スイスの銀行口座の相続|秘密口座の解約と税務
①スイスの相続税は連邦税ではなく州ごとに異なり州によっては相続税がない
②スイスの銀行秘密は自動的情報交換の導入により相続税実務上の隠れ資産対策には使えない
③スイス銀行口座の相続では相続人証明書や遺言書などの相続関係書類が必要になる
④口座番号や銀行名が不明でもスイス銀行オンブズマンへの照会で確認できる場合がある
⑤日本居住者がスイス財産を相続する場合は日本の相続税申告を前提に準備を進める必要がある
スイスの銀行口座は、かつて「秘密口座」の象徴のように語られ、富裕層の資産管理先として利用されてきました。
しかし、現在のスイス相続実務は、過去のイメージとは大きく異なります。
自動的情報交換の導入により、スイスの銀行口座情報は日本の税務当局にも共有され得るため、「スイスなら分からない」という発想は通用しません。
結論からいうと、スイス銀行口座の相続では、口座の発見、相続人証明書の整備、州ごとの相続税確認、日本の相続税申告を並行して進める必要があります。
特に、日本居住者が相続人になる場合は、スイス側の手続より先に日本の相続税申告期限を意識して動かなければなりません。
この記事では、スイスの相続制度、州ごとに異なる相続税、銀行秘密と自動的情報交換、スイス銀行口座の相続手続、日本の相続税との関係までを実務目線で整理して解説します。
海外銀行口座の相続手続全体は、海外銀行口座の相続解約で失敗しない!、相続税の外国税額控除は相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説もあわせてご覧ください。
目次
- 1 スイスの相続税は州ごとに異なる
- 2 スイスの相続法は全国共通の部分がある
- 3 スイスの銀行秘密は相続税実務では昔ほど機能しない
- 4 スイス銀行口座の相続では相続人証明書が重要になる
- 5 口座の存在が不明な場合はスイス銀行オンブズマンへの照会が使える
- 6 共同名義口座でも死亡後に自由に動かせるとは限らない
- 7 スイスの不動産は外国人取得規制にも注意が必要
- 8 スイスの年金や信託も相続では個別論点になる
- 9 日本居住者が相続人なら日本の相続税が中心になる
- 10 スイス州相続税は日本の外国税額控除の対象になり得る
- 11 スイス財産は日本円換算のうえ時価評価する
- 12 スイスの銀行秘密より、現在は情報交換制度の方が重要である
- 13 スイス財産相続の生前対策
- 14 よくある質問(FAQ)
- 15 まとめ
- 16 関連記事
スイスの相続税は州ごとに異なる
スイスは26の州から成る連邦国家であり、相続税は主に州ごとに定められています。
そのため、「スイスの相続税はいくらか」という問いに全国一律の答えはありません。
連邦レベルで相続税が課されるわけではなく、州によって税率も非課税範囲も大きく異なります。
州ごとの相続税の違いの例
シュヴィーツ州・オプヴァルデン州:相続税なし
チューリッヒ州:配偶者と直系卑属は原則非課税
ジュネーブ州:近親者以外には高税率になることがある
ヴォー州:直系卑属は原則非課税だが他の相続人には課税され得る
多くの州では配偶者と子は優遇されますが、兄弟姉妹や非親族への相続は高税率になり得ます。
したがって、スイス財産を相続する案件では、まず「どの州の財産か」を確認し、その州の税制を前提に整理する必要があります。
スイスの相続法は全国共通の部分がある
相続税は州ごとに異なりますが、相続人の順位や遺留分などの民事ルールは、スイス民法典に基づく全国共通ルールが土台になります。
たとえば、配偶者と子が相続人になる場合は、配偶者が2分の1、子が2分の1という考え方が基本です。
また、配偶者と親が相続人になる場合は、配偶者が4分の3、親が4分の1です。
さらに、2023年の相続法改正により、遺留分の範囲は縮小されました。
現在は、配偶者の遺留分は法定相続分の2分の1、子の遺留分も法定相続分の2分の1で、親の遺留分は廃止されています。
この改正によって、遺言で自由に処分できる範囲が以前より広がっています。
スイスの銀行秘密は相続税実務では昔ほど機能しない
スイスといえば銀行秘密というイメージがいまだに強いですが、現在の相続税実務では過去ほどの意味はありません。
