マレーシアの相続手続き|MM2Hと不動産の注意点
①マレーシアには現在相続税がないため日本居住者の相続では日本の相続税が中心になる
②マレーシアの相続は非イスラム教徒とイスラム教徒で適用法と手続が大きく異なる
③MM2Hの長期滞在資格は死亡後に自動承継されず個別の変更手続が必要になる
④マレーシア不動産は州ごとに外国人規制が異なるため取得制限と相続後の保有可否を確認すべきである
⑤マレーシア財産がある相続では日本の10か月申告期限から逆算して現地手続を進める必要がある
マレーシアは、マレーシア・マイ・セカンド・ホーム・プログラム(MM2H)による長期滞在や不動産投資で日本人に人気があります。
その一方で、マレーシアに財産を持つ方が亡くなった場合の相続は、日本国内の相続とは大きく異なる論点が多くあります。
相続税の有無だけでなく、イスラム相続法の適用可能性、州ごとに異なる不動産規制、長期滞在資格の取扱い、裁判所手続、銀行口座や定期預金の解除まで、複数の問題を一度に整理しなければなりません。
結論からいうと、マレーシア相続では、税金よりも「どの法体系で、どの手続で、誰に承継させるか」を事前に整理しておくことが重要です。
特に、日本人がマレーシアに不動産や銀行預金を持っている場合、日本では相続税申告が必要になり得る一方、マレーシア側では州政府や裁判所、銀行ごとの手続対応が必要になります。
この記事では、マレーシアの相続制度、日本人や在日マレーシア人が注意すべき実務、長期滞在資格との関係、不動産規制、日本の相続税との関係までを整理して解説します。
国際相続全体の進め方は、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説、準拠法の基本は国際相続があった場合の準拠法もあわせてご覧ください。
目次
- 1 マレーシアには現在相続税がない
- 2 マレーシア相続は法体系が一つではない
- 3 非イスラム教徒の相続は遺産分配法が中心になる
- 4 イスラム教徒にはイスラム相続法が問題になる
- 5 MM2Hの長期滞在資格は自動承継されない
- 6 MM2Hに関係する定期預金も相続では別途手続が必要になる
- 7 マレーシア不動産は州ごとの外国人規制を確認する必要がある
- 8 マレーシアの相続手続は遺産額と財産内容で窓口が変わる
- 9 遺言がある場合はプロベートが中心になる
- 10 遺言がない場合は保証人の確保で止まりやすい
- 11 マレーシアの銀行口座や投資信託には指名受取人制度がある
- 12 国営信託会社の活用も選択肢になる
- 13 在日マレーシア人の相続では宗教の確認が特に重要になる
- 14 マレーシアの公文書はアポスティーユ対応を前提に整理する
- 15 マレーシアの相続税がなくても日本では相続税がかかる
- 16 マレーシア財産は日本円換算のうえ時価評価する
- 17 国外財産調書も別途問題になる
- 18 海外財産は把握される前提で考えるべき
- 19 マレーシアから日本への送金も事前確認が必要
- 20 国際相続は10か月の申告期限から逆算して動くべき
- 21 よくある質問(FAQ)
- 22 まとめ
- 23 関連記事
マレーシアには現在相続税がない
マレーシアには、現在、日本のような相続税はありません。
かつて存在した遺産税は廃止されており、死亡を理由にマレーシア側で一律の相続税が課される前提ではありません。
ただし、相続税がないからといって、相続が簡単という意味ではありません。
不動産の名義変更や銀行口座の払戻しには別の手続や費用がかかりますし、日本居住者が相続人になる場合は日本の相続税申告も必要になり得ます。
また、相続で取得した不動産をその後売却する場合は、不動産譲渡益税が問題になることがあります。
取得時期や保有期間によって税率が変わるため、売却を想定する場合は事前に確認が必要です。
マレーシアに相続税がないことと、日本で申告不要であることは全く別問題です。
マレーシア相続は法体系が一つではない
マレーシア相続の大きな特徴は、適用される法体系が一つではないことです。
