フィリピン相続|外国人の土地所有制限と税務を解説
10秒でわかるこの記事のポイント
①フィリピンでは外国人の土地所有は原則禁止
②例外は主に法定相続による取得で、相続なら何でも自由に持てるわけではない
③フィリピンの相続税は原則6%だが、控除額は居住者と非居住外国人で異なる
④CARを取得しないと不動産の名義変更は進まない
⑤日本の相続税との二重課税は外国税額控除の検討が中心になる
フィリピンに不動産を所有している日本人が亡くなった場合、相続人は「外国人の土地所有制限」という大きな壁に直面します。
結論からいうと、フィリピンでは外国人の土地所有は原則禁止ですが、法定相続による取得には例外があります。
ただし、「相続だから自由に持てる」と理解するのは危険です。土地の種類、取得原因、名義変更手続、相続税の納付まで含めて確認が必要です。
また、日本に住む相続人がフィリピン財産を取得する場合は、日本の相続税も別途問題になります。
国際相続全体の課税範囲は、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!も先に確認しておくと整理しやすくなります。
フィリピンでは外国人の土地所有が原則禁止されている
フィリピン憲法は、私有地の取得を原則としてフィリピン国民又は一定のフィリピン資本企業に限っています。
外国人による土地所有は原則として認められません。
ただし、憲法上、hereditary succession(法定相続)は例外とされています。
そのため、日本人など外国人でも、法定相続によって土地を取得する余地があります。
【実務上のポイント】
「相続なら必ず取得できる」ではありません。
遺言による承継か、法定相続か、土地かコンドミニアムかで扱いが変わるため、現地弁護士の確認が必要です。
土地・コンドミニアム・建物で扱いが違う
| 財産の種類 | 外国人の取得・保有 |
|---|---|
| 土地 | 原則不可。法定相続による取得が例外として問題になる |
| コンドミニアム | 取得できる場合があるが、権利の構造と外国人持分に関する制限を確認する |
| 建物 | 土地とは切り分けて扱う必要がある |
| 土地賃借 | 長期賃借の検討余地あり |
外国人によるコンドミニアムの取得には、共用部分や土地を保有する仕組み、コンドミニアム法人の外国人持分比率などに関する制限があります(コンドミニアム法・共和国法4726号5条は、共用部分を区分所有者が直接共有する場合と、コンドミニアム法人が保有する場合を分けています)。
一般に紹介される40%という基準だけで、相続する住戸の取得・保有の可否は判断できません。物件の権利の構造と取得の原因を、管理会社や現地の専門家に確認してください。
準拠法は被相続人の本国法が基本
フィリピン民法16条は、相続の順序、相続分、遺言の本質的有効性について、被相続人の本国法によるとしています。
つまり、被相続人が日本人なら、相続人の範囲や相続分の基本は日本法で考えるのが出発点です。
ただし、フィリピン国内の土地については、外国人の土地取得制限という別のルールがかかります。
そのため、「相続分は日本法」「不動産取得の可否はフィリピンの公法上の制限」と分けて考える必要があります。
準拠法の考え方は、国際相続があった場合の準拠法も参考になります。
フィリピンの相続税は原則6%
フィリピンのEstate Taxは、純遺産に対して原則6%です。
ただし、控除の中身は被相続人の属性によって異なります。
標準控除は、被相続人がフィリピン市民・居住外国人か、非居住外国人かで金額が変わります。
控除額の基本
- 市民・居住外国人:標準控除 5,000,000ペソ
- 非居住外国人:標準控除 500,000ペソ
したがって、非居住外国人の相続では、居住者と同じ感覚で控除額を見積もると大きくずれます。
居住者・非居住外国人で課税範囲が変わる
フィリピンの相続税では、被相続人がフィリピン市民・居住外国人か、非居住外国人かで課税範囲が異なります。
- 市民・居住外国人:全世界財産が課税対象になり得る
- 非居住外国人:原則としてフィリピン国内財産のみ
遺産税における居住性は、滞在日数だけで判定するものではありません。
生活の本拠や滞在の状況など、個別の事情を踏まえて確認します。
CARがないと名義変更は進まない
フィリピン不動産相続で最重要書類の1つが、CAR(Certificate Authorizing Registration)です。
これはBIR(内国歳入庁)が発行する証明で、相続税の申告・納付又は必要な審査を経たうえで、不動産や株式などの名義変更に進むための前提になります。
CARがなければ、不動産登記所での名義変更は進められません。
相続手続は、裁判手続と裁判外分割に分かれる
フィリピンの相続手続は、大きく2つの流れがあります。
① 裁判所を通す相続手続
相続人間に争いがある場合や、管理人選任が必要な場合に進むことがある
② Extrajudicial Settlement(裁判外分割)
遺言がなく、債務もなく、相続人が全員成人している(未成年者についてはそのために権限を与えられた代理人が関与する)場合に利用できる
ただし、裁判外分割は「相続人が合意すれば終わり」ではありません。
Rules of Court Rule 74第1節は、公証を受けた文書(public instrument)による分割、登記所への提出、対象となるpersonal propertyの価額に対応する保証(bond)、新聞への週1回・3週連続の公告を定めています。また、参加していない相続人や通知を受けていない相続人には、その分割の効力が及びません。