スイスは自動的情報交換に参加しており、日本を含む多くの国と金融口座情報を交換しています。
そのため、スイスの銀行口座があることを前提に、日本の税務当局が情報を把握する可能性があります。
「スイスの銀行口座なら日本の税務当局に分からない」という発想は現在では危険です。
海外財産の把握の全体像は、CRS(共通報告基準)と相続、税務調査リスクは国際相続の税務調査もあわせて確認してください。
スイス銀行口座の相続では相続人証明書が重要になる
スイスの銀行口座を相続するには、まず銀行に対して「自分が正当な相続人であること」を示さなければなりません。
この場面で重要になるのが、スイスの相続人証明書です。
銀行によっては、遺言書や遺産分割協議書だけでは足りず、相続人証明書の提出を求めます。
スイス銀行口座の相続で問題になりやすい書類
① 死亡証明書
② 相続人証明書
③ 遺言書がある場合はその写し
④ 相続人の本人確認書類
⑤ 銀行が求める資金源確認や本人確認の追加書類
日本で取得した家庭裁判所の書類や遺産分割関係書類をそのまま受け入れるかどうかは、銀行ごとに対応が異なります。
最初に銀行へ必要書類一覧を確認することが重要です。
スイス銀行口座の実務全般は、海外銀行口座の相続解約で失敗しない!も参考になります。
口座の存在が不明な場合はスイス銀行オンブズマンへの照会が使える
被相続人がスイスに銀行口座を持っていた可能性があるものの、銀行名や口座番号が分からない場合があります。
このとき、一定の条件を満たせば、スイス銀行オンブズマンの中央照会制度を利用できる場合があります。
この制度では、連絡の取れなくなった資産や休眠状態の資産について、相続人などが照会を申し立てることができます。
基本手数料は100スイスフランです。
ただし、あくまで「連絡の取れない資産」や「休眠資産」が対象であり、すべての銀行口座を自由に検索できる制度ではありません。
制度の詳細は、スイス銀行オンブズマンの中央照会制度で確認できます。
共同名義口座でも死亡後に自由に動かせるとは限らない
スイスの銀行では共同名義口座もありますが、日本の感覚で「一方が亡くなっても他方がそのまま自由に使える」と考えるのは危険です。
実務上は、共同名義人の一方が死亡すると口座が凍結され、相続関係書類が必要になることがあります。
そのため、共同名義であっても相続手続を回避できるとは限りません。
共同名義や共有財産の考え方は、ジョイントテナンシー(合有不動産権)と相続税・贈与税の注意点も参考になります。
スイスの不動産は外国人取得規制にも注意が必要
スイスに不動産がある場合は、銀行口座以上に慎重な検討が必要です。
スイスでは、外国人による不動産取得に関して「Lex Koller」と呼ばれる取得規制があります。
相続取得そのものは直ちに全面禁止とはいえませんが、非居住外国人による住宅用不動産の取得・保有・利用には制約がかかる場面があります。
したがって、スイス不動産を相続する案件では、単に名義変更の問題だけでなく、相続後もそのまま保有できるのかまで確認すべきです。
海外不動産の日本側評価は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
スイスの年金や信託も相続では個別論点になる
スイスで働いていた人については、職業年金や個人年金の死亡一時金が問題になることがあります。
これが日本の相続税で、みなし相続財産や退職手当金等に当たるかは、給付の性質ごとの検討が必要です。
また、スイスには英米法型の信託制度自体はありませんが、外国法に基づく信託がスイスで管理されるケースがあります。
この場合、日本の相続税法上の信託課税の問題が出ることがあります。
海外信託の論点は、海外信託(オフショアトラスト)と相続税もあわせてご覧ください。
日本居住者が相続人なら日本の相続税が中心になる
スイスで州相続税が課される場合でも、日本居住者が相続人で日本の相続税の納税義務があるときは、日本でも相続税申告が必要になります。
つまり、スイス側で課税があるかどうかにかかわらず、日本の相続税申告を前提に動く必要があります。
スイス側で相続税がない州の財産であっても、日本では非課税になるわけではありません。
スイス側で課税がない州の財産でも、日本居住者には日本の相続税がかかり得ることが重要です。
スイス州相続税は日本の外国税額控除の対象になり得る
