国際相続の税務調査|CRS・国外送金等調書で海外財産は把握されている【税理士解説】

・海外の金融口座情報は「CRS」により各国税務当局に自動共有されており、申告漏れは高確率で発覚する
・国外財産調書の未提出や虚偽記載は加算税の加重や重加算税の対象となる
・海外財産特有の調査ポイントは「送金と残高の整合性」「名義と実質所有者の一致」
・当事務所の実務経験では、海外預金の申告漏れが最も指摘されやすい
「海外に財産があっても、日本の税務署にはバレないだろう」
そう思っていませんか?
残念ながら、その考えは完全に時代遅れです。
2018年から本格稼働した「CRS(共通報告基準)」により、世界100か国以上の税務当局が金融口座情報を自動交換しています。
あなたの海外口座の残高は、毎年自動的に国税庁に届いているのです。
CRSの詳しい仕組みについては「CRS(共通報告基準)と相続|海外資産は税務署に把握される?」で解説しています。
今回は、年間350件超の相続税申告を手がける当事務所の実務経験をもとに、国際相続における税務調査のポイントと、海外財産特有の調査手法について詳しく解説します。
税務調査の基本的な流れについては「【2025年最新】相続税の税務調査をわかりやすく徹底解説!」も併せてご覧ください。
目次
国際相続が税務調査で狙われやすい3つの理由
まず押さえておきたいのは、「海外財産を持つ納税者は、税務調査の対象になりやすい」という事実です。
その理由は明確です。
(1)調査官の人事評価に直結する
国税庁は「国際戦略トータルプラン」を掲げ、海外資産の把握に多額の予算と人員を投入しています。
海外財産の申告漏れを発見した調査官は、内部で高く評価されます。
つまり、調査官にとって海外案件は「出世につながる案件」なのです。
(2)申告漏れの金額が大きくなりやすい
海外に資産を持つ方は、国内のみの資産保有者と比較して、総資産額が大きい傾向にあります。
申告漏れが発見された場合の追徴税額も必然的に大きくなるため、税務署としても「効率の良い調査対象」となります。
「相続税の税務調査に入られやすいケース8選とその対策を徹底解説!」も参考にしてください。
(3)情報の非対称性を利用した隠蔽を疑われやすい
以前は海外財産の情報を税務署が把握することが困難でした。
そのため、意図的に海外に財産を移転し、課税を逃れようとするケースが実際に存在しました。
現在はCRSにより状況が一変していますが、税務当局は依然として海外財産に対して厳しい目を向けています。
税務署が海外財産を把握する4つの情報源
「どうやって海外の財産を把握するのか?」
この疑問にお答えします。
税務署は主に以下の4つの情報源から、あなたの海外財産を把握しています。
(1)CRS情報(共通報告基準)
CRS(Common Reporting Standard)は、海外財産把握の最大の武器です。
CRSとは、OECD(経済協力開発機構)が策定した共通報告基準で、世界100か国以上が参加しています。
この制度により、各国の金融機関は非居住者の口座情報を自国の税務当局に報告し、その情報が口座保有者の居住国の税務当局に自動的に提供されます。
・口座保有者の氏名、住所、居住地国
・金融機関名、口座番号
・年末時点の口座残高
・利子・配当・譲渡収入の年間受領総額
国税庁公表では、令和6事務年度に日本居住者のCRS情報約275万件を101か国・地域から受領しています。
香港、シンガポール、ケイマン諸島など、かつてのタックスヘイブンと呼ばれた地域も、現在はCRSに参加しています。
なお、アメリカはCRSの枠組み(報告対象国)には含まれていません。
そのため、アメリカ口座はCRSで“自動的に毎年届く”とは限らず、租税条約に基づく要請による情報交換など、別ルートで把握される可能性があります。
アメリカの制度については「FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)と相続|米国資産がある方の注意点」をご参照ください。
(2)国外送金等調書
国内の金融機関を通じて100万円を超える海外送金・海外からの受金があった場合、金融機関から税務署に「国外送金等調書」が提出されます。
これは法定調書の一種であり、金融機関には提出義務があります。
例えば、相続発生前に被相続人が海外に多額の送金をしていた場合、その送金先に何らかの財産が存在する可能性が高いと税務署は推測します。
海外送金と税金の関係については「海外送金に税金はかかる?贈与税とお尋ね対応」で詳しく解説しています。
(3)国外財産調書
毎年12月31日時点で5,000万円を超える国外財産を保有する居住者は、翌年6月30日までに「国外財産調書」を提出する義務があります。
この制度は平成26年から開始されており、提出状況は税務署でデータベース化されています。
国外財産調書を提出していない、または虚偽記載があった場合、過少申告加算税が5%加重されるペナルティがあります。
詳しくは「国外財産調書制度を徹底解説!提出義務から書き方まで完全ガイド」をご覧ください。