非イスラム教徒とイスラム教徒で、相続の考え方も手続も大きく異なります。
そのため、相続が発生したら、まず被相続人がどの法体系の対象になるのかを確認しなければなりません。
マレーシア相続で最初に確認すべきこと
① 被相続人がイスラム教徒か非イスラム教徒か
② 財産が不動産か銀行預金か会社持分か
③ 不動産がどの州にあるか
④ 遺言があるかないか
⑤ 相続人が日本居住かマレーシア居住か
非イスラム教徒の相続は遺産分配法が中心になる
非イスラム教徒には、遺産分配法が中心的に適用されます。
たとえば、配偶者と子が相続人になる場合、配偶者3分の1、子3分の2という考え方が基本です。
また、配偶者のみで子も親もいない場合には、配偶者が全部を取得する形になります。
非イスラム教徒の相続分の典型例
配偶者と子:配偶者3分の1、子3分の2
配偶者のみ:配偶者が全額
配偶者と親:配偶者2分の1、親2分の1
子のみ:子が均等に分配
日本の法定相続分と完全に同じではないため、日本の感覚で遺産分割を考えるとズレが生じることがあります。
イスラム教徒にはイスラム相続法が問題になる
イスラム教徒については、イスラム相続法の考え方が強く影響します。
イスラム相続法では、遺言で自由に処分できる範囲に制約があり、法定相続人への分配ルールも日本法とは大きく異なります。
そのため、在日マレーシア人やマレーシア国籍者の相続でイスラム教徒が関わる場合は、日本の民法の感覚だけで進めるのは危険です。
特に、日本の裁判所や実務でそのまま受け入れられるか、公序との関係でどう整理するかは、個別案件ごとに検討が必要です。
MM2Hの長期滞在資格は自動承継されない
MM2Hの資格は、保有者が死亡したからといって、配偶者や子に自動的に引き継がれるものではありません。
被相続人がMM2Hを前提にマレーシアで生活していた場合でも、死亡後に残された配偶者や家族がそのまま同じ地位で滞在を続けられるとは限りません。
一方で、登録済みの扶養家族については、主たる保有者変更などの個別手続が案内されているため、実際に継続滞在を希望する場合は最新の運用を確認する必要があります。
相続と在留資格は別制度であり、財産を相続できても長期滞在資格は別途の手続確認が必要です。
MM2Hに関係する定期預金も相続では別途手続が必要になる
MM2Hでは、一定額の定期預金をマレーシア国内銀行へ預けることが条件になることがあります。
保有者が死亡した場合、この定期預金はそのまま自由に引き出せるわけではありません。
資格管理部署への連絡、銀行での凍結・解除対応、相続人確認を経て、相続財産として処理する流れになります。
つまり、この定期預金は「ただの預金」ではなく、長期滞在資格と結び付いた預金として実務上の整理が必要です。
海外銀行口座の相続手続全般は、海外銀行口座の相続解約で失敗しない!も参考になります。
マレーシア不動産は州ごとの外国人規制を確認する必要がある
マレーシア不動産相続で最も実務上重要なのが、州ごとの外国人取得規制です。
マレーシアの土地は州政府の管轄が強く、外国人が取得できる最低価格や取得制限が州ごとに異なります。
日本の感覚で「マレーシアの不動産」と一括りに扱うと危険です。
多くの州では外国人取得の最低価格が設定されていますが、その金額や例外は州ごとに異なり、改定されることもあります。
そのため、相続の時点でも最新基準の確認が必要です。
相続による取得は購入規制と別に考える必要がある
相続で不動産を取得する場合は、通常の購入制限とは別の扱いになることがあります。
しかし、相続で取得できることと、その後も自由に保有できることは同じではありません。
特に、マレー保留地やブミプトラ枠の物件のように、外国人保有が制限される類型では、相続後に売却や別対応が必要になる場合があります。
マレーシア不動産は「相続で取得できるか」だけでなく、「取得後に保有し続けられるか」まで確認すべきです。
マレーシアの相続手続は遺産額と財産内容で窓口が変わる
マレーシアの相続手続は、遺産総額や財産内容によって扱う窓口が変わります。
遺産額や財産内容による主な区分
