令和8年税制改正(相続分野)のポイントを相続専門税理士がやさしく解説

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10秒でわかる この記事の要約
「貸付用不動産(アパート・タワマン等)の相続税評価引き締め」が盛り込まれ、いわゆる「タワマン節税・アパマン節税」に正面からメスが入ります。
■祖父母などから子・孫への教育資金一括贈与1,500万円非課税は、令和8年3月末で延長なし・終了の方向が明記されました。
■富裕層向けの「1億円の壁」是正(極めて高い水準の所得に対するミニマム課税)が強化され、控除額が3.3億円→1.65億円、税率22.5%→30%へ引き上げられます(令和9年分所得税から)。
■未成年NISA口座の新設、暗号資産の譲渡益が総合課税から20%の分離課税へ

この記事では、これらを「現行制度」「改正内容」「施行時期」「実務上のポイント」の4本柱で整理し、相続対策で何を変えるべきかまで具体的に解説します。

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【相続税・贈与税】貸付用不動産の評価見直し【大綱P82】

1. 現行制度

貸付用不動産(賃貸アパート・賃貸マンション・賃貸ビル、不動産小口化商品など)は、相続税評価上、次のように評価されてきました。

土地 路線価などの「相続税評価額」(市場価格より低いことが多い)で評価し、
賃貸中であれば「貸家建付地」としてさらに評価減
建物 固定資産税評価額(これも市場価格より低い)で評価し、貸家として評価減
不動産小口化商品 「財産評価基本通達」等に基づき、実勢価格より大幅に低めの評価になるケースが多い

その結果、
例えば「現金5億円でタワーマンションを購入し、そのまま賃貸に出す」と、相続税評価額が2〜3億円程度まで圧縮されるケースが多く、
これを利用した「タワマン節税・アパマン節税」が広く行われてきました。

税務当局は以前から、極端なケースについては財産評価基本通達6項(いわゆる総則6項)を使って個別に否認してきましたが、今回、通達自体を見直す方向が大綱に明記されています。

現行の土地評価、建物評価についての詳しい解説は下記コラムをご参照ください。
相続税の土地評価 これだけ読めば大丈夫! 評価方法をわかりやすく解説
貸家建付地の相続税評価をわかりやすく徹底解説!
家屋(建物)の相続税評価額を徹底解説

2. 改正内容

(1)賃貸用不動産

対象 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産
(賃貸アパート、賃貸マンション、賃貸ビルなど)
評価
方法
被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%に相当する金額

要するに、
「亡くなる5年以内に買った賃貸不動産は、路線価・固定資産税評価ではなく、購入価額の8割程度で評価される」
というイメージです。

(2)不動産小口化商品

対象 不動産特定共同事業契約又は信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産(いわゆる、「不動産小口化商品」
評価方法 出資者等の求めに応じて事業者等が示した適正な処分価格・買取価格等、事業者等が把握している適正な売買実例価額又は定期報告書等に記載された不動産の価格等を参酌して求めた金額

要するに、
不動産小口化商品については、購入時期に関わらず通常の取引価額で評価しますということです。

3. 施行時期

上記の改正は、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用します。
ただし、上記(1)の賃貸用不動産の改正については、当該改正を通達に定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る。)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含む。)には適用しません。

4. 実務上のポイント(専門家としての見解)

  • 「亡くなる直前にアパートを建てる・買う」相続対策は、実質的にほぼ封じられると考えるべきです。
  • 5年ルールが導入されると、相続開始前5年以内の新規取得は、評価圧縮効果が大きく削られる可能性が高くなります。
  • すでに長期間保有している賃貸不動産や自宅等の自己居住用不動産は従前どおりの通達評価が可能です。
  • 不動産小口化商品は、今後、相続税評価が大きく変わる可能性があるため、購入時期・保有目的を慎重に検討する必要があります。
  • 賃貸用不動産、不動産小口化商品の令和8年中の駆け込み贈与が増加することが見込まれますが、贈与の場合には小規模宅地等の特例の適用ができないため要注意です。
  • 法人名義で取得した貸付用不動産(現在は3年以内取得のみ時価評価)の扱いをどうするか、5年判定の起算点(取得時か、建物完成時か)など、実務上の細かい論点が多数残っており、政省令・通達が出るまでは安易な駆け込み投資は危険です。

