ベトナムの相続手続き|不動産制限と日本の税務
①ベトナムには現在相続税がないが相続財産の種類によっては個人所得税が問題になる
②ベトナムの土地は国有であり外国人は土地所有権そのものを取得できない
③外国人は一定の住宅について期間限定で所有できるが数量制限がある
④在日ベトナム人の相続ではベトナム法と日本法のどちらが準拠法になるかが重要になる
⑤日本の相続税の納税義務があればベトナム財産も日本で申告が必要になる
ベトナムは経済成長が著しく、日本企業の進出や在日ベトナム人の増加に伴い、ベトナムに財産を持つ方の相続案件が増えています。
もっとも、ベトナム相続は、日本の感覚で考えると誤りやすい分野です。
相続税の有無だけでなく、土地制度、外国人の不動産保有制限、相続人の順位、遺言の有効性、相続関係書類の翻訳・認証、日本の相続税との関係まで、一体で整理しなければなりません。
結論からいうと、ベトナム相続では、税金よりも「どの財産を、誰が、どの権利で承継できるか」を最初に整理することが重要です。
特に、土地使用権付き不動産や外国人名義の住宅、在日ベトナム人の日本財産、ベトナム側の銀行口座がある場合は、日本とベトナムの両方の制度を同時に確認しなければなりません。
この記事では、ベトナムの相続制度、日本の相続税との関係、ベトナム不動産の権利制限、在日ベトナム人相続の実務、必要書類、送金までを整理して解説します。
国際相続の全体像は、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説、準拠法の基本は国際相続があった場合の準拠法もあわせてご覧ください。
目次
- 1 ベトナムには現在相続税がない
- 2 ベトナムでは相続で受け取る財産に個人所得税が問題になることがある
- 3 ベトナムの相続制度の土台は民法だが、不動産では所在地法が重要になる
- 4 ベトナム民法では配偶者・親・子が同順位で並ぶ
- 5 ベトナムの土地は国有であり外国人は土地所有権を取得できない
- 6 外国人は住宅を一定期間だけ所有できるが数量制限がある
- 7 相続で取得しても、そのまま保有できるとは限らない
- 8 ベトナムの相続手続は死亡登録と相続人確認から始まる
- 9 在日ベトナム人の相続では書類の翻訳・認証が大きな負担になる
- 10 在日ベトナム人は日本での相続税の納税義務に注意が必要
- 11 ベトナムの銀行口座相続には相続関係書類と送金確認が必要になる
- 12 ベトナムの遺言は日本の公正証書遺言だけで足りるとは限らない
- 13 ベトナム不動産は日本円換算のうえ時価評価する
- 14 不動産名義変更時の税と日本の外国税額控除は別問題である
- 15 国外財産調書も別途問題になる
- 16 海外財産は把握される前提で考えるべき
- 17 国際相続は10か月の申告期限から逆算して動くべき
- 18 よくある質問(FAQ)
- 19 まとめ
- 20 関連記事
ベトナムには現在相続税がない
ベトナムには、日本のような相続税はありません。
そのため、死亡を理由にベトナム側で一律の相続税が課される前提ではありません。
ただし、ここで安心してはいけません。
相続税がないことと、相続で税金が一切かからないことは別問題です。
ベトナムでは、相続で取得した一定の財産について個人所得税が問題になることがあります。
不動産や出資持分などの登録財産については、親族関係によって課税・非課税が分かれます。
ベトナムに相続税がないことと、日本で申告不要であることは全く別問題です。
ベトナムでは相続で受け取る財産に個人所得税が問題になることがある
ベトナムでは、相続税という名前の税はありませんが、相続で受け取った財産のうち一定のものには個人所得税が問題になります。
典型的には、不動産、一定の出資持分、登録対象の動産などが対象です。
一方で、配偶者、親子、祖父母と孫、兄弟姉妹などの近親者間の相続については、非課税になる範囲があります。
つまり、ベトナム相続を語るときは、「相続税がない」だけで終わらせず、どの財産にどの税がかかるかまで整理する必要があります。
ベトナムの相続制度の土台は民法だが、不動産では所在地法が重要になる
ベトナム相続を考えるとき、基本法になるのはベトナム民法です。
相続人の順位や遺言の有効性などは、まずベトナム民法のルールが出発点になります。
もっとも、国際相続では、すべてが一律にベトナム法で決まるわけではありません。
ベトナムの国際私法では、不動産の相続は不動産所在地法、動産の相続は被相続人の最後の常居所地法が問題になります。
在日ベトナム人の相続では、ベトナム法が出発点でも、日本にある不動産や動産については日本法が適用される余地があります。
ベトナム民法では配偶者・親・子が同順位で並ぶ
ベトナム民法の法定相続では、第1順位に配偶者、実父母・養父母、実子・養子が並びます。
ベトナムの法定相続の順位
第1順位:配偶者、実父母・養父母、実子・養子
第2順位:祖父母、兄弟姉妹
第3順位:曾祖父母、おじ・おば、甥・姪など
