ドイツの相続税と手続き|日本との違いと二重課税の対策
10秒でわかるこの記事のポイント
①ドイツの相続税は取得者ごとに課税される仕組み
②無制限納税義務の場合、配偶者の基礎控除は50万ユーロ、子は40万ユーロ(制限納税義務では減額される規定がある)
③同じ人からの複数の取得は10年の期間で通算される(暦年で区切ってリセットされるものではない)
④ドイツには遺産裁判所やErbschein制度があり、裁判所が無関与ではない
⑤日独間に相続税条約はなく、日本側では外国税額控除の検討が中心になる
ドイツに財産を持つ方や、ドイツ国籍の親族がいる方にとって、相続税の二重課税は大きな懸念です。
ドイツの相続税(Erbschaftsteuer)は、取得した人ごとに、その取得額と被相続人との関係に応じて税額を計算する仕組みです。
日本の相続税は、いったん法定相続分で税額を計算してから各人に配分する方式のため、税額計算の手順が異なります。控除額、税率、贈与との通算ルール、相続手続の進め方にも違いがあります。
この記事では、ドイツの相続税制度の基本構造、日本との違い、二重課税が生じる場面での実務上の注意点を解説します。
国際相続全体の課税範囲は、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!も先に読んでおくと整理しやすくなります。
ドイツの相続税は、取得者ごとに控除額と税率が決まる
ドイツの相続税・贈与税は、Erbschaftsteuer- und Schenkungsteuergesetz(ErbStG)で定められています。
特徴は、誰が取得するかによって、基礎控除額も税率も大きく変わることです。
税率の区分(Steuerklasse I〜III)は、被相続人と財産を取得した人との関係によって決まります。区分ごとに税率表が異なります。
主な基礎控除額(無制限納税義務の場合)
| 相続人 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 配偶者・登録パートナー | 50万ユーロ |
| 子(養子含む) | 40万ユーロ |
| 孫(親が先死亡) | 40万ユーロ |
| 孫(親が生存) | 20万ユーロ |
| 父母・祖父母など一定の近親者 | 10万ユーロ |
| 兄弟姉妹・その他 | 2万ユーロ |
上記は無制限納税義務の場合の金額です。制限納税義務の場合は、ドイツで課税対象とならない財産や、過去10年間の同一人からの取得との関係により、控除額が減額される規定があります(ErbStG 16条2項)。国外に住んでいる場合にも、表の金額がそのまま適用されるとは限りません。
なお、税クラスと控除額は相続税及び贈与税法15条・16条で定められており、「子」には継子(Stiefkinder)も含まれます。父母・祖父母の10万ユーロは相続による取得についての金額で、贈与の場合とは扱いが異なります。
配偶者には、基礎控除50万ユーロとは別に、特別扶養控除(Versorgungsfreibetrag)が問題になることがあります。
もっとも、この控除は常に満額25.6万ユーロを機械的に加算できるわけではなく、他の非課税給付等との関係で減額される場合があります。
また、法定財産制の下でのZugewinnausgleich(増加利得調整)に相当する部分は、別途非課税となる場合があります。
税率は7%〜50%
ドイツの税率は、取得者の税クラスと課税価格によって変わります。
- Steuerklasse I(配偶者・子など):7%〜30%
- Steuerklasse II(兄弟姉妹など):15%〜43%
- Steuerklasse III(その他):30%〜50%
したがって、近親者への承継は比較的軽く、遠縁や第三者への承継は重いという傾向があります。
10年以内の贈与は通算される
ドイツでは、同じ人から受けた取得について、10年以内の贈与と相続を通算して課税関係をみます。
日本でも生前贈与加算がありますが、ドイツは10年単位で考える点が特徴です。
通算は、暦年を固定した10年ごとにリセットされるものではなく、それぞれの取得の時点から遡って判断します(相続税及び贈与税法14条)。具体的な贈与の計画では、過去の取得日を確認してください。
配偶者や子への相続は、日本より有利になることがある