不動産がなく動産のみで一定額以下:小規模遺産向けの手続が問題になることがある
それ以外:高等裁判所でのプロベートや遺産管理命令が問題になることが多い
つまり、銀行預金だけの案件と、不動産が絡む案件では、進め方がかなり変わります。
遺言がある場合はプロベートが中心になる
マレーシア法上有効な遺言がある場合は、裁判所でのプロベート手続が中心になります。
遺言があるから直ちに名義変更や払戻しができるわけではなく、裁判所から正式な証明を得る流れが必要です。
実務上は数か月から1年程度かかることもあり、日本の相続税申告期限との兼ね合いで早期着手が重要です。
各国のプロベート制度の比較は、プロベートとは?国別の費用・期間・手続きを徹底比較もご参照ください。
遺言がない場合は保証人の確保で止まりやすい
遺言がない場合は、遺産管理命令の取得が問題になります。
この場面では、保証人が必要になることがあり、ここで手続が止まるケースが少なくありません。
日本人にとっては、マレーシアで信頼できる保証人を確保すること自体が高いハードルになることがあります。
このため、マレーシアに財産がある日本人については、現地で使える形式の遺言を生前に用意しておく方が圧倒的に有利です。
国際相続における英文遺言書は、国際相続で有効な英文遺言書の作成方法と注意点も参考になります。
マレーシアの銀行口座や投資信託には指名受取人制度がある
マレーシアの投資信託や一部の金融商品には、指名受取人制度があることがあります。
また、従業員積立基金などでも類似の制度が問題になることがあります。
もっとも、日本の感覚で「指名受取人=最終的な権利者」と即断するのは危険です。
金融機関実務上の受取窓口として機能しても、相続法上の最終帰属とは別に検討しなければならない場合があります。
国営信託会社の活用も選択肢になる
マレーシアには、国営の信託会社があり、遺言書の保管、遺産管理、相続実務のサポートを提供しています。
長期滞在者や外国人配偶者が関わる案件では、現地側の窓口としてこうした機関の利用可能性を調べることも有効です。
在日マレーシア人の相続では宗教の確認が特に重要になる
在日マレーシア人が亡くなった場合、日本の国際私法では被相続人の本国法が出発点になります。
しかし、マレーシア法は一つではなく、被相続人がイスラム教徒か非イスラム教徒かで適用法が変わるため、宗教確認が不可欠です。
ここを確認しないまま相続人の範囲や相続分を決めると、前提から誤るおそれがあります。
マレーシアの公文書はアポスティーユ対応を前提に整理する
マレーシアの出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書などを日本で使う場合は、翻訳や認証の整理が必要です。
日本での相続手続や税務申告に使う場合は、どの書類にアポスティーユが必要か、どこまで翻訳が必要かを整理して進めるべきです。
翻訳・公証・認証の実務は、相続で必要な翻訳・公証・認証手続きを完全解説もあわせて確認してください。
マレーシアの相続税がなくても日本では相続税がかかる
ここが最も誤解されやすい点です。
マレーシアに相続税がないからといって、日本居住者がマレーシア財産を相続したときに、日本でも非課税になるわけではありません。
日本で相続税の納税義務がある人なら、マレーシアの不動産、預金、投資信託、定期預金も日本の相続税の対象になり得ます。
マレーシア側で課税がなくても、日本側では通常どおり相続税申告が必要になることがあると理解すべきです。
この点は、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!もご参照ください。
マレーシア財産は日本円換算のうえ時価評価する
日本の相続税申告では、マレーシア財産を日本円に換算したうえで時価評価しなければなりません。
外貨建て財産の邦貨換算
外貨建て財産は、被相続人の死亡日の対顧客直物電信買相場で日本円に換算します。
債務は対顧客直物電信売相場で換算します。
邦貨換算の詳しい考え方は、【相続税申告】 外貨建て財産、債務の邦貨換算を徹底解説をご参照ください。