【贈与税】教育資金一括贈与1,500万円非課税の「延長なし・終了」【大綱P65】

1. 現行制度

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、

  • 直系尊属(祖父母・父母など)が
  • 子・孫(受贈者1人あたり最大1,500万円、うち習い事等は500万円まで)に
  • 教育資金管理契約を通じて一括拠出した場合
  • 拠出期間中の教育費支出に充てた分について贈与税を非課税とする

という特例です。

現行では、制度の適用期限は令和8年3月31日までとされており、
令和5年度改正で3年延長された経緯があります。

2. 改正内容

令和8年度税制改正大綱では、この教育資金一括贈与の非課税措置について、

「適用期限(令和8年3月末)は延長しない」

と明記されています。

つまり、

令和8年3月31日まで 新規契約・拠出が可能(金融機関ごとに申込受付期限に注意)
令和8年4月1日以後 教育資金一括贈与の非課税枠は新規に使えなくなる

となります。

3. 施行時期

令和8年3月31日までとされている教育資金管理契約に基づく信託等可能期間を延長せずに終了することとし、同日までに拠出された金銭等については、引き続き本措置を適用できることとします。

4. 実務上のポイント(専門家としての見解)

「いつかやろう」と思っていた方は、急いでください。

契約(信託)の締結が令和8年3月31日までであれば、適用可能です。
大綱には「同日までに拠出された金銭等については、引き続き本措置を適用できる」と明記されています。

駆け込み需要で信託銀行等の窓口が混み合うことが予想されますので、令和7年中には手続きを進めておくことを強くお勧めします。

なお、その都度教育費を贈与する方法は一括贈与の非課税制度の終了後も引き続き活用できます。

【所得税】超富裕層に対する課税強化(ミニマム課税の見直し)【大綱P55】

いわゆる「1億円の壁(所得が高くなると逆に税負担率が下がる現象)」を是正するために令和5年度税制改正により導入された制度が、さらに強化されます。

1. 現行制度

基準所得金額(合計所得金額)から3.3億円を引いた金額に22.5%を掛けた額を、通常の所得税額に加算する仕組みです。

2. 改正内容

対象となる所得水準が引き下げられ、税率が引き上げられます。

項目 現行 改正後
基準所得金額
(特別控除額)
3.3億円 1.65億円
税率 22.5% 30%

3. 施行時期

令和9年分以後の所得税について適用されます。

4. 実務上のポイント(専門家としての見解)

これまでは「年間所得3.3億円」という超富裕層だけの話でしたが、基準が「1.65億円」に下がったことで、上場企業の役員クラスや、M&Aで会社を売却したオーナー経営者、不動産を売却した地主などが広く対象に入ってきます。

特に、会社売却(株式譲渡)を検討されている方は、「令和8年(2026年)中」に売却を完了させるか、「令和9年以降」にするかで、手取り額が大きく変わる可能性があります。

売却のタイミングを慎重に見極める必要があります。

【所得税】NISA 未成年者への対象拡大【大綱P52】

令和6年から新NISAが始まりましたが、対象は18歳以上でした。

今回の改正で、0歳からの利用が可能になります。

1. 現行制度

暗号資産の利益は「雑所得」として総合課税の対象。
給与所得などと合算され、最大で約55%(所得税45%+住民税10%)の税率がかかります。

また、損失が出ても翌年以降に繰り越せません。

2. 改正内容

  • 対象年齢:0歳〜17歳(全年齢対象へ)
  • 年間投資枠:60万円
  • 非課税保有限度額:600万円
  • 払出し制限:原則18歳まで不可(※12歳以降、教育費等の理由があり、子の同意を得た場合は可)

3. 施行時期

未成年NISA口座は令和9年以降の各年から開設することができるようになります。

4. 実務上のポイント(専門家としての見解)