スイスで州相続税が課された場合、日本では外国税額控除を検討することになります。
もっとも、外国で払った税額をそのまま日本の相続税から全額差し引けるわけではありません。
日本の相続税額のうち、その外国財産に対応する部分が上限になります。
外国税額控除の基本は、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説で詳しく解説しています。
スイス財産は日本円換算のうえ時価評価する
日本の相続税申告では、スイスの銀行口座やスイス不動産も日本円換算のうえ時価評価します。
外貨建て財産の邦貨換算
外貨建て財産は、被相続人の死亡日の対顧客直物電信買相場で日本円に換算します。
債務は対顧客直物電信売相場で換算します。
邦貨換算の詳しい考え方は、【相続税申告】 外貨建て財産、債務の邦貨換算を徹底解説をご参照ください。
海外預金の評価
海外預金は、死亡日の残高を基準に円換算して評価します。
残高証明書が死亡日ぴったりで取れない場合は、最も近い日付の証明書や取引明細で補完することがあります。
海外不動産の評価
スイス不動産は、日本の路線価方式では評価できません。
現地鑑定評価や売買実例をもとに、日本の相続税の時価として整理する必要があります。
詳しくは、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
スイスの銀行秘密より、現在は情報交換制度の方が重要である
現在のスイス相続で重要なのは、銀行秘密よりも自動的情報交換です。
スイスの銀行口座情報は、一定の条件のもとで日本の税務当局と共有されます。
そのため、「スイスにあるから把握されない」と考えるのは危険です。
海外財産の把握リスクは、CRS(共通報告基準)と相続、税務調査対応は国際相続の税務調査も参考になります。
スイス財産相続の生前対策
スイスに銀行口座や貸金庫がある場合は、相続発生後に家族が存在自体を知らないことが最大のリスクです。
生前に整理しておきたいこと
① 銀行名、支店名、口座番号、担当者連絡先の一覧化
② 貸金庫の有無と保管場所の共有
③ 遺言書の整備
④ 相続人が把握すべき書類の保管場所の明示
⑤ 日本側の納税資金の確保
スイス財産は、日本の相続税申告期限までに解約や送金が終わらないこともあります。
そのため、スイスの口座残高からすぐ納税できる前提で動かない方が安全です。
よくある質問(FAQ)
Q. スイスの銀行口座番号が分からない場合、調べる方法はあるか?
A. 条件を満たせば、スイス銀行オンブズマンの中央照会制度を利用できる場合があります。
ただし、対象は連絡の取れない資産や休眠資産が中心であり、すべての口座を自由に検索できる制度ではありません。
Q. スイスの相続税は全国一律か?
A. 一律ではありません。州ごとに大きく異なります。
Q. スイス側で相続税がかからないなら、日本でも非課税か?
A. そうとは限りません。日本居住者に日本の相続税の納税義務があれば、日本で相続税申告が必要です。
Q. スイスの銀行秘密があるなら日本に申告しなくても分からないのか?
A. その考え方は危険です。現在は自動的情報交換があり、情報共有が進んでいます。
まとめ
まとめ
スイス相続では、州ごとに異なる相続税と、全国共通の相続法を分けて考える必要がある。
スイス銀行口座の相続では、相続人証明書や遺言書などの書類整備が重要になる。
口座情報が不明でも、条件を満たせばスイス銀行オンブズマンの中央照会制度を利用できる場合がある。
日本居住者が相続人になる場合は、スイス側の課税有無にかかわらず日本の相続税申告を前提に動くべきである。
銀行秘密よりも現在は自動的情報交換と申告管理の方が実務上は重要である。
税理士法人トゥモローズでは、国際相続に強い税理士が、スイス銀行口座を含む相続税申告、外国税額控除、海外預金・不動産評価、必要書類の整理まで一貫してサポートしています。
「スイスの銀行口座を相続したがどこから手を付ければよいか分からない」
「スイス側と日本側の税務をどう整理すればよいか知りたい」
「銀行名が分からず資産の所在を確認したい」
という場合は、お気軽にご相談ください。
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