項による解除関係事務委任・残置物関係事務委託 |
1行目について、確認してほしい点があります。
個人が連帯保証人になる場合、家賃や原状回復費用など将来発生する不特定の債務をまとめて保証することになります。
民法第465条の2第2項により、極度額を定めなければ効力を生じません。
契約書に上限額の記載があるか、必ず見てください(入院費・施設費は誰が払うのか)。
2行目も分けて考えてください。
緊急連絡先を引き受けただけでは、支払義務は生じません。
頼む側も引き受ける側も、そこを取り違えないようにしてください(身元保証人がいない場合の対処法)。
生前にやっておくこと
順番に整理します。
| やること | 効き方 |
|---|---|
| 契約書を読み直し、普通借家・定期借家・終身建物賃貸借のどれか確認する | 亡くなったときに契約が終わるかどうかが分かる |
| 保証人・保証会社・特約の内容を確認する | いま誰が何を負っているかが分かる |
| 解除関係事務委任契約を結ぶ | 亡くなった後に賃貸借契約を終わらせられる |
| 残置物関係事務委託契約を結ぶ | 家財の送付・換価・廃棄を進められる |
| 賃貸借契約に関連する特約を入れる | 契約が途中で終わったときに結び直す道筋ができる |
| 指定残置物リストを作り、年1回見直す | 遺贈の対象・貴重品・他人の物を誤って捨てられずに済む |
| 送付先と委任者死亡時通知先を決める | 亡くなった後に受任者から連絡が行く |
| 契約の失効期限(モデルでは6か月)と死亡後の初動を確認する | 期限が過ぎて代理権が消えるのを防ぐ |
| 第2順位の方ご本人とも契約する | 受任者が先に欠けても止まらない |
| 荷物を減らし、貴重品の場所を1枚にまとめる | 搬出の費用と時間が減る |
| 処理費用と未払家賃の原資を決めておく | 受任者が自腹で立て替えずに済む |
| 大家さん・管理会社へ、契約を結んだことを伝える | いざというとき、誰へ連絡すればよいか分かる |
| 財産の行き先を遺言で決める | 敷金の返還分や残った財産が宙に浮かない |
下から2行目を忘れないでください。
契約を結んでも、大家さんが受任者を知らなければ連絡が来ません。
国土交通省のモデル契約条項も、賃貸借契約の締結を前提とした記載例を用意しています。
そして最後の行です。
賃貸だからといって、遺言が不要になるわけではありません。
敷金の返還分、預貯金、家財の売却代金は残ります。
相続人がいなければ、最終的には国庫へ帰属することになります(おひとりさまの終活契約)。
私見ですが、この類型でいちばん効くのは解除関係事務委任契約です。
国が様式まで用意している数少ない分野で、大家さんにも説明しやすいという利点があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 大家さんに死後事務委任契約を結んでいることを伝える必要はありますか?
A. 伝えてください。契約を結んでいても、大家さんや管理会社が受任者を知らなければ、亡くなった後に連絡が届きません。国土交通省のモデル契約条項にも、残置物処理等に関する委任契約の締結を前提とした賃貸借契約を締結する場合の記載例が用意されています。すでに入居中の方でも、単身高齢者で個人の保証人がおらず推定相続人の存否も不明といった残置物リスクが高い場面であれば、入居者との合意のうえでモデル契約条項を利用すること自体は否定されていません。次の更新まで待つ必要はありません。ただし、この委任契約に関連する条項を賃貸借契約の中に特約として盛り込む場合は、すでに結んでいる賃貸借契約の変更が必要になります。早めに管理会社へ相談し、受任者の氏名と連絡先を書面で渡しておいてください。
Q2. 受任者を大家さんにお願いすることはできますか?
A. 避けるべきとされています。大家さんは賃貸借契約の相手方であり、早く部屋を明け渡してほしいという立場です。借主本人やその相続人の利益と衝突します。国土交通省は、大家さんを受任者とする解除関係事務委任契約について、民法90条や消費者契約法10条に違反して無効となる可能性があるとしています。家賃債務保証業者も、契約の終了が遅いほど保証債務が増えるため利害が対立し、公序良俗に反して無効と判断される可能性があるとされています。モデル契約条項は、まず推定相続人のいずれかを受任者とすることが望ましく、難しい場合に居住支援法人などの第三者を想定しています。
Q3. 相続人が相続放棄をしたら、部屋の荷物はどうなりますか?
A. 相続放棄をすれば賃借人の地位を承継しないため、放棄した方が解約や搬出を行う立場ではなくなります。ここで大事なのは時系列です。相続放棄が受理される前に家財を売却・廃棄すると、民法921条1号の相続財産の処分にあたり、単純承認したものとみなされるおそれがあります。受理された後は、民法939条により初めから相続人でなかったものとみなされますが、相続財産を隠したり勝手に使ったりすれば民法921条3号の問題になります。また、放棄の時に現に占有していた財産については、民法940条1項により、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで自己の財産と同一の注意をもって保存する義務があります。なお、その方自身が連帯保証人になっている場合、保証契約に基づく責任は相続放棄とは別に残ります。放棄を検討中の方も申述後の方も、解約・搬出・廃棄をする前に弁護士等へ確認してください。
Q4. 荷物が少なければ、契約まではしなくてもよいのではないですか?