ドイツ相続税は、配偶者や子に対する基礎控除が比較的大きく、税率も低く抑えられています。
そのため、同じ資産規模でも、日本より税負担が軽くなる場合があります。ただし、日本の配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例なども含めて比較しなければ、有利か不利かは判断できません。
一方で、兄弟姉妹や遠縁への相続では控除が小さく、税率も上がるため、日本より不利になる場面もあります。
ドイツの相続手続では、裁判所が無関与ではない
ドイツでは、日本のような家庭裁判所の遺産分割調停とは違う仕組みですが、裁判所が全く関与しないわけではありません。
ドイツにはNachlassgericht(遺産裁判所)があり、遺言の開封や Erbschein(相続人証明書)の発行などを扱います。
Erbschein(相続人証明書)
Erbschein は、相続人であることを公的に証明する書類です。
特に、不動産の名義変更や金融機関対応では重要になることがあります。
・被相続人の死亡証明書
・相続人の身分証明書
・婚姻証明書や出生証明書
・遺言書(ある場合)
・翻訳文、アポスティーユ又は認証書類
日本の書類をドイツで使う場合は、ドイツ語訳や認証が必要になることがあります。
遺言と開封関係の書類でErbscheinを省略できる場合
ドイツでは、公証遺言(Notarielles Testament)も自筆遺言も、裁判所による開封手続きの対象になります。日本の家庭裁判所の検認とは別の制度です。
相続関係が明確な遺言と開封関係の書類によって、銀行でErbscheinを省略できる場合があります。連邦通常裁判所の2016年4月5日判決(XI ZR 440/15)は、開封された自筆遺言が、誰が相続人となるかを取引上必要な程度に明確に示している場合には、その遺言で相続権を証明できるとしました。公証遺言に限られません。ただし、遺言の内容や有効性に具体的な疑義がある場合などは、追加の証明が必要になります。
不動産の登記については、銀行に関する判例をそのまま当てはめず、別の提出要件を確認してください。
準拠法や遺言の効力は、国際相続があった場合の準拠法も確認してください。
ドイツにも遺留分に似た制度がある
ドイツには、日本の遺留分に近い制度として Pflichtteil があります。
| 項目 | ドイツ | 日本 |
| 権利者 | 直系卑属(子・代襲する孫など)、配偶者・登録パートナー、父母(先順位の者がいない場合など要件あり) | 兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子・代襲相続人、直系尊属) |
| 割合 | 法定相続分の1/2 | 遺留分全体は相続財産の1/2(直系尊属のみが相続人の場合は1/3)。各人の遺留分は、これに法定相続分を掛けた割合 |
| 請求方法 | 金銭請求権 | 金銭請求権 |
| 兄弟姉妹 | なし | なし |
ドイツでは、Pflichtteil は遺産そのものの取り戻しではなく、金銭請求権として行使される点が重要です。
遺留分の国際比較は、国際相続の遺留分を徹底解説|準拠法の決定と各国制度の違いも参考になります。
ドイツの無制限納税義務は、日本の10年ルールとは別物
ドイツでは、被相続人又は相続人のいずれかがドイツ居住者であれば、無制限納税義務が問題になります。
さらに、ドイツ国籍者については、ドイツ国内に住所を持たないまま、継続して国外に滞在している期間が5年を超えていない場合に無制限納税義務が及びます(ErbStG §2 Abs.1 Nr.1 Buchst.b)。
なお、5年が過ぎればドイツの相続税と無関係になるわけではありません。ドイツ国内にある財産についての制限納税義務や、対外税法4条の拡張された制限納税義務などの特則を確認する必要があります。
日本の国際相続の納税義務判定とは発想が似て見えますが、要件も対象も同じではありません。
単純に「ドイツ版10年ルール」と理解しない方が安全です。
日独間に相続税条約はない
日本とドイツの間には、所得税に関する租税条約はあります。
しかし、相続税・贈与税についての日独条約はありません。
そのため、二重課税の調整は、日本側では主に相続税法20条の2による外国税額控除の検討が中心になります。
もっとも、外国税額控除は自動的に全額救済される制度ではありません。