(4)租税条約に基づく情報交換
CRSとは別に、二国間の租税条約に基づく情報交換も活発に行われています。
情報交換の種類は以下の3つです。
| 種類 | 内容 |
| 自動的情報交換 | CRSに基づき、定期的に自動で情報を交換 |
| 要請に基づく情報交換 | 具体的な調査案件について、相手国に情報提供を要請 |
| 自発的情報交換 | 自国の調査で得た情報のうち、相手国に有益な情報を自発的に提供 |
海外財産特有の税務調査ポイント5選
当事務所で経験した事例をもとに、海外財産の税務調査で特に注目されるポイントを解説します。
(1)送金額と口座残高の整合性
これが最も指摘されやすいポイントです。
税務署はCRS情報で海外口座の残高を、国外送金等調書で送金履歴を把握しています。
例えば、過去5年間で合計1億円を海外に送金しているのに、CRS情報で把握した口座残高が1,000万円しかない場合、「残りの9,000万円はどこに行ったのか?」という疑問が生じます。
この差額について、有価証券の購入、不動産の取得、現地での消費など、合理的な説明ができなければ、申告漏れを疑われます。
(2)名義と実質所有者の一致
海外では、家族名義や法人名義で口座を開設しているケースがあります。
しかし、名義が異なっていても、実質的に被相続人の財産であれば相続財産に含まれます。
特に以下のようなケースは要注意です。
・被相続人が設立したオフショア法人の口座
・被相続人がBeneficiary(実質的支配者)として登録されている口座
CRSでは、法人が一定類型(特定法人)に該当し実質的支配者がいる場合、実質的支配者も特定対象者として扱われ得ます。
したがって、名義が異なっていても実質的支配者として日本の税務当局に報告される可能性があるのです。
国内の名義財産についての考え方は「【相続税】名義預金を税務調査で否認されるパターンを徹底解説【判例を基に】」と同様です。
(3)被相続人名義の口座の申告漏れ
CRS情報により、被相続人名義の海外口座が把握されています。
相続税申告書と照合し、その口座が申告されていなければ、即座に申告漏れが発覚します。
当事務所の経験では、被相続人が海外赴任時代に開設し、帰国後も維持していた口座が申告漏れとなるケースが多いです。
海外銀行口座の相続手続きについては「海外銀行口座の相続解約で失敗しない!5つの落とし穴と対策【税理士解説】」をご覧ください。
(4)海外不動産の申告漏れ
CRSは金融口座が対象であり、不動産は直接の対象ではありません。
しかし、以下のルートで海外不動産の存在が把握されます。
・不動産購入資金の海外送金(国外送金等調書)
・不動産管理会社への管理費支払い
・賃料収入の入金
・固定資産税の支払い
・租税条約に基づく情報交換(現地の登記情報等)
海外不動産の相続税評価については「海外不動産の相続税評価の方法と注意点をわかりやすく解説」をご参照ください。
(5)相続開始前後の資金移動
相続開始の直前に海外に資金を移動させたり、相続開始後に海外口座から引き出しを行ったりするケースは、特に厳しく調査されます。
意図的な財産隠しと認定されれば、重加算税(35%~40%)の対象となります。
生前の資金移動と名義預金の問題については「相続税の税務調査に入られないために「生前にやっておくべきこと7選!」」も参考にしてください。
税務調査で問題になった事例
国税庁が公表している活用事例をもとに、具体的なケースをご紹介します。
事例1:海外役員報酬の申告漏れから相続財産を発見
CRS情報により、被相続人が外国法人から役員報酬を得ていたことが判明。
さらに調査を進めると、その役員報酬を原資として海外で不動産を購入していたことが発覚し、相続税の申告漏れが指摘されました。
事例2:ジョイントアカウントの申告漏れ
被相続人と配偶者の共同名義口座(ジョイントアカウント)について、被相続人の持分相当額が申告されていないケース。
CRS情報には共同名義者の情報も含まれるため、ジョイントアカウントの存在は税務署に把握されています。
ジョイントアカウントは、口座残高の全額が被相続人の相続財産となる可能性があります。資金の拠出割合を証明できる資料の保管が重要です。
ジョイントアカウントの詳細は「ジョイントアカウント(共同名義口座) 相続税、贈与税はどうなる?」をご覧ください。
事例3:海外トラストからの分配金の申告漏れ
被相続人がSettlor(委託者)となっている海外信託(トラスト)からの分配金が申告されていないケース。
海外信託の課税関係については「海外信託(オフショアトラスト)と相続税|課税関係・評価方法・申告上の注意点を解説」をご参照ください。
国外財産調書の加算税への影響
国外財産調書の提出状況は、相続税の税務調査において加算税の計算に直接影響します。
提出していた場合のメリット
国外財産調書を適正に提出していた場合、その調書に記載された財産について申告漏れがあっても、過少申告加算税が5%軽減されます。
これは「優遇措置」と呼ばれ、誠実な情報開示へのインセンティブとなっています。