日本の感覚では、配偶者と子が相続人の中心で、親はその後ろに来るイメージが強いですが、ベトナムでは配偶者・親・子が同順位です。
そのため、日本の感覚だけで相続分を決めると大きく誤ります。
ベトナムの土地は国有であり外国人は土地所有権を取得できない
ベトナム不動産相続で最も重要なのが、土地制度です。
ベトナムでは土地は国有であり、個人や法人は土地そのものを所有するのではなく、土地使用権を与えられる構造になっています。
しかも、外国人はこの土地所有権そのものを取得できません。
つまり、日本人がベトナム不動産を相続するときは、「土地を所有できるか」ではなく、どの権利をどの範囲で承継できるかを確認する必要があります。
外国人は住宅を一定期間だけ所有できるが数量制限がある
ベトナムでは、外国人が一定の条件のもとでマンションや住宅を所有できる制度があります。
ただし、土地そのものの所有ではなく、建物の所有とそれに付随する使用権の問題として整理されます。
外国人の住宅所有で問題になりやすい制限
① 所有期間は原則50年
② 更新できる場合があるが自動ではない
③ マンションでは建物全体の一定割合までに制限される
④ 戸建住宅も一定区域内で数量制限がある
ベトナム不動産は、相続できるかどうかだけでなく、外国人としてその後も保有し続けられるかまで確認すべきです。
相続で取得しても、そのまま保有できるとは限らない
外国人がベトナム不動産を相続する場合、形式上は相続対象になっても、そのまま制限なく保有できるとは限りません。
所有資格を満たさない場合は、売却して代金を受け取る形で整理しなければならないことがあります。
つまり、「相続で取得=自由に使い続けられる」ではありません。
この点は、日本人がベトナム不動産に投資している案件では特に重要です。
家族がその不動産に住み続けられるか、売却が必要か、更新が必要かまで事前に整理しておくべきです。
ベトナムの相続手続は死亡登録と相続人確認から始まる
ベトナムで相続手続きを進めるには、まず死亡登録と相続人確認が必要です。
不動産や銀行口座の名義変更の前に、誰が相続人かを示す書類を整えなければなりません。
日本の戸籍だけで済むわけではなく、ベトナム側の公文書、日本側の公文書、翻訳、認証を組み合わせる必要があります。
遺言がある場合でも、そのまま自由に名義変更できるとは限らず、公証や関係書類の整備が必要になります。
在日ベトナム人の相続では書類の翻訳・認証が大きな負担になる
在日ベトナム人が亡くなった場合、日本の戸籍謄本や除籍謄本、住民票などをベトナム側で使う場面があります。
逆に、ベトナムの出生証明書や婚姻証明書を日本側で使うこともあります。
そのため、ベトナム語翻訳、公証、認証の整理が不可欠です。
ここで数か月かかることも珍しくありません。
なお、ベトナムは2025年5月にハーグ条約(外国公文書の認証を不要とする条約)が発効しており、公文書についてはアポスティーユで整理できる場面が広がっています。
ただし、すべての書類が同じ流れで足りるわけではないため、個別に確認すべきです。
翻訳・公証・認証の実務は、相続で必要な翻訳・公証・認証手続きを完全解説もあわせて確認してください。
在日ベトナム人は日本での相続税の納税義務に注意が必要
在日ベトナム人が日本に住所を有している場合、日本の相続税法上、全世界の財産が課税対象になることがあります。
ベトナム国内の不動産や預金であっても、日本の相続税申告では無関係ではありません。
つまり、日本で長く生活しているベトナム国籍者や、その家族が相続人になる案件では、ベトナム財産も含めて日本での申告を前提に考える必要があります。
この点は、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!もご参照ください。
ベトナムの銀行口座相続には相続関係書類と送金確認が必要になる
ベトナムの銀行口座を相続するには、相続関係を示す書類を銀行へ提出しなければなりません。
日本の戸籍だけでは足りないことが多く、ベトナム語翻訳や現地公証が必要になる場合があります。
また、口座解約後に日本へ送金する際には、送金理由が相続であることを示す資料を求められることがあります。
つまり、ベトナム口座の相続では、口座解約そのものよりも、相続人確認と送金資料の整備に時間がかかることが多いです。
海外銀行口座の相続手続全般は、海外銀行口座の相続解約で失敗しない!も参考になります。
ベトナムの遺言は日本の公正証書遺言だけで足りるとは限らない
ベトナム民法では複数の遺言方式が認められています。
日本で作成した遺言がベトナムでも有効になる可能性はありますが、実務上はベトナム語翻訳や認証が必要になり、そのままでは使いにくいことがあります。
特にベトナム不動産を持っている場合は、ベトナム側でも使いやすい形で遺言を整備しておくことが重要です。
日本の公正証書遺言だけで十分か、ベトナム側で別途整えるべきかは、財産の内容に応じて検討すべきです。
国際相続の生前対策は、国際相続の生前対策|相続人の負担を軽くする7つの方法も参考になります。