A. 荷物の量にかかわらず、賃貸借契約を終了させる権限がなければ家賃は発生し続けます。解除関係事務委任契約は、まさにこの解約のための代理権を委任するものです。荷物が少ないなら残置物関係事務委託契約の負担は軽くなりますが、解約の手当ては別に必要です。なお、荷物を減らしておくと搬出の費用と時間が減るため、生前整理そのものは有効です。
おひとりさま終活サポートの内容と料金の全体像は、こちらにまとめています。
まとめ
借主が亡くなっても、賃貸借契約は自動的には終わりません。
民法第896条により賃借権は相続され、解約するまで家賃は発生し続けます。
相続人がいなければ、解約する人も荷物を出す人もいません。
借地借家法第36条第1項の例外は、相続人なしに死亡した場合で、事実上夫婦または養親子と同様の関係にあった同居者がいるときに限られます。
この例外に当てはまらないなら、生前の契約が要ります。
国土交通省と法務省は「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しています。
解除関係事務委任契約で賃貸借契約を終了させる代理権を渡し、残置物関係事務委託契約で荷物の搬出と廃棄を委託します。
ただし、契約があれば翌日に部屋を空にできるわけではありません。
指定残置物リスト、死亡から3か月等の期間、通知、換価、記録、金銭の返還。
この手順を踏むからこそ、後から揉めにくい仕組みになっています。
受任者は、まず推定相続人のいずれかから考え、難しければ居住支援法人などの第三者を検討してください。
大家さんや家賃債務保証業者は、利害が対立するため適しません。
第2順位の方についても、氏名を書くだけでなくご本人と契約してください。
そして、契約を結んだことを大家さんや管理会社へ伝えてください。
知らせていなければ、いざというときに連絡が届きません。
行政書士法人トゥモローズは、東京・八丁堀(東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」徒歩3分)の事務所を拠点に、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)とオンライン(Google Meet・全国対応)で、おひとりさまの死後事務委任契約・任意後見契約・遺言の設計をお手伝いしています。
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亡くなった時点で支払期日が到来していた未払家賃など、死亡の時に現に存在し確実と認められる債務は、相続税の債務控除の対象になり得ます。一方、普通借家契約は死亡では終わらないため、原状回復費用は死亡時に負担義務と金額が確定していないことがあります。後日の解約と明渡しで初めて確定した費用や、死亡後に契約が続いたことによる家賃まで当然に控除できるわけではありません。敷金返還請求権は相続されますが、金額は明渡し後に清算して確定します。判定と申告は税理士の業務です。
根拠法令・公的資料
- 民法第896条(相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない)※賃借権は一身専属の権利ではないため相続される
- 借地借家法第36条第1項(居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない)・第2項(賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務の帰属)
- 民法第465条の2第2項(個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じない)
- 民法第653条第1号(委任は、委任者又は受任者の死亡によって終了する)
- 国土交通省・法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」※賃借人と受任者との間で締結する、賃貸借契約の解除及び残置物の処理を内容とした死後事務委任契約等のひな形。解除関係事務委任契約=賃借人が賃貸借契約の存続中に死亡した場合に賃貸借契約を終了させるための代理権を受任者に授与する委任契約。残置物関係事務委託契約=賃貸借契約の終了後に残置物を物件から搬出して廃棄する等の事務を委託する準委任契約。原則として単身の高齢者(60歳以上の者)が賃貸住宅を借りる場合の利用を想定。非指定残置物の廃棄・換価は原則として死亡から3か月等の一定期間の経過と賃貸借契約の終了の後。搬出は委任者死亡時通知先へ2週間前までに通知。第三者の立会いの下で状況を確認・記録。換価代金及び室内の金銭は相続人へ返還し、相続人の存否・所在が不明のときは供託。当法人確認日 2026年8月27日
- 民法第621条(賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷〔通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く〕がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない)
- 民法第921条第1号(相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなす。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない)
- 民法第940条第1項(相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない)
- 民法第952条第1項(相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない)
- 高齢者の居住の安定確保に関する法律第54条第1号(終身建物賃貸借=公正証書による等書面によって契約をする建物の賃貸借であって賃借人の死亡に至るまで存続し、かつ、賃借人が死亡した時に終了するもの)・第52条第1項(対象は60歳以上の者。都道府県知事の認可を受けた場合に借地借家法第30条の特例が認められる)
- 住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律第62条第5号(居住支援法人の業務として、賃借人である住宅確保要配慮者からの委託に基づき、その死亡時における賃貸借契約の解除並びに住宅及びその敷地内に存する動産の保管、処分その他の処理を行うこと)・第64条第1項第2号(残置物処理等業務を行う場合は残置物処理等業務規程を定め、都道府県知事の認可を受けなければならない)※令和7年10月1日施行
- 民法第921条第1号(相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなす。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない)・第3号(限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき)
- 民法第939条(相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす)
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律第7条第1項(一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならない)
- ※賃貸借契約の媒介は宅地建物取引業者、紛争の代理は弁護士、相続税の債務控除・申告は税理士、家庭裁判所へ提出する申立書等の作成は司法書士・弁護士の業務です
