医療法人の出資持分の評価引き下げ対策を徹底解説

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この記事の執筆者:角田 壮平

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は200件以上。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

みなさんこんにちは!
相続専門の税理士法人トゥモローズです。

医療法人の出資持分の相続税評価は一般の企業に比べると高くなりがちです。
理由としては医療法という医療法人が守らなければいけない法律があり、一般企業に比べ様々な制約があるためです。

そんな中でも医療法人の出資持分の評価を引き下げることは可能です。
主な引き下げ対策は下記の3つです。

1.利益を圧縮する
2.純資産を圧縮する
3.特定の評価会社に該当しないようにする

上記3つについて詳しく解説していきます。

なお、医療法人の出資持分の相続税評価の詳しい解説は、医療法人の出資持分の相続税評価について徹底解説をご参照ください。

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1.医療法人の出資持分が高額になる理由

医療法人は医療法により様々な制約があります。

例えば医療法人は配当を出すことができません。
一般企業であれば配当として株主に還元することにより純資産を減額することができます。
これに対し医療法人は配当ができないため内部留保が蓄積され評価額が高額になってしまうのです。

また、一般企業では不動産投資や株式投資をすることによって純資産を圧縮することが可能です。
純資産を圧縮できれば株価を下げることができるため株価対策の有効手段として不動産投資、株式投資が活用されています。
これに対し、医療法人は不動産投資、株式投資等の収益事業を行うことを医療法により禁止されています。

これらの理由により医療法人の出資持分は一般企業に比べて高額になりがちなのです。

2.利益を圧縮する

利益を圧縮することにより類似業種比準価格を引き下げることができます。
医療法人の類似業種比準価格は利益と純資産を上場会社の利益と純資産に比準して株価を算出します。
類似業種比準価格の詳しい解説は、非上場株式の評価 類似業種比準価額方式 徹底解説!をご参照ください。

一般企業の場合には利益と純資産に加え配当金も比準しますので、医療法人の利益を圧縮できた場合には一般企業に比べ株価引き下げ効果が高いのです。

なお、類似業種比準価格は評価対象日の直前事業年度の利益を基準としますので、出資持分の評価を引き下げたい日の前事業年度の利益を引き下げることを忘れないでください。

例えば、3月決算の医療法人の場合でR6.10.1に出資持分の贈与を考えていたとします。
この場合に贈与の日の属する事業年度の利益をいくら圧縮しても意味はありません。
R6.3.31までに利益を圧縮する取引をしなければならないのです。

それでは、そろそろ具体的な利益圧縮対策について解説してきます。

主な利益圧縮策は下記の通りです。

(1)病院の大規模修繕を実施する
(2)役員報酬を増額する
(3)役員退職金を支給する
(4)不良資産を除却する
(5)MS法人に利益を移転する

(1)病院の大規模修繕を実施する

病院の大規模修繕等を実施しすることによりその実施事業年度の利益を圧縮する方法です。
設立から長期間経っている医療法人は病院建物も老朽化しているケースが多いです。

病院を建て替えるほどではない状況のときは修繕で対応します。

現状を回復する程度の修繕であれば一括で費用化できますのでキャッシュアウトした金額がそのまま利益圧縮額となります。

建物の価値を上げるようなリフォームだと資本的支出として資産に計上する必要がありますので利益圧縮効果は薄まります。

(2)役員報酬を増額する

役員報酬を増額することにより医療法人の利益を圧縮する方法です。

ただし、無限に役員報酬を増額できるわけではありません。
税務当局から過大と認定された場合には当該過大部分が損金として認められない可能性もあるため注意が必要です。
顧問税理士とよく相談して増加額を決めるようにしましょう。

(3)役員退職金を支給する

事業承継のタイミングで出資持分を次世代に贈与する場合には役員退職金の支給による利益圧縮が得策です。

役員退職金を支給しその事業年度の利益を圧縮した後の事業年度で出資持分を後継者に贈与するというスキームです。

なお、役員退職金はどんなに高額でも認められるわけではありません。
一般的には下記の功績倍率法の金額を超えない水準であれば認められる可能性は高いでしょう。

退職する理事長の最終報酬月額 ✕ 在任年数 ✕ 功績倍率(3倍程度)

(4)不良資産を除却する

古くなった医療機器等があってその医療機器等の帳簿価額が残っている場合には除却することにより固定資産除去損を計上することができます。
不良資産の見直しをしつつ、利益も圧縮できるという一石二鳥の対策となります。