ベトナム不動産は日本円換算のうえ時価評価する
日本の相続税申告では、ベトナム不動産も日本円に換算したうえで時価評価しなければなりません。
外貨建て財産の邦貨換算
外貨建て財産は、被相続人の死亡日の対顧客直物電信買相場で日本円に換算します。
債務は対顧客直物電信売相場で換算します。
邦貨換算の詳しい考え方は、【相続税申告】 外貨建て財産、債務の邦貨換算を徹底解説をご参照ください。
ベトナム不動産の評価
ベトナム不動産は、日本の路線価方式や倍率方式では評価できません。
現地の市場価格をベースに、日本の相続税の時価として整理する必要があります。
公的地価や固定資産税評価額があっても、市場価格と大きく乖離することがあります。
そのため、必要に応じて現地鑑定士による鑑定評価を取得することが重要です。
この点は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
不動産名義変更時の税と日本の外国税額控除は別問題である
ベトナムでは、不動産名義変更や承継時に個人所得税や登録関連税が問題になることがあります。
しかし、それが日本の相続税の外国税額控除の対象になるかは別問題です。
日本の外国税額控除は「相続税に相当する税」が前提であり、税目が異なる場合はそのまま使えない可能性があります。
したがって、ベトナム側で税負担があったから自動的に日本で引ける、と考えない方が安全です。
外国税額控除の基本は、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説をご参照ください。
国外財産調書も別途問題になる
ベトナムに不動産や預金を持っている場合、国外財産調書の提出義務が生じることがあります。
年末時点で国外財産が一定額を超える場合は、毎年の提出義務を確認しなければなりません。
相続案件では、被相続人が生前に国外財産調書を提出していたかどうかも確認ポイントになります。
国外財産調書の基本は、国外財産調書制度を徹底解説!をご参照ください。
海外財産は把握される前提で考えるべき
ベトナムの金融口座情報も、CRS(共通報告基準)により日本の税務当局に共有され得ます。
そのため、「ベトナムだから日本では分からない」と考えるのは危険です。
海外財産は最初から把握される前提で、正しく申告する方が安全です。
詳しくは、CRS(共通報告基準)と相続をご参照ください。
国際相続は10か月の申告期限から逆算して動くべき
ベトナムの相続では、相続人証明、翻訳、公証、認証、不動産評価、銀行口座の手続などに時間がかかります。
一方で、日本の相続税申告期限は原則10か月です。
そのため、ベトナム側の手続が終わるのを待ってから日本の申告準備を始めるのでは遅くなることがあります。
ベトナム財産がある相続では、相続開始後すぐに現地手続と日本の申告準備を同時進行で進めるべきです。
スケジュール管理の全体像は、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ベトナムに相続税がないなら、ベトナム財産は無税で相続できるのか?
A. ベトナム側で相続税はありませんが、日本の相続税の納税義務があれば日本で課税されます。また、ベトナム側でも別の税や費用が問題になることがあります。
Q. ベトナムの不動産は外国人でも相続できるのか?
A. 相続対象にはなり得ますが、土地所有権をそのまま持ち続けられるわけではありません。権利整理が必要になることがあります。
Q. ベトナム人の配偶者が亡くなった場合、日本の不動産はどちらの法律で相続するのか?
A. ベトナム法が出発点になりますが、不動産所在地法が問題になるため、日本法が適用される余地があります。
Q. ベトナム側の手続が終わるまで日本の申告を待てるのか?
A. 自動的には待てません。日本の申告期限を基準に、ベトナム側手続と並行して進める必要があります。
まとめ
まとめ
ベトナム相続では、相続税の有無よりも、適用法、土地制度、現地手続の違いを理解することが重要である。
外国人は土地所有権をそのまま維持できないことがあり、相続後の権利整理まで見込んでおく必要がある。
在日ベトナム人の相続では、被相続人の国籍・住所に応じた準拠法の確認と書類整備が不可欠である。
ベトナムに相続税がなくても、日本の納税義務があれば日本の相続税申告が必要になる。
翻訳、公証、認証、不動産評価、送金まで含めて生前から準備しておくことが実務上最も重要である。
税理士法人トゥモローズでは、国際相続に強い税理士が、ベトナム財産を含む相続税申告、準拠法の整理、海外不動産評価、必要書類の確認まで一貫してサポートしています。
「ベトナム財産を日本の相続税でどう扱うか分からない」
「ベトナム不動産を相続した後の権利整理をどう進めるべきか知りたい」
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という場合は、お気軽にご相談ください。
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