在日ブラジル人の相続手続き|ITCMDと日本の申告
①ブラジルには州税としてITCMDがあり相続や贈与に課税される
②在日ブラジル人の相続ではブラジル法と日本法のどちらが準拠法になるかが重要になる
③ブラジルは複数国籍を認めているため二重国籍が相続税の納税義務判定に影響し得る
④ブラジルの相続では遺産目録手続が中心となり日本より時間がかかりやすい
⑤日伯間に相続税条約はないため日本では外国税額控除の検討が重要になる
日系ブラジル人を中心に、日本には大きなブラジル人コミュニティがあります。
製造業が盛んな地域を中心に長年定着しており、日本で不動産や預金を持つ方も少なくありません。
そのため、在日ブラジル人の相続では、日本国内の財産だけを見ればよいわけではなく、ブラジル本国の相続制度、二重国籍、ブラジル側の納税者番号、海外送金、現地の相続手続まで一体で考える必要があります。
結論からいうと、ブラジル相続では、相続税の有無だけでなく、準拠法、夫婦財産制、裁判手続、ブラジル側の税務を同時に整理することが重要です。
特に、日本に住んでいたブラジル国籍者が亡くなった場合は、日本法が問題になる可能性がある一方、ブラジル側では州税であるITCMDや遺産目録手続が別途問題になります。
この記事では、ブラジルの相続制度、在日ブラジル人相続の実務、二重国籍の問題、日本とブラジル双方の税務、ブラジル不動産や銀行口座の手続までを実務目線で整理して解説します。
国際相続の全体像は、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説、準拠法の基本は国際相続があった場合の準拠法もあわせてご覧ください。
目次
- 1 ブラジルには州税としてITCMDがある
- 2 ブラジル法では配偶者と子の関係が相続で非常に重要になる
- 3 夫婦財産制が相続分と日本の相続税計算に影響する
- 4 在日ブラジル人の相続では日本法が問題になることがある
- 5 ブラジルは複数国籍を広く認めている
- 6 ブラジルの公的書類は日本の戸籍と感覚が違う
- 7 ブラジルの相続手続は遺産目録手続が中心になる
- 8 CPFはブラジル相続実務の要になる
- 9 ブラジルの銀行口座は日本からでも代理対応が必要になることが多い
- 10 ブラジル不動産の名義変更にはITCMD納付証明が必要になる
- 11 ブラジル側でも海外送金の説明資料が必要になる
- 12 ブラジル財産は日本の相続税の対象になり得る
- 13 ITCMDは州によって海外財産課税の扱いが分かれることがある
- 14 ブラジル財産は日本円換算のうえ時価評価する
- 15 海外財産は把握される前提で考えるべき
- 16 国際相続は10か月の申告期限から逆算して動くべき
- 17 よくある質問(FAQ)
- 18 まとめ
- 19 関連記事
ブラジルには州税としてITCMDがある
ブラジルには、相続・贈与にかかる州税としてITCMD(Imposto sobre Transmissão Causa Mortis e Doação)があります。
日本の相続税のような全国一律の制度ではなく、州ごとに税率や制度運用が異なります。
そのため、ブラジル財産がある相続では、「どの州の財産か」を確認しないと正確な税額が読めません。
ブラジルの相続・贈与税の基本
税目:ITCMD
課税主体:州
税率:州ごとに異なる
上限:連邦上院決議により8%が上限
たとえば、サンパウロ州は2026年4月時点では4%の単一税率です。
ただし、2023年の憲法改正(EC 132/2023)により、すべての州で累進税率の導入が義務化されました。サンパウロ州でも累進税率への移行法案が審議されており、今後税率が上がる可能性があります。
リオデジャネイロ州では既に累進的に税率が上がる仕組みがあります。
したがって、「ブラジルの相続税はいくらか」という問いに全国一律の答えはなく、死亡時点の州法を確認する必要があります。
ブラジル法では配偶者と子の関係が相続で非常に重要になる
ブラジル民法に基づく法定相続では、相続順位と夫婦財産制の組み合わせが大きく影響します。
ブラジルの法定相続の基本順位
第1順位:卑属(子・孫)と配偶者
第2順位:尊属(親・祖父母)と配偶者
第3順位:配偶者単独
第4順位:4親等までの傍系血族
ただし、配偶者が常に同じ割合で相続するわけではありません。
夫婦財産制によって、生存配偶者がまず共有財産の半分を自分の財産として確保し、その残りだけが相続財産になる場合があります。
ブラジル相続では、法定相続分だけでなく、婚姻時にどの夫婦財産制を選んでいたかの確認が必須です。
夫婦財産制が相続分と日本の相続税計算に影響する
ブラジル民法では、婚姻時に複数の夫婦財産制から選択できます。
ブラジルの主な夫婦財産制
① 部分的共有制:婚姻後に取得した財産のみ共有
② 完全共有制:原則として全財産が共有
③ 完全別産制:各自の財産を分離
④ 最終別産制:婚姻中は別産、離婚や死亡時に清算
婚前契約がない場合は、部分的共有制が基本になります。