どの財産に対して、どの国で、どの税が課されたのかを個別に整理する必要があります。
外国税額控除の基本は、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説も参照してください。
日本との二重課税の典型例
たとえば、被相続人がドイツ居住、相続人が日本居住で、ドイツ財産を取得する場面では、次の二重構造が起き得ます。
二重課税の典型例
① ドイツ:ドイツ法に基づき相続税が課税される
② 日本:相続人の納税義務が無制限なら、日本でも相続税が課税される
この場面では、日本側で外国税額控除を使えるかが重要になります。
ただし、控除限度額があるため、ドイツで払った税額の全額が必ず引けるわけではありません。
EU相続規則が定める相続法・裁判所のルールと、相続税は別
ドイツ相続では、EU相続規則(Brussels IV)も実務上重要です。
これは、どの国の相続法で処理するかという準拠法の問題であり、原則として被相続人の常居所地法が基準になります。
ただし、遺言により本国法を指定できる場合があります。
EU相続規則は、相続税そのものを決めるルールではありません。
税金と準拠法を混同しやすいため、ここは切り分けて理解すべきです。
ドイツ相続税の申告は「3か月以内に相続の報告」が出発点
ドイツでは、相続人は原則として、相続を知ってから3か月以内に税務署へ相続の発生を報告する義務があります。
ただし、これは日本のような「3か月以内に申告・納税」という意味ではありません。
正式な申告は、税務署から申告を求められてから行う流れです。
そのため、日本の10か月申告と同じ感覚で整理すると誤ります。
日本側の期限管理は、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説も参考になります。
日本側の相続税評価も別途必要
ドイツ財産を日本で申告する場合は、日本の相続税ルールに従って評価し直す必要があります。
外貨建て財産の邦貨換算
外貨建て財産は、死亡日のTTBで円換算するのが原則です。
債務はTTSで換算します。
ドイツ不動産の評価
ドイツ不動産は、日本の路線価方式では評価できません。
現地鑑定評価や売買実例などを踏まえて時価を算定する必要があります。
詳しくは、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
海外財産はCRS等で把握される前提で考えるべき
ドイツを含む海外金融口座情報は、CRS(共通報告基準)により、各国税務当局間で共有される仕組みがあります。
そのため、海外財産の申告漏れは見つかりやすくなっています。
「海外資産だから分からない」は通用しにくい前提で考えるべきです。
CRSの基本は、CRS(共通報告基準)と相続もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ドイツの相続税は日本より安いか?
A. 配偶者や子への相続では、基礎控除が大きく税率も低めなので、日本より有利になるケースがあります。
ただし、兄弟姉妹や第三者への承継では、控除が小さく税率も高くなるため、一概には言えません。
Q. 配偶者なら75.6万ユーロまで必ず非課税か?
A. そう単純ではありません。
50万ユーロの基礎控除とは別に、特別扶養控除が問題になりますが、これは他の給付等との関係で調整される場合があります。
Q. ドイツでは裁判所を通さずに相続できるか?
A. 完全に無関与ではありません。
遺産裁判所が遺言の開封や Erbschein の発行を扱うため、裁判所手続が実務上重要です。
Q. 日独間に相続税条約はあるか?
A. ありません。
そのため、日本側では外国税額控除による調整を検討することになります。
まとめ
ドイツの相続税は、取得者ごとに控除額と税率が決まる仕組みで、配偶者や子には比較的手厚い控除がある。
一方で、10年通算ルール、5年の無制限納税義務ルール、Erbschein など、独自の制度も多い。
また、ドイツでは遺産裁判所が関与するため、「裁判所の介入なし」とは言えない。
日独間に相続税条約はないため、日本側では外国税額控除と評価方法の整理が重要になる。
ドイツ法と日本法を切り分けて、早めに専門家へ相談することが重要である。
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