フィリピン不動産相続の基本フロー
STEP1:相続人の確定と準拠法の確認
まず、被相続人の国籍に基づいて準拠法を確認します。
被相続人が日本人なら、日本法に基づく相続人の範囲や相続分が出発点になります。
STEP2:BIRへの相続税申告
フィリピンの相続税申告は、原則として被相続人の死亡から1年以内です(2018年1月1日以後に開始した相続についての現行の制度)。
正当な理由がある場合の申告期限の延長と、納付の期限の延長・分割は別の制度です。まずは期限を意識して動いてください。
STEP3:CARの取得
BIRでの審査を経てCARを取得します。
CARの取得に要する期間は、必要書類の整備状況、案件の複雑さ、BIRの審査によって異なります。
STEP4:Register of Deedsで名義変更
CAR取得後、不動産登記所で名義変更に進みます。
TCT(権利証)、死亡証明書、相続関係書類、税金の納付証明などが問題になります。
よくある実務トラブル
土地の権利関係が不明確
地方では、Tax Declaration はあるが TCT が整っていない、というケースがあります。
この場合、相続より前に権利関係の整理が必要になることがあります。
固定資産税の滞納
固定資産税の滞納があると、名義変更が遅れたり、追加負担が発生したりします。
コンドミニアムの外国人持分比率
コンドミニアムは、共用部分や土地の所有形態、コンドミニアム法人の外国人持分などを確認する必要があります。前述の権利の構造を踏まえて、管理会社や現地の専門家に名義変更の条件を確認してください。
日本の相続税も別途問題になる
日本居住の相続人がフィリピン財産を取得する場合、日本でも相続税が課税されることがあります。
その場合、フィリピンの相続税と日本の相続税の二重課税が問題になります。
日本とフィリピンの間に相続税条約はないため、日本側では主に外国税額控除の検討が中心です。
外国税額控除の基本は、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説をご参照ください。
日本側ではフィリピン不動産を日本の評価ルールで申告する
日本の相続税申告では、フィリピン不動産も日本円換算のうえ時価評価します。
外貨建て財産の邦貨換算
外貨建て財産は、死亡日のTTBで円換算するのが原則です。
債務はTTSで換算します。
フィリピン不動産の評価
フィリピン不動産は、日本の路線価方式では評価できません。
現地鑑定評価や売買実例などを使って時価を算定する必要があります。
評価の詳細は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
フィリピン法の留保分と、日本法の遺留分は別問題
フィリピン法には、強制相続人に一定割合を保障する Legitime(留保分) の制度があります。
ただし、被相続人が日本人で、フィリピン民法16条により日本法が準拠法になる場面では、日本の遺留分制度を基準に考えることになります。
フィリピンにある不動産であっても、相続の順序や相続分は被相続人の本国法で判断します。一方で、外国人の土地取得の制限など、フィリピン国内の不動産についての規制は別に適用されます。準拠法と現地の規制は分けて確認してください。
海外財産も、課税範囲に含まれるなら申告が必要
海外財産も、日本の相続税の課税範囲に含まれる場合は適切な申告が必要です。
税務当局の間の情報交換は、対象や方法が国・地域、制度、資産の種類によって異なります。CRS(共通報告基準)による金融口座情報の交換と、不動産の登記情報は別のものです。
情報が把握されるかどうかで申告の要否を判断せず、納税義務と財産の内容に基づいて確認してください。
詳しくは、CRS(共通報告基準)と相続をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. フィリピンの土地を相続した外国人は、そのままずっと保有できるか?
A. 法定相続による取得が問題になる場面はありますが、「外国人でも相続なら自由に土地を保有できる」と理解するのは危険です。
個別案件ごとに、取得原因や名義変更の可否を現地専門家に確認すべきです。
Q. フィリピンの相続税率はいくらか?
A. 原則6%です。
ただし、控除額は市民・居住外国人と非居住外国人で異なります。
Q. CARとは何か?
A. BIRが発行する登録許可証明で、これがないと不動産の名義変更を進められません。
Q. 日本でも相続税がかかるか?
A. 日本居住の相続人で無制限納税義務がある場合は、フィリピン財産も日本の相続税の対象になることがあります。
まとめ
フィリピンの相続では、外国人の土地所有制限が最大の特徴である。
ただし、法定相続による取得には例外があり、相続だから直ちに取得不可とは限らない。
一方で、相続税6%、CAR取得、名義変更、現地手続を順に進める必要がある。
日本居住の相続人には、日本の相続税も別途問題になるため、外国税額控除まで含めた整理が必要である。
現地弁護士と日本の税理士の連携が実務上不可欠である。
税理士法人トゥモローズでは、国際相続に強い税理士が、フィリピンを含む海外不動産の相続税申告、評価、外国税額控除、必要書類の整理まで一貫してサポートしています。
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