この場合、婚姻後に取得した財産の半分は生存配偶者の持分として整理され、残りが相続財産になります。
この仕組みは、日本の相続税の課税価格にも影響します。
つまり、日本の申告でも「どこまでが被相続人の財産か」をブラジル法の夫婦財産制まで踏まえて整理しなければなりません。
在日ブラジル人の相続では日本法が問題になることがある
日本の国際私法では、相続は原則として被相続人の本国法によります。
そのため、ブラジル国籍の方が亡くなった場合、まずはブラジル法が出発点になります。
しかし、ブラジルの国際私法では、相続は被相続人の住所地法を出発点として考える建て付けです。
そのため、日本に住所を置いていたブラジル国籍者については、日本法が問題になる可能性があります。
つまり、在日ブラジル人の相続では、本国法だから常にブラジル法になるとは限らず、日本法が準拠法として問題になることがあります。
ただし、ブラジル憲法5条XXXIは、ブラジル所在の財産について、ブラジル法の方がブラジル人配偶者や子に有利な場合はブラジル法を適用するという規定を置いています。
そのため、ブラジル国内財産やブラジル人配偶者・子との関係では、この憲法規定も含めた個別確認が必要です。
ブラジルは複数国籍を広く認めている
ブラジルは、複数国籍を広く認めています。
そのため、日本とブラジルの双方にルーツを持つ方では、二重国籍が問題になることがあります。
在日の日系ブラジル人の相続では、この二重国籍が日本の相続税の納税義務判定に影響する可能性があります。
日本の相続税では、日本国籍を有する者として判定されるかどうかが、全世界財産課税か国内財産課税かを分ける重要な要素になるからです。
国籍と納税義務の関係は、二重国籍者の相続で知っておくべき5つの注意点、国際相続における相続税の納税義務の判定を徹底解説!もあわせて確認してください。
ブラジルの公的書類は日本の戸籍と感覚が違う
ブラジルの相続手続では、出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書などの公的書類が重要になります。
日本の戸籍のように一つの体系で全関係が整理される感覚とは異なり、必要書類を個別に集める必要があります。
在日ブラジル人や日本在住の相続人の場合、ブラジル総領事館で取得や確認ができる書類もありますが、日本で使うには翻訳や認証の整理が必要です。
翻訳・公証・認証の実務は、相続で必要な翻訳・公証・認証手続きを完全解説も確認してください。
ブラジルの相続手続は遺産目録手続が中心になる
ブラジルの相続手続では、遺産目録手続が中心になります。
よく「ブラジルの相続は裁判手続が原則」と説明されますが、現在は必ずしもそうではありません。
相続人全員が成人で合意しており、争いがないなどの条件を満たす場合には、公証人による裁判外手続も可能です。
ブラジル相続の主な進め方
① 裁判上の遺産目録手続:争いがある場合や要件を満たさない場合
② 公証人による裁判外手続:相続人全員が成人で合意している場合など
裁判手続では1〜2年程度、公証人による手続でも数か月単位で時間がかかることがあります。
日本の相続税申告期限が10か月であることを考えると、ブラジル側の手続完了を待ってから日本の申告準備を始めるのでは遅いです。
各国のプロベート制度との比較は、プロベートとは?国別の費用・期間・手続きを徹底比較も参考になります。
CPFはブラジル相続実務の要になる
ブラジルの相続手続では、被相続人の納税者番号(CPF)が極めて重要です。
銀行口座の解約、不動産の名義変更、ITCMDの申告など、ほぼすべての場面で必要になります。
在日ブラジル人の場合、総領事館を通じて確認や再発行が可能なことがあります。
ブラジル財産がある相続では、最初にCPFの有無を確認しないと、その後の手続が止まりやすいです。
ブラジルの銀行口座は日本からでも代理対応が必要になることが多い
ブラジルの銀行口座を日本から解約・払戻しする場合、現地の弁護士や代理人に委任するのが一般的です。
そのため、委任状をブラジル総領事館で認証し、現地側で口座解約を進める流れが問題になります。
口座解約そのものよりも、代理権限の整備、必要書類の翻訳、銀行ごとの要件確認に時間がかかることが多いです。
海外銀行口座の実務は、海外銀行口座の相続解約で失敗しない!も参考になります。
ブラジル不動産の名義変更にはITCMD納付証明が必要になる
ブラジルの不動産登記は、不動産登記所で管理されています。
相続による名義変更には、遺産目録手続の書類とともに、ITCMDの納付証明が必要になるのが通常です。
つまり、ブラジル不動産相続では、税務手続と登記手続が切り離せません。
先に税務を整理しなければ名義変更に進めない構造です。
さらに、農地については外国人による取得制限が別途問題になるため、相続で取得した後にそのまま保有できるかどうかも確認が必要です。
ブラジル側でも海外送金の説明資料が必要になる
日本で相続が発生し、ブラジル在住の相続人へ送金する場合、送金の根拠資料が必要になります。