提出していなかった場合のペナルティ
一方、国外財産調書を提出していなかった場合、または提出していても記載内容に虚偽があった場合は、過少申告加算税が5%加重されます。
| 国外財産調書の状況 | 過少申告加算税への影響 |
| 適正に提出 | 5%軽減(10%→5%、15%→10%) |
| 未提出・虚偽記載 | 5%加重(10%→15%、15%→20%) |
5,000万円超の国外財産がある方は、必ず国外財産調書を提出しましょう。提出することで、万が一の申告漏れの際にもペナルティが軽減されます。
税務調査への対策と事前準備
海外財産を保有している場合、以下の対策を講じておくことが重要です。
(1)資金の流れを説明できる資料の整備
・海外送金の目的と使途を示す資料
・海外での資産購入に関する契約書
・為替レートと円換算の計算根拠
・海外口座の入出金明細(少なくとも過去5年分)
(2)名義財産の整理
・家族名義の口座について、資金の出所と管理状況を整理
・オフショア法人や海外信託がある場合は、その実態を整理
・「実質所有者」の判定基準を踏まえた分析
(3)専門家への相談
国際相続の税務調査は複雑であり、租税条約や各国の制度に精通した専門家のサポートが不可欠です。
税務調査に強い税理士の選び方については「【現役税理士による】相続税に強い税理士の選び方を徹底解説」をご参照ください。
また、書面添付制度を活用することで、税務調査の前に意見聴取の機会が与えられます。詳しくは「書面添付制度(相続税申告)とは? メリットは税務調査対策、デメリットはある?」をご覧ください。
よくある質問
Q1. CRSに参加していない国の口座は税務署にバレませんか?
CRSに参加していない国でも、租税条約に基づく個別の情報交換で口座情報が把握される可能性があります。また、国外送金等調書で送金履歴は把握されているため、その送金先に何らかの財産があることは推測されます。「バレない」と考えるのは危険です。
Q2. 相続発生後に海外口座を解約してしまいましたが、申告は必要ですか?
はい、必要です。相続財産は「被相続人が死亡した時点で保有していた財産」で判定します。相続発生後に口座を解約しても、死亡時点の残高は相続財産として申告が必要です。解約により証拠が失われると、税務調査時に不利になる可能性もあります。
Q3. 海外の相続税を支払いましたが、日本の相続税から控除できますか?
外国税額控除の適用により、一定の範囲で控除が可能です。ただし、控除できる金額には上限があり、計算も複雑です。詳しくは「相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説」をご覧ください。
Q4. 国外財産調書を提出していませんでした。今から提出すべきですか?
提出期限を過ぎていても、税務調査の通知前であれば提出することをお勧めします。
提出期限後でも、一定の場合(調査通知前で、更正等を予知していない等)には、期限内提出とみなして特例の適用を受けられることがあります。まずは状況を整理し、早めに対応しましょう。
また、①偽りの記載をして提出した場合、②正当な理由なく提出期限までに提出しなかった場合などに、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされています。
Q5. 海外在住の相続人がいる場合、税務調査はどうなりますか?
海外在住の相続人がいる場合でも、日本国内で税務調査は実施されます。ただし、海外在住の相続人への質問は困難なため、国内在住の相続人や税理士を通じて対応することになります。海外在住の相続人は納税管理人を選任しておくことが重要です。「非居住者がいる相続税申告を徹底解説:必要手続きと注意点」も併せてご覧ください。
まとめ:海外財産の申告漏れは必ず発覚する時代
CRSの導入により、海外財産の情報は自動的に日本の税務当局に届く仕組みが確立されています。
「海外だからバレない」という時代は終わりました。
国際相続の申告にあたっては、以下の点を必ず確認してください。
□ 被相続人名義の海外口座をすべて把握しているか
□ 家族名義の口座で、実質的に被相続人の財産となるものはないか
□ 海外不動産、海外有価証券の申告漏れはないか
□ 国外財産調書は適正に提出されているか
□ 海外財産の評価方法は適切か(為替レートを含む)
海外財産の相続税申告は、国内財産のみの申告と比較して難易度が格段に上がります。
国際相続の納税義務の判定については「国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!」をご覧ください。
当事務所では年間350件超の相続税申告を行っており、国際相続の実績も豊富です。
海外財産がある相続でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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