廃止されたジュニアNISAに近い制度が復活します。

相続税対策として、親や祖父母から子・孫へ現金を贈与(暦年贈与)し、その資金でこのNISA枠を使って運用するというスキームが有効です。

特に「教育費等の理由なら12歳以降引き出し可能」という柔軟性は、使い勝手が良い可能性があります。

【所得税】暗号資産の申告分離課税化【大綱P52】

長年要望されていた暗号資産(仮想通貨)の税制改正がついに盛り込まれました。

これは富裕層だけでなく、多くの投資家にとって朗報です。

1. 現行制度

暗号資産の利益は「雑所得」として総合課税の対象。
給与所得などと合算され、最大で約55%(所得税45%+住民税10%)の税率がかかります。

また、損失が出ても翌年以降に繰り越せません。

2. 改正内容

金融商品取引法等の改正を前提として、以下の通り変更されます。

  • 課税方式:申告分離課税(一律20% ※所得税15%+住民税5%)
  • 損失繰越:翌年以降3年間の繰越控除が可能

3. 施行時期

金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行う暗号資産の譲渡等について適用されます。

4. 実務上のポイント(専門家としての見解)

最大税率が55%から20%になるインパクトは絶大です。
これまで含み益があっても「税金が高すぎて利確できない」と悩んでいた方には最大のチャンスとなります。

一方で、制度適用の条件として「暗号資産取引業者が、取引者の氏名・住所・マイナンバー等を税務署に報告すること」が義務付けられる見込みです。

つまり、国税当局は投資家の情報を完全に把握することになります。

「バレないだろう」という甘い考えは通用しなくなりますので、適正な申告がより一層求められます。

まとめ:令和8年税制改正で「何を変えるべきか」

最後に、相続・資産税の観点から、令和8年税制改正を踏まえて何を見直すべきかを整理します。

1. アパート・タワマン節税から「長期・実需型の相続対策」へ

  • 貸付用不動産の評価見直しにより、直前にアパート・タワマンを購入して評価を落とすスキームは、ほぼ幕引きの方向です。
  • 今後は、事業としての賃貸経営・長期保有を前提とした、「事業承継型の不動産相続対策」が中心になっていきます。

2. 教育資金一括贈与の「使い納め」と、暦年贈与・NISAの組み合わせ

  • 教育資金一括贈与の非課税枠は、令和8年3月末で終了します。
  • 今後の教育資金・相続対策は、暦年贈与(7年持ち戻し)+相続時精算課税+NISAを組み合わせた長期プランが主流になります。

3. 超富裕層は「EXIT税+相続税」の二段構えで設計を

  • 1億円の壁是正策(ミニマム課税強化)により、巨額の株式譲渡益・事業譲渡益には最低30%の税率がかかる方向です。
  • 「会社をいつ売るか」「株式をいつ譲るか」は、相続税だけでなく、このEXIT税の観点を踏まえたスケジューリングが不可欠になります。

4. 富裕層の寄附・社会貢献戦略の再設計

  • ふるさと納税の控除上限(給与収入1億円相当)の導入により、超高額ふるさと納税による実質無税化にはブレーキがかかります。
  • 今後は、ふるさと納税に加え、法人寄附・認定NPO寄附・遺贈寄附などを組み合わせた寄附戦略が重要になります。

5. 早めの「総合資産診断」と専門家への相談が必須

今回の改正は、「一つ一つはピンポイント」でも、組み合わせると資産全体への影響が大きくなるタイプの改正です。

不動産、金融資産、暗号資産、事業・株式、生命保険など、全体のポートフォリオを一度棚卸しし、「所得税・住民税」「相続税・贈与税」「地方税」「社会保険」を横断的に見直すことが重要になります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
令和8年税制改正への具体的な対応策は、個々の資産状況・家族構成・国際的な居住状況によって大きく変わります。
当サイト内の各記事や個別相談を活用しつつ、「今何をしておくべきか」を一緒に整理していきましょう。

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この記事の執筆者:角田 壮平

東京税理士会京橋支部所属
登録番号:115443

相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は350件。税理士からの相続相談にも数多く対応しているプロが認める相続の専門家。謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

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