日本の金融機関から国外送金等調書が提出されるだけでなく、ブラジル側でも相続で受け取った資産であることを説明できるようにしておく必要があります。
遺産分割協議書、相続税申告書の控え、送金関連資料は必ず保管すべきです。
ブラジル財産は日本の相続税の対象になり得る
ブラジルでITCMDが課されたとしても、日本居住者が相続人で、日本の相続税の納税義務がある場合は、日本でも相続税申告が必要です。
つまり、ブラジルで税金を払ったから日本では終わり、にはなりません。
日本では、日本のルールでブラジル財産を評価し、日本円換算し、必要なら外国税額控除を検討します。
日伯間に相続税条約はないため、二重課税調整は日本の外国税額控除を中心に考えることになります。
外国税額控除の仕組みは、相続税の外国税額控除をわかりやすく徹底解説をご参照ください。
ITCMDは州によって海外財産課税の扱いが分かれることがある
ブラジルのITCMDは州税であるため、州によって海外財産への課税取扱いに差が生じることがあります。
なお、2026年に施行された補充法(LC 227/2026)により、海外所在財産へのITCMD課税について連邦レベルでの法的根拠が整備されましたが、各州が個別に州法を改正しなければ実際の課税は始まりません。
今後の各州の対応を注視する必要があります。
ブラジル財産は日本円換算のうえ時価評価する
日本の相続税申告では、ブラジル財産を日本円に換算したうえで時価評価しなければなりません。
外貨建て財産の邦貨換算
外貨建て財産は、被相続人の死亡日の対顧客直物電信買相場で日本円に換算します。
債務は対顧客直物電信売相場で換算します。
邦貨換算の詳しい考え方は、【相続税申告】 外貨建て財産、債務の邦貨換算を徹底解説をご参照ください。
海外不動産の評価
ブラジル不動産は、日本の路線価方式や倍率方式では評価できません。
現地鑑定評価や売買実例をもとに、日本の相続税の時価として整理する必要があります。
この点は、海外不動産の相続税評価の方法と注意点をご参照ください。
海外財産は把握される前提で考えるべき
ブラジルの金融口座情報は、CRS(共通報告基準)により日本の税務当局に共有される仕組みがあります。
そのため、ブラジル財産の申告漏れは以前より発見されやすくなっています。
「ブラジルだから分からない」と考えるのは危険です。
海外財産は、最初から把握される前提で正しく申告する方が安全です。
この点は、CRS(共通報告基準)と相続もご参照ください。
国際相続は10か月の申告期限から逆算して動くべき
ブラジルの相続では、公的書類の取得、翻訳、公証、遺産目録手続、税務申告、送金手続などに時間がかかります。
一方で、日本の相続税申告期限は原則10か月です。
そのため、ブラジル側の手続が終わるのを待ってから日本の申告準備を始めるのでは遅くなることがあります。
ブラジル財産がある相続では、相続開始後すぐにブラジル側手続と日本の申告準備を同時進行で進めるべきです。
スケジュール管理の全体像は、国際相続スケジュール|発生から申告まで時系列で解説をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 在日ブラジル人が日本の不動産を持っている場合、ブラジルでも申告が必要になるのか?
A. 州によっては海外財産への課税取扱いが論点になることがあります。ブラジル側の州法確認が必要です。
Q. ブラジルの銀行口座を日本から解約できるか?
A. できますが、委任状の認証や現地代理人の関与が必要になるのが一般的です。数か月かかることもあります。
Q. 二重国籍だと日本の相続税で有利になるか?
A. 一概に有利とはいえません。日本国籍を有していることで、日本の納税義務判定に影響することがあります。
Q. ブラジルのITCMDを払えば日本の相続税は終わるのか?
A. 終わりません。日本の納税義務があれば、日本でも相続税申告を行い、必要に応じて外国税額控除を検討します。
まとめ
まとめ
ブラジル相続では、ITCMD、準拠法、二重国籍、遺産目録手続を一体で整理する必要がある。
在日ブラジル人の相続では、日本法が準拠法として問題になる可能性がある一方、ブラジル側の手続と税務も残る。
ブラジル財産は、日本の相続税でも課税対象になり得るため、日本の申告期限を基準に逆算すべきである。
銀行口座や不動産の処理には、CPF、委任状、翻訳、公証、現地代理人の確保が重要である。
日伯間に相続税条約はないため、日本では外国税額控除を軸に二重課税を調整することになる。
税理士法人トゥモローズでは、国際相続に強い税理士が、ブラジル財産を含む相続税申告、準拠法の整理、海外不動産評価、必要書類の確認まで一貫してサポートしています。
「ブラジル財産を日本の相続税でどう扱うか分からない」
「ブラジルの銀行口座や不動産の手続をどう進めるべきか知りたい」
「二重国籍や準拠法の問題を整理したい」
という場合は、お気軽にご相談ください。
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