(5)MS法人に利益を移転する

MS法人とはメディカルサービス法人の略です。
医療法人は医療業務しか出来ないためMS法人を設立して物品販売業や不動産賃貸業を実施します。
よくあるスキームだと病院の土地や建物をMS法人が所有してそれを医療法人に賃貸する方法です。
この賃料を調整することにより医療法人の利益をMS法人に移転することができるのです。

ただし、租税回避のためにMS法人と恣意的な取引をしてしまうと税務当局から否認されるケースもあるため注意しましょう。
恣意的な取引かどうかの基準は、第三者との取引と同水準かどうかです。
第三者との取引ではあり得ない対価や条件だと否認される可能性が高くなるため注意が必要です。

3.純資産を圧縮する

純資産を圧縮することにより、利益を圧縮した場合と同様に類似業種比準価格を引き下げることが可能です。
また、純資産を圧縮した場合には類似業種比準価格だけでなく純資産価額も引き下げることが可能です。
したがって、純資産を圧縮できた場合には2つの価額を引き下げられるため一挙両得、一石二鳥なのです。
純資産価額の詳しい解説は、純資産価額方式を使った自社株式の評価方法を徹底解説をご参照ください。

主な純資産圧縮策は下記の通りです。

(1)病院を建て替える
(2)役員退職金を支給する
(3)土地の契約関係を見直す

(1)病院を建て替える

もし病院建物が老朽化していて建替の時期であるならば出資持分を後継者に贈与する前に病院を建て替えると出資持分評価を大幅に圧縮することが可能です。

建物の評価は固定資産税評価額になります。
3億円で建築した病院建物の固定資産税評価額は2億円以下になることもあります。
建物の評価については詳しい解説は、家屋(建物)の相続税評価額を徹底解説をご参照ください。

なお、病院を建て替えるときの注意点は下記2点です。

①類似業種比準価格には大きな影響はない

類似業種比準価格で使う純資産価額は帳簿価額を採用しますので病院を建て替えても類似業種比準価格を大幅に引き下げる効果はありません。

②建築後3年経過しないと効果がない

土地や建物については取得後3年経過したときに相続税評価額を採用することが可能です。
すなわち、取得後3年以内の場合の建物は原則として帳簿価額で評価することになるため純資産価額を圧縮することはできません。

(2)役員退職金を支給する

こちらは前述の利益を圧縮するで解説したものと同様ですが、役員退職金を支給することで利益だけでなく純資産も圧縮することが可能なのです。

(3)土地の契約関係を見直する

理事長所有の不動産を病院として使用している場合には、理事長個人と医療法人との契約関係を見直すことで純資産を圧縮できる可能性があります。
仮に使用貸借(個人の不動産を無償で医療法人に貸している)の場合には税制上不利な取り扱い(小規模宅地等の特例の適用ができない等)を受けるケースもありますので相続専門の税理士に見直してもらうことをお勧めします。

4.特定の評価会社に該当しないようにする

特定の評価会社とは、一定の要件に該当してしまった場合には通常の出資持分の評価ではなく別に定められた評価方法にて評価しなければいけない会社のことです。
簡単に言うと特定の評価会社に該当してしまうと評価額が高くなってしまいます。
医療法人がなりやすい特定の評価会社は、ずばり、「比準要素1の会社」です。
医療法人は配当という要素がなく、利益と純資産のみで比準要素の判定をするため一般企業に比べると比準要素1の会社になりやすいのです。

特に利益には注意が必要です。

出資持分の評価を下げようと利益を圧縮しすぎて利益がマイナスになり比準要素1になってしまいます。

比準要素1の会社は類似業種比準価格25%と純資産価額75%で評価することを強制されます。

一般的に類似業種比準価格のほうが低くなる(会社によっては純資産価額10分の1程度の場合もあります)ので、純資産価額の割合が高くなると評価も大幅に増額する可能性があります。

したがって、利益を圧縮しつつも比準要素1の会社にならないように注意しなければなりません。

比準要素1の会社の詳しい解説は、非上場株式の相続税評価 「比準要素数1」の会社は株価が高くなる!?をご参照ください。

5.出資額限度医療法人への移行は評価引き下げ効果はない

出資額限度医療法人とは、定款において社員の退社時や法人の解散時に社員に払い戻す財産を払込出資額を限度とすることが明らかにされている医療法人のことです。

最終的に払込出資額しか戻ってこないのだから医療法人の出資持分の評価は払込出資額相当となりそうですが、そんな甘くはありません。

国税庁から下記見解が公表されており、持分あり医療法人が出資額限度医療法人に移行したとしても出資持分の評価は持分あり医療法人と変わらないということです。

詳しい解説は、国税庁HP 持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等の課税関係について(照会)をご参照ください。

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