マレーシア不動産の評価
マレーシア不動産は、日本の路線価方式や倍率方式では評価できません。
現地鑑定評価や売買実例をもとに、日本の相続税の時価として整理する必要があります。
この点は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
国外財産調書も別途問題になる
マレーシアに不動産や定期預金、銀行口座を持っている場合、国外財産調書の提出義務が生じることがあります。
年末時点で国外財産が一定額を超える場合は、毎年の提出義務を確認しなければなりません。
相続案件では、被相続人が生前に国外財産調書を出していたかどうかも確認ポイントになります。
国外財産調書の基本は、国外財産調書制度を徹底解説!をご参照ください。
海外財産は把握される前提で考えるべき
マレーシアの金融口座情報は、CRS(共通報告基準)により日本の税務当局に共有される仕組みがあります。
そのため、マレーシア財産の申告漏れは以前より発見されやすくなっています。
「マレーシアには相続税がないから日本でも分からない」と考えるのは危険です。
詳しくは、CRS(共通報告基準)と相続をご参照ください。
マレーシアから日本への送金も事前確認が必要
マレーシア財産を日本へ送金する場合は、外貨管理や税務書類の提出が問題になります。
特に、不動産売却代金や一定額以上の預金については、銀行手続や証明資料が必要です。
相続が終わればすぐ自由に日本へ送金できると考えない方が安全です。
マレーシアでの手続を日本から進める場合は、委任状を使う場面もあります。
海外に行かずに手続きを進める考え方は、海外在住で日本の相続|帰国しないで遺産を受け取る方法も参考になります。
国際相続は10か月の申告期限から逆算して動くべき
マレーシアの相続では、銀行手続、裁判所手続、翻訳、公証、認証、不動産評価などに時間がかかります。
一方で、日本の相続税申告期限は原則10か月です。
そのため、マレーシア側の手続が終わるのを待ってから日本の申告準備を始めるのでは遅くなることがあります。
マレーシア財産がある相続では、相続開始後すぐに現地手続と日本の申告準備を同時進行で進めるべきです。
よくある質問(FAQ)
Q. マレーシアには相続税がないなら、日本でも税金はかからないのか?
A. かかることがあります。日本の相続税の納税義務があれば、マレーシア財産も日本の相続税の対象になります。
Q. MM2Hの長期滞在資格は家族に引き継げるのか?
A. 自動的には引き継がれません。状況に応じて主たる保有者変更などの手続が問題になるため、死亡後は最新の運用確認が必要です。
Q. マレーシア不動産は相続で取得できればそのままずっと持てるのか?
A. 必ずしもそうではありません。州ごとの外国人規制や物件の種類によって、保有継続に制約がかかる場合があります。
Q. 遺言がない場合でも手続できるか?
A. できますが、遺産管理命令や保証人の問題で大きく遅れることがあります。現地で使える遺言を作成しておく方が安全です。
まとめ
まとめ
マレーシア相続では、相続税の有無よりも、適用法、州ごとの不動産規制、現地手続の違いを理解することが重要である。
非イスラム教徒とイスラム教徒では適用法が異なり、相続分や手続も変わる。
MM2Hの長期滞在資格は相続とは別問題であり、死亡後に自動承継されるものではない。
マレーシアに相続税がなくても、日本の納税義務があれば日本の相続税申告が必要になる。
遺言、財産目録、現地専門家、納税資金の確保を生前から整理しておくことが実務上最も重要である。
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「マレーシア財産を日本の相続税でどう扱うか分からない」
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という場合は、お気軽にご相